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「オッペンハイマー」ようやく公開が決まり、C・ノーラン監督「日本の人に観てもらうことは正しい判断」

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(c)Melinda Sue Gordon/Universal Pictures

2023年の7月に世界各国で公開され、北米では年間の興行収入ランキングで5位という大ヒットを記録した『オッペンハイマー』。来たるアカデミー賞に向けても、作品賞の本命のひとつとの評判だが、日本での劇場公開は待たされ続けていた。

1945年、広島と長崎に投下された原子爆弾。その開発に中心的に携わった物理学者、J・ロバート・オッペンハイマーを主人公にした映画とあって、日本で公開されるべきかどうかが論議の的になり、さらに同時期公開の『バービー』と併せて、「バーベンハイマー」という造語が作られ、原爆のイメージが軽々しく使われたことで炎上騒動にも発展。しかしようやく『オッペンハイマー』の日本での劇場公開が決まり、そのニュースも注目を集めた。

この日本公開の件について、『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン監督がコメントした。

12/20(日本時間)、『オッペンハイマー』のグローバル(世界向け)のオンライン会見が行われ、ノーラン監督、オッペンハイマー役のキリアン・マーフィー、キャストのエミリー・ブラントロバート・ダウニーJr.らが参加。いくつもの質疑が交わされるなか、『オッペンハイマー』を日本の観客がようやく観られることについて、クリストファー・ノーラン監督へ質問がなされた。

記者会見の時間は約30分と短めだったにもかかわらず、この質問が取り上げられたということは、『オッペンハイマー』が原爆の甚大な被害を受けた日本でどのように受け入れられるのか、また、なかなか公開が決まらなかったことについて、世界的な注目が高いからか。そんなことも伝わってきた。

ノーラン監督は次のように答えた。

この映画にずっと興味を持ち続けていた日本の方々に、ようやく観てもらえる機会が訪れてうれしく思います。同時に、(配給の)ユニバーサルがこの作品に関しての日本でのセンシティヴな感覚に留意し、注意深いアプローチを試みてくれたことに感謝します。『オッペンハイマー』は日本以外のすべての国で上映されました。その評判を聞いて、日本の人たちも観たいという思いを募らせ、こうして上映が決まったことは正しい判断だと感じます。来年(2024年)、そのチャンスを受け止めてください

基本的に当たり障りのない内容ながら、このノーランのコメントから、ユニバーサル・ピクチャーズが日本での公開について、さまざまな逡巡、議論を経ていたことが察せられる。通常、ユニバーサルの映画は日本では東宝東和が配給するのだが、この『オッペンハイマー』はビターズ・エンド(『パラサイト 半地下の家族』や『ドライブ・マイ・カー』を手がけた会社)が日本での配給を手がけることになった。そこまで紆余曲折があったことも想像させられる。

2023年7月、『オッペンハイマー』ロンドンプレミアでのクリストファー・ノーラン監督
2023年7月、『オッペンハイマー』ロンドンプレミアでのクリストファー・ノーラン監督写真:REX/アフロ

ロバート・オッペンハイマーと原爆の関係について、この会見でノーラン監督が話したことを付け加えておこう。オッペンハイマーのどこに惹かれ、その多層的な部分について、どのように向き合ったのか。核心的な質問に、彼はこう答えた。

私は人間くさく、欠陥のあるキャラクターに惹かれ、映画の題材にしてきました。バットマンの映画を撮ったことは意外に思われるかもしれませんが、スーパーヒーローの中でバットマンは矛盾や葛藤を抱えた、最も“人間らしい”キャラクターです。そしてこれまで描いてきた主人公たちは、皆それぞれ違った側面を持っていました。オッペンハイマーに関しては、彼が公の場で発言したことと、本心からの行動が必ずしも一致していない部分に魅せられました。

原爆が使われたことについて彼は、自分の感情から一切の謝罪をしていません。決して言い訳をしなかったのです。科学としての成功に関してオッペンハイマーは大きな役割を果たしましたが、1945年以降、その発明が世界の未来を大きく変え、罪悪感を生み出し、どう対処されたのか……。そこには映画の主人公として強力な要素が備わっていると、私は感じたのです」

『オッペンハイマー』は2024年に日本で公開される。その時期は近々アナウンスされるはずだ。そしてアカデミー賞授賞式は3月10日(現地時間)に行われる。

日本への原爆投下後、オッペンハイマーは一時、アメリカで歴史的な英雄と祭り上げられるが……。(c)Melinda Sue Gordon/Universal Pictures
日本への原爆投下後、オッペンハイマーは一時、アメリカで歴史的な英雄と祭り上げられるが……。(c)Melinda Sue Gordon/Universal Pictures

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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