旧統一教会の訴え棄却 有田芳生氏と弁護団は「教団の目的は達成された」と話し、反撃訴訟の提起を明言
旧統一教会が、有田芳生さんと日本テレビを名誉棄損で訴えた裁判(2200万円の請求と謝罪広告)の判決があり、東京高等裁判所は「控訴棄却」を言い渡しました。
その後「統一教会スラップ訴訟・有田芳生事件」弁護団による会見が司法記者クラブで行われて、澤藤大河弁護士は「一審の判決に続いての全面勝利です。統一教会に上告及び上告受理申立ての上訴の手段は残されているわけですが、請求棄却の判決がくつがえる可能性はまずないと思う」と話します。
高裁の棄却判決は、地裁の判決より一歩先に進んだものと評価
この裁判は、有田さんが2022年8月19日に放送された「スッキリ」(日本テレビ)の番組で「萩生田光一議員と統一教会の癒着について断ち切るべきだ」との発言のなかの「統一教会というのは、霊感商法をやってきた反社会的集団だってのは、警察庁も、もう認めているわけですから」というコメントに対して、旧統一教会が名誉棄損にあたると訴えてきました。
弁護団は、今回の控訴棄却判決について「法廷に積み上げた膨大な証拠に基づいて、有田発言の内容を真実と信じることに足りる相当な理由があることを認めて、名誉棄損の不法行為の成立を否定した」と声明のなかで述べています。
光前幸一弁護団長は「一審の判決については、統一教会の名誉や社会的評価を低下させるようなものではないことで終わっていたけれども、(高裁の判決は)一歩先に進んだ評価をしている」と話します。
有田芳生さんは「この発言をしたことに何ら間違いはないと、確信を持っている」とした上で「今日の高裁での控訴棄却の判決を取ることができたことは、統一教会(世界平和統一家庭連合)への解散命令請求への判断、つまり解散命令に結びついていく一つの役割を果たしているのではないか」とも述べます。
統一教会を批判する言論の封殺を狙った典型的なスラップ訴訟と指摘
さらに澤藤弁護士は「本件は、統一教会を批判する言論の封殺を狙った典型的なスラップ訴訟」だとも指摘します。
「統一教会はジャーナリストとして長く教団の批判をしてきた、有田さんのテレビ番組における、わずか8秒の発言をとらえて、損害賠償請求を求める訴訟を提起しました。これにより、有田さんは多くの労苦と負担を余儀なくされた上に、この提訴以来、テレビ出演の機会を一切奪われて現在に至っています。その意味で、本件訴訟は、統一教会のスラップ訴訟の目的を達成されたと言わなくてはなりません。このような事態を決して放置してはならず、必ず是正されなければならないと考えています」(同弁護士)
有田氏も「『訴えられたけれど、裁判が(勝って)終わってよかったね』と言われても、時間とお金かかって、かなりの負担になっているんですよ。そういう意味で、統一教会のスラップ訴訟は明らかなので、これで終わりにしないという決意を弁護団の皆さんとともに行いました」と力強く話します。
「『統一教会スラップ、有田事件』反撃宣言」と題した資料のなかで「スラップは、表現の自由を封殺する社会悪である。言論を萎縮せしめて国民の知る権利を侵害し、民主主義を危うくする。しかも、民事訴訟の提起という一見、正当な権利行使を装うことに格別の悪質性と根絶の困難さが潜んでいる」としています。
反撃訴訟の必要性
澤藤弁護士は「名誉棄損の損害賠償請求訴訟というのは、容易にできるんです。報道された内容やSNSでの発信の一節を引いてきて『これが私の名誉を棄損した』と書きさえすれば、訴状が作れてしまう。これに対して名誉棄損ではないことを言おうとすると、膨大な資料を提供して、これに真実性がある。あるいは真実を信じるについての相当な理由があるんだ。目的に公益性があるといったことを、情報を発信した側が徹底的に主張し立証し尽くさなければ負けてしまう。攻撃する側が容易に行えて、防御側の負担がとてつもなく大きい構造をしているわけです」と話します。
「本件では、スラップ訴訟が棄却されましたが、それが必ずしもスラップが違法であったことを意味するわけではありません。統一教会のスラップ訴訟が違法であることを確認するためには、別の訴訟を提起して、勝利判決を獲得する必要がある」(同弁護士)
スラップに対する反撃訴訟を来年に予定と明言
反撃宣言の声明のなかで「スラップを受けた当事者は、その先頭に立たねばならない。有田はその覚悟をもって統一教会スラップに反撃を開始する」と述べていますが、有田さんは会見でも「スラップと訴訟というものが(表現の自由を封殺する)社会悪として認められるように、きちんと戦わなければいけない。そのために誰かが反撃訴訟を提訴しなければならない」と決意を語ります。
来年の早い時期に、損害賠償請求訴訟の提起を考えているということです。
記者からの「統一教会の行ったスラップに対する反撃訴訟というのは今まで例はあるのですか」の質問に対して、弁護団は「有田さんが起こすものが初めてになると思う」とのことです。
真実の声をあげることを萎縮させることにつながりかねない
私自身が信者として教団にいた頃には、教義に反する言葉は口にできず、与えられる情報も、教団の思想に沿った書籍や冊子でした。教団の意向に反する思いや行動は、悪魔(サタン)的なものとされていたからです。恐怖心を煽り、徹底された情報統制のなかで多くの信者が集団生活をして、布教とお金集めの活動をさせられてきたわけです。そこには「言論の自由」も「表現の自由」もありませんでした。
その経験からみても、今回の旧統一教会が弁護士やジャーリストらに起こした裁判は、霊感商法や高額献金などの被害を受けて、声をあげた人たちに救いの手を差し伸べようとする人たちの発言を萎縮させることで、被害者らに信者時代に受けた恐怖心などを想起させて、真実の声をあげることを封殺することにもつながりかねないものです。
この反撃訴訟を通じて、これまでの旧統一教会が教団に反対する者たちに起こしてきた訴訟が、「言論の自由」や「表現の自由」を奪うようなものであったのかどうかを、私たちはしっかりと目に焼き付けておく必要があります。