目標に横合いから体当たりして撃墜、SM-3迎撃ミサイル
弾道ミサイル防衛システムのSM-3迎撃ミサイルは大気圏外で使用される非常に長大な射程を持つ広域防空兵器です。広域防空兵器は飛来する目標に対して横合いからでも命中が期待できるものであり、真正面から捉えないと当てられないということはありません。むしろ横合いから当てる能力が無いと広域防空兵器として使えないので、アメリカ軍のSM-3試験では最初期の頃から目標に対して真横の90度から突入する想定をしています。
この資料は弾道ミサイル防衛(MD)がまだ戦域ミサイル防衛(TMD)と呼ばれていた時代の海上配備型上層防衛システム(NTW)に付いてのもので、SM-3のキネティック弾頭がまだLEAP弾頭と呼ばれていた頃の1997年の計画書であり、SM-3の本格的な迎撃試験が始まる前の原形時代の試験計画です。この時代の計画では他にも幾つかの資料がありますが、水平面での交差角度は90度を想定した試験計画が基本的なものになっていました。これはさらに古い1994年の資料、LEAP弾頭を試験するための事前の環境影響評価でも確認する事が出来ます。
[PDF]Environmental Assessment: Navy Lightweight Exoatmospheric Projectile (LEAP)- DTIC(注:当時はまだSM-3は命名されておらず、SM-2 LEAPと呼称されている)
そして2002年からSM-3の本格的な迎撃試験が開始されます。この年の11月21日に行われたFM-4実験の公開画像では、迎撃弾頭自身の赤外線シーカーが目標を捉えた様子が説明されています。出典:Selected Aegis BMD Images | U.S. Missile Defense Agency
View of target just prior to impact.
「直撃を受ける直前の標的の映像」
Photo is seen from interceptor missile.
「写真は迎撃ミサイルから見えたもの」
公開画像に直接書き込まれていた説明文で分かる通り、この写真からもSM-3の迎撃弾頭は目標に対して真横に近い角度から当たりに行っていることが分かります。もしも標的ミサイルの真正面から当たりに行っているなら、このような見え方は出来ないでしょう。実際の迎撃試験で目標に真横からぶつかりに行ったのです。
広域防空兵器は目標を横合いから撃墜できる
むしろ「目標を横合いから撃墜できる性能を持つものを広域防空兵器と呼ぶ」と言った方が良いのかもしれません。この前提を踏まえて考えてみれば、秋田県や山口県に配備されたイージスアショアからでも東京を狙う北朝鮮のノドン弾道ミサイルを横合いから迎撃できることは当然のことだと理解できると思います。SM-3迎撃ミサイルにとってノドンは想定以下の速度の目標だからです。またイージスアショアには新型迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」の搭載が予定されています。現行型よりさらに高速で射程も大幅に伸びており、ノドンより大型の弾道ミサイルが相手でも対応が可能です。
そもそもイージスBMD(弾道ミサイル防衛)による日本防衛はイージスアショアのみによって行うのではありません。近い将来に日本が保有するイージス艦は8隻、イージスアショアは2基となる予定で、イージスアショアは最初から補助的な立場です。そしてイージスアショアが配備される予定の秋田と山口の中間にはイージス艦が展開する前提です。イージス艦は出港して沖合に展開し警戒任務に就くのが前提ですが、出港が間に合わなければ洋上に居る別のイージス艦ないしイージスアショアとの遠隔操作によって港内に居るイージス艦が迎撃ミサイルを発射することも可能です。この際に港内のイージス艦はレーダーを発振せずとも迎撃戦闘に参加することが出来ます。
イージスアショアはイージス艦を補佐する存在
もしもイージスアショアの位置だけを地図に表示した場合、まるで北朝鮮から東京までがガラ空きのように錯覚してしまいます。しかしそれは重要な情報が描かれていないだけで、実際には中央はイージス艦が配置されて日本全土を防空する体制が整います。イージスBMDを論じる場合、イージスアショアだけ問題にしてイージス艦に言及しない議論では意味を成すことは出来ません。さらに言えばアメリカ海軍のイージス艦も迎撃に参加してきます。日本防衛に用意されるSM-3迎撃ミサイルの数はこれも計算に入れておく必要があります。