反ワクチン派のチラシで接種を取りやめコロナ罹患 配布者は罪に問われる?
新型コロナワクチンを巡り、反ワクチン派が接種会場周辺などで危険性を訴えるチラシ配りをしている。内容に誤りがあるとも指摘されているが、もし信じて接種をやめた高齢者らが罹患、死亡したら、罪に問えるか――。
「インスリンは毒」事件もあるが…
この点、2015年に、難病治療を語る自称祈祷師の男が、1型糖尿病を患った男児の親に対して「インスリンは毒」などと働きかけて投与をやめさせ、非科学的な祈祷により男児を死亡させた事件があった。
最高裁は2020年8月、男に「未必的な殺意」に基づく殺人罪が成立するとし、無罪を主張する男の上告を棄却した。
ただ、男児にはインスリンを投与しなければ死亡するという現実的な危険性があり、男もこれを認識していた。その上で、医学的根拠がないのに、「指導に従わなければ助からない」と脅しめいた言葉まで交えていた。
かなり特殊な事案であり、今回のケースとは趣を異にする。
「エホバの証人」輸血拒否事件は?
1985年には、ダンプカーに接触して重傷を負った男児の両親が、信仰する「エホバの証人」の教義に従って男児への輸血を拒否した結果、男児を出血多量で死亡させた事件もあった。
両親を殺人罪や保護責任者遺棄致死罪などに問えないか問題となったが、立件が見送られている。監察医の鑑定で「輸血されたとしても必ずしも生命が助かったとはいえない」とされたからだ。
新型コロナのワクチンも、発症リスクや重症化リスクを100%予防できるものではないから、接種しないことと罹患や死亡との因果関係の立証は不可能だ。
全体に占める割合こそ少ないものの、現実に強い副反応が出た接種者もいるので、接種しないという選択肢を与えることが殺人や傷害などの実行行為と評価できるかについても疑念が残る。
正確な情報に基づく判断を
結局、反ワクチン派の活動を殺人罪や傷害罪などに問うことはできないだろう。
とはいえ、メリット、デメリットの一方だけに偏らず、医学的に正確な情報が公平に示されなければならないことは言うまでもない。どちらの立場であっても、無責任なデマ情報で困惑させるのは問題だ。
予防接種法には「接種を受けるよう努めなければならない」という規定があるが、接種するか否かは本人が納得した上で決定すべき話であり、その判断材料が重要となるからだ。(了)