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旧統一教会問題の与党救済法案の効果が薄く、限定的とみる理由 野党法案は否決 被害者の声は届かず

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

元信者として、過去に旧統一教会を相手に裁判をしてきた実体験の大変さから、衆議院で可決された、与党法案における救済の効果は薄く、限定的とみています。その理由については最後にお話しします。

12月5日衆議院本会議で、自民、公明、国民民主から出された与党案「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律案に対する修正案」は可決され、立憲・維新からの野党案「解散命令の請求等に係る宗教法人の財産の保全に関する特別措置法案」は否決されました。

立憲・維新の包括的財産保全の法案が否決されたことについて、全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣弁護士は「被害者救済に最も実効性のある要(かなめ)の法案だと思っておりましたので、大変残念です。これが欠けたということで、今後の被害者救済に大きな不安を感じる」と話します。

財産保全の在り方を含めての検討の法案修正

先立って開催された衆院法務委員会にて、自由民主党の柴山昌彦議員は、与党案の修正点の一つに「(附則に)検討状況の内容について、財産保全の在り方を含めてこの法律の規定について検討を加えるものとする」をあげています。

立憲民主党の西村智奈美は「この附則の修正案ですと、法施行後3年を目途にと、随分、悠長な構えだなと見えるわけです。多額の財産の散逸や、隠匿の兆候があったり、実際にそれが行われたりした場合においては、施行後3年と言わずに、例えば1週間であっても1ヶ月、半年であっても必要があれば、財産保全に向けた法制上の措置を講ずることに向けての検討に入るということは、必要だと思っておりますけれども」との質問をします。

柴山議員は「附則第6条の規定に基づき、この法律の施行の状況等を勘案した結果、具体的に検討するべき課題が生じた場合においては、3年を待たずに財産保全の在り方を含めこの法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他、所要の措置を講ずることとなります。ただし、今の段階で、対応の時期をお答えすることは差し控えます」と話します。

「3年もかからず、実務で結果が出ると思う」との弁護士見解

この点について、阿部弁護士は「与党案における民事保全法の制度ではかなり、被害救済が難しいところがある」とした上で「今回の附則に、法律の施行状況を勘案して3年以内を目途に財産保全のあり方も含めて検討するが入りました。民事保全法で(の救済が)不十分だというのは、3年もかからず、実務で(難しいとの)結果が出るものと思います。そういう時に、果たして包括的な財産保全の法整備が改めて検討していただけるのか」と疑問を口にします。

そこで「『包括的な財産保全の検討の在り方』という文言をきちんと入れていただいたほうがいいと思います。通常、財産保全ということであれば、会社法に言う包括的なものを指すとは思いますけれども、本日の答弁だと非常に曖昧な形になっていますから」と言います。

「残念というよりも怒りを感じます」と被害者家族

被害者家族の中野容子さん(仮名)は「野党案が否決されたことは、残念というよりも怒りを感じています。与党の法案はダメというわけではなく、被害者の救済をある程度、やりやすくするものでしかなくて、国が、積極的に被害を受けた人たちを救済するというものではないからです」と話します。

また「自ら裁判を起こせない立場に置かれている2世の方などは、絶望的な気分になるんじゃないかと思っています。そんなことでいいんでしょうか」と危惧を口にします。

被害者家族の橋田達夫さんは「財産保全法案が成立しなかったことは、本当に残念でなりません。組織性、悪質性、継続性のある団体ですから、今でも財産隠しはやっているのではないかと思います。もしそれが発覚すれば(すぐにでも)財産保全を検討していただきたい」と強く話します。

被害者へのメンタルケアが不十分な状況では、実効性に疑問符

与党法案では、被害者自身が民事保全法で教団の財産を仮差し押えするわけですから、個人対教団の構図で戦うことになります。しかも教団は、過去に元信者(被害者)や被害救済をする弁護士をサタンとみて、攻撃をしてきています。そうした相手に対して、勇気をもって手をあげてくれる方がどれだけいるのか。現状では極めて少ないのではないかと思います。


何より、マインドコントロールが解けて、精神状態が不安定な人たちにどうやって、民事保全の裁判をさせていくつもりなのでしょうか。

メンタルケアについて、法案の審議のなかでも出ていましたが、法務省からは「霊感商法ダイヤルに寄せられた心の健康や心の悩みに関する相談に対しまして、よりそいホットライン、精神保険福祉センターなどを紹介している」との話でした。

具体的にどのような改善につながっているのでしょうか。それがはっきりとしていません。

教団名を隠した「未証し勧誘」により、教義を知らぬ間に教え込まれた信者らが脱会して、元の自分に戻るまでにはフラッシュバックなどがあり、相当な期間を要します。何より旧統一教会問題のメンタルケアは、元信者でないと理解できないところも多くあります。そうした方々の知見をしっかりうけて、改善につながったケースはどのくらい報告されているのでしょうか。

ましてや裁判では、個人対旧統一教会をしなければならないわけで、さらなる心のケアが必要となります。それが70代、80代の高齢者であることも考えられますが、その心と身を守る対応は十分になされているのでしょうか。
もし誹謗中傷を受けた時には、警察は対応を適切にしてくれるのでしょうか。まったくもってすべてが不透明です。

旧統一教会との裁判をしてきた経験から、極めて厳しい立場に追いやられる

私自身、元信者らとともに1999年に旧統一教会を相手に「違法伝道訴訟」の裁判を起こしました。いわゆる、教団名を隠した勧誘(未証し勧誘)の違法性を問うものでした。
その時、自分自身が教団内で経験してきた過去に向き合わなければなりません。嫌な出来事も思いださなければならないのです。

その経験からいえるのは、もしかすると裁判を起こした時に、当時に刷り込まれた恐怖心が出てきて、教団に戻ってしまう人もいるかもしれません。そうならないような心のケア態勢は整える必要があります。
法テラスを充実させる法整備とともに、心のケアの態勢をしっかりさせることこそ、必要なのではないでしょうか。

何より裁判を起こせば、それを知った一部の現役信者らが、それをサタン的行動とみて、本人のところに止めにやってくることが絶対にないとはいえません。本当に公的機関、周りの被害者家族、元信者のサポートなどがなければ、裁判などできないことです。

「被害者づら」の指摘にも耐えなければならない

私の時の裁判では、信者らが多くの席を埋め尽くして、傍聴席から信者と思しき人物からため息をつかれたり、「お前だって、同じことをしていたじゃないか」と被害者づらしやがってといったような言葉を投げかけられたりしたこともあります。
この問題が起きて、教団関連の記事を書いた時にも、心ない書き込みもありました。これは、多くの元信者らが経験していることだと思います。

民事保全の裁判は非訟事件(非公開の裁判)と聞いていますので、面と向かって裁判で言葉を浴びせられる心配はないかもしれませんが、もしかすると近所に住む信者から、私がうけたような言葉を投げられることもあるかもしれません。こうしたことも想定しておく必要もあります。

これら一つ一つの困難に対して、裁判をしている長きにわたり、個人で耐えなければならないのです。被害を受けて、さらに心に傷をうけることにもなりかねないわけで、金銭的に困っている被害者への法テラスの充実は必要だと思うところもありますが、通常の被害者が行う裁判とは違うという認識をもっての観点が大きく欠けています。

このことから、裁判の現実を知る者として、心のケア態勢が充分でない状況もあり、被害者が民事保全の裁判を起こすことは、かなり難しいだろうとの思いを持っているわけです。

阿部弁護士が話すように「3年もかからず、実務で(難しいとの)結果が出る」ことになると思います。施行後すぐに、立憲・維新が提案したような財産保全の必要性がみえてくることになると思いますので、その時、すぐに対応できるようにしておく必要もあります。


「参考人として弁護士、被害者の方をぜひ国会に呼んでいただきたい」


この後、参議院にて審議がなされますが、阿部弁護士は「参議院でお願いしたいのが、参考人として弁護士、被害者の方をぜひ国会に呼んでいただいて、被害者の声、弁護士の声をきちんと正式な国会の記録として残していただきたいということです。現在の法案を少しでも次の包括的な財産保全、被害者救済につながるような、参議院での修正をしていただければありがたい」と言います。

被害者の声を遠ざけた、被害者救済法はありません。まずはその声をしっかり聴くことから、今後、何が必要なのかが、見えてくるはずです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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