悪用される公衆無線LAN、その対策は?
先月、「無線LANただ乗り無罪」というタイトルが新聞等で賑わいました。無線LANの暗号を解読することは、現在の法律では罪に問えないという判決が出て、その判決が5月になって確定したのです。ただし、他人の無線LANに断りもなく使用することが法に触れないと確定したわけではありません。裁判での争点は無線LANのただ乗りが有罪か無罪かではなく、無線LANの暗号において、その暗号鍵、つまりパスワードのようなものを解読することが通信の秘密を犯していることに当たるか否かが争点だったのです。今回は他人の無線LANを許可を得ずに利用することの法律的な合否を問題にしたわけではありません。判決が確定したのちに、無線LANの利用を管轄する総務省では、「無線LANただ乗りは法に触れる可能性がある」と改めて発表することになりました。
この判決のもとになった犯罪は、2年ほど前の松山で起こった事件で、一般家庭の無線LANを無断で使って、そこからネット銀行不正送金詐欺等を行ったのです。この犯罪自体は無罪ではなく、様々な法律を犯すことになり懲役8年という重い判決が下されています。この犯罪の入り口が無線LANの無断使用だったのです。これらの犯罪において、他人の無線LANを利用する理由は、犯罪の足跡を残さないためです。個人的に契約しているインターネットやスマホから犯行を行った場合、調べればすぐに誰が利用したのかがわかってしまいます。一時、インターネット喫茶からの不正使用が問題になりましたが、現在では利用者の身元確認が厳格になり、監視カメラ等もあって、やはりすぐに判明してしまいます。tor等の匿名インターネットを利用する手段もありますが、容易に利用できる公衆無線LANが悪用されることが問題になっています。
公衆無線LANは観光客等の利用を想定して、自治体等が積極的にその導入を進めています。人が集まる駅や店舗等でも、スマホでの利用者が急増したことから、やはり導入が進んでいます。誰でも簡単に使えるということは、悪人にとっても都合の良いことです。簡単に使えるためには、事前の設定や契約を行うことなく、すぐに利用できることが望まれます。しかし誰でもすぐに利用できるということは、ほとんど手続きを行わないということであり、結果として誰が使っているのかわからないということにつながります。悪人にとっては好都合なのです。
悪人に利用されないためにも、公衆無線LANには手続きを厳格にし、誰が使っているのかがわかるように、利用者認証をすべきという意見もあります。しかし認証をするために手続きを複雑にすると、本来、正当に利用しようとする人にとっても不便になります。一般に認証を含むセキュリティと使い易さとはトレードオフ(反比例)の関係にあるからです。
総務省では、この公衆無線ANにおいて、どのように認証をかければよいかというガイドラインを定めています。できるだけ多くの人が容易に公衆無線LANが利用できることを想定して、身分証明書等での厳格な認証ではなく、既存のメールアドレスやSNSでのアカウントの登録で代えることを推奨しています。フリーメールアドレスもあり、SNSのアカウントも必ずしも身元を特定できない場合もあることから効果に疑問を抱く人も少なくありませんが、犯罪者心理からすれば、少しでも足跡につながることになれば躊躇するものなのです。また、犯罪の捜査側からしても手掛かりにつながります。
駅や店舗等での公衆無線LANでは必ずしも認証は必要ありません。誰でも登録なしに使えるほうが便利なのです。では悪人にとって好都合かというとそうではないのです。駅や店舗では利用する場所が限定されており、利用者が特定される可能性があり、何よりも監視カメラ等が設置されているからです。観光地や街中と言った広域の公衆無線LANでも監視カメラのような抑止効果を伴った方法が必要となるのです。