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1億7千万円超のSNS型詐欺 過去の投資成功体験がアダに 金融犯罪の情報共有の不徹底が被害を広げたか

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

SNSを通じての投資詐欺は深刻な状況です。山田さん(仮名・50代女性)は、すべての資産を奪われて、1億7千万円を超える被害に遭っています。

これまでに延べ100人以上のSNS型投資詐欺の被害者から聞き取りをしてきましたが、彼女の被害は最高額です。しかし9月末現在、警察に被害届をうけてもらえず、表に出てきていない被害です。こうしたケースがどれほどあるのでしょうか。

取材をするなかで銀行、仮想通貨交換所の間では、不正口座や不正アカウント、不審な入出金に関する十分な情報共有がなされていない実態も浮き彫りになっており、簡単に犯罪グループにマネーロンダリングを許し多額の犯罪収益を手にさせてしまっています。今のままの状況が続けば、金融取引への信頼が瓦解してしまうことになりかねません。

被害に遭った山田さんは、さらなる不安を吐露します。

「この先、5000万円ほどの税金がくることになっていて、払わなければなりません」

途方にくれた様子で話します。これはどういうことでしょうか。

Instagramで友達になった韓国人男性に誘われて…

きっかけは2024年3月初め、山田さんがInstagramにアップしていた旅行の写真に、関心を寄せるようなメッセージがきて、40代韓国人男性と友達になったことでした。

「最初は何の仕事をしているかなど、たわいものないことを2週間ほど、LINEのメッセージのやりとりしているなかで(韓国人男性は)『仮想通貨をやったことありますか?』と尋ねてきました。私は『やったことない』と答えると『教えてあげます』といわれました」(山田さん)

当時、山田さんは大手の会社を辞めて退職金があり、投資などをしてたくさんのお金を持っていました。おそらく詐欺犯は、メッセージのやりとりを通じて資産情報を把握して、彼女に合わせた完璧な詐欺のシナリオを作り上げてだましてきたと思われます。見知らぬ相手との安易なメッセージのやりとりは危険です。

銀行口座にお金を振り込ませない詐欺の手口

山田さんは、多くの人が被害者が遭う形とは違う方法を使われました。

韓国人の男は、名の知れた国内の大手仮想通貨交換所(A社)に登録をして、30万円を入金するようにいいます。そして仮想通貨のイーサリアムを購入して、海外のBウォレットにお金を移すように指示します。ここはネットで検索しても上位に出てくるウォレットで、多くの方が利用しているところです。

通常、SNS型投資詐欺では、個人名義の銀行口座に振りこませてお金をだましとることが多いのですが、山田さんの場合、投資知識もあり、怪しまれると思ったのでしょう。

2つの正規の会社(A社とBウオレット)をかませて、詐欺への誘導をしてきたのです。

この先からが詐欺の発動です。

山田さんは男からの指示で「仮想通貨で儲けるために」ということで、Bウォレットから「WEB****」(W社)という投資サイトに、30万円分のイーサリアムを送りました。このサイトでは、USDT(テザー)で金額表示されますが、W社が、偽の投資サイトだったわけです。

山田さんは指示通りに、投資サイト内で指示通りに仮想通貨の売買をすると、日本円で6万円ほどが儲かりました。そしてW社のカスタマーセンターに連絡をして出金の手続きをすると、元本と合わせた36万円が山田さんの口座に戻ってきます。

マネーロンダリングを疑われて、アカウントは停止するが…すぐに復活

山田さんは「本当に仮想通貨は儲かるんだと思った」といいます。

信頼できる投資サイトだと思っている彼女は、1日の送金限度額200万円を繰り返してA社に振り込み、4月に入ると5000万円もの金額になっていました。

しかし、仮想通貨交換所のA社からマネーロンダリングを疑われて、アカウントが停止します。

「当時は、詐欺だとは思っていませんでしたから、お金は私の預金から出していることの証明書を提出すると、アカウントの凍結はすぐに解除されました」(山田さん)

お客が詐欺に遭っているにもかかわらず、簡単にアカウントの凍結を解除してしまう、仮想通貨産交換所の運営に甘さがみられます。

この時、アカウントが凍結されたことを山田さんが韓国人男性に話すと「仮想通貨交換所のC社の交換所も利用してみたら」といわれます。ここも、みなさんもよく知っている仮想通貨交換所です。

その後彼女は、A社ではなくC社に入金をして、これまでと同じようにBウェットを通じて、サイトへの投資を続けました。5月末までには、1億円以上を振り込み、投資サイト上の儲けを含めた金額は、約200万USDT(約3億2000万円)を超えていました。

投資サイトの3億円超のお金を引き出そうとすると…

山田さんはお金を引き出そうとします。しかしカスタマーセンターからは、出金には手数料(約7000万円)が必要だといわれます。そこで保険などを解約して、6000万円ほどを工面します。

しかし1000万円ほどが足りません。お金が払えずにいると、カスタマーセンターからは「手数料を払わないと、サービス料の3%(約5万USDT)の延滞金がかかる」という督促メールがやってきます。

さらに「悪意を持って支払いを拒否した場合、あなたの個人情報は関係部門に転送され、審査されます!法的責任を負います!あなたとあなたの家族の個人信用も影響を受けます」という脅すような文面もやってきます。

「心臓が痛くなるような日々が続きました」(山田さん)

ようやくご主人に相談して詐欺だと気づく

この状況が続くなかで、山田さんはご主人に相談して詐欺だとようやく気づきます。

「主人は驚きを隠せない様子でしたが、弁護士を必死で探してくれました」(山田さん)

2か月ほどの間で1億7千万円を超える被害となってしまったのです。

詐欺に気づくポイントはあったのでしょうか。

「仮想通貨交換所のA社が犯罪行為を疑いアカウントを停止した時かもしれません。この時、誰かに相談していれば……」(山田さん)

しかし、その状況を第三者ではなく、詐欺犯である韓国人男性に話すことで、C社に誘導されてしまっています。おそらくC社のセキュリティが、A社に比べて低かったから、そこを指示したのではないかと思っています。

「C社からは一度だけ、電話がかかってきましたが、詐欺電話も多いので取りませんでした。その後は、軽い注意喚起の定型メールがきただけです。詐欺に気づかなかった私が悪いんですが、この時、詐欺の可能性を察知していたのなら、アカウントを止めて事実確認をしてくれれば被害を小さくできたかもしれません」(山田さん)

仮想通貨交換所、銀行間のマネーロンダリング行為の情報共有の連携不足をみる

ここからみえるのは、犯罪収益の移動を簡単に許してしまう日本国内の状況です。A社は本人の申告だけでアカウント凍結を簡単に解除して、C社もに詐欺行為の状況に気づかずに、約1か月半の間に数千万円以上の取引をさせています。それに両社の間で、彼女の不自然な入出金の状況や不正アカウント情報の共有はしていなかったと思われます。

それに、銀行側の対応も問題視すべきです。

海外から国内の複数の銀行に総額1億円7千万円の送金を繰り返して、そこからA社、C社に振り込んでいますが、銀行側は2か月という短期間の不自然な多額の送金に対して、何のアラートも出していません。仮想通貨交換所、銀行間のマネーロンダリング行為への情報共有の連携不足を強く感じます。

警察に対しては、弁護士からの報告書も出していますが、被害届は受理されていません。これではマネーロンダリングし放題の国だと、海外の犯罪集団にみられてしまうことになりかねません。何とか、犯罪者に狙われない日本のありように変えていかないといけません。

過去における投資成功が、アダになる

山田さんは「自分では、投資の知識はある方だと思っていました。仕事における決断力もあり、それが仕事や株式投資においては、いい意味で発揮されてきたのですが…」と、自分自身の情けさを口にします。

仕事ができる人ほど、詐欺に遭う可能性があることを示しています。

過去における投資の成功がアダになって、山田さんは人生最大のピンチに立たされてしままいました。

山田さんは「実は1億円ほどのお金は海外株式のストックオプションを使い、給与扱いで国内の銀行に送金していたので、これから先5000万円ほどの税金がきます。詐欺に遭ってお金はなく、どうやって払っていいのかわかりません」と途方にくれた様子で話します。

海外の詐欺グループが関与している可能性が高いだけに、返金は難しい状況で、彼女の人生プランは、詐欺グループによって、めちゃくちゃにされています。

ようやく始まる「不正利用口座の情報共有に向けた検討会」

このような状況に、長く憂いを抱いていましたが、少しだけ日のさす思いがする情報が飛び込んできました。

「不正利用口座の情報共有に向けた検討会」の設置について(一般社団法人全国銀行協会)

金融機関間で不正利用口座の情報を共有する枠組みを構築するために、不正利用口座の情報共有に向けた検討会」を設置して、第1回目の検討会を開催したとのことです。

金融犯罪を許さない業界としての取り組みの一歩が踏み出されようしていることは、評価したいと思いますが、あまりにも遅すぎる思いも持っています。
これからは、その仕組みをいかに早く作るのかが問われています。今も被害が出続けており、まったなしの状況です。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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