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重度アトピー性皮膚炎に朗報!ウパダシチニブ30mgの52週間実績とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎治療の革新:ウパダシチニブ30mgの登場】

アトピー性皮膚炎は、多くの人々を悩ませる慢性的な皮膚疾患です。かゆみや炎症に悩まされ、日常生活に支障をきたす方も少なくありません。しかし、近年の医学の進歩により、新たな治療法が次々と開発されています。

その中でも注目を集めているのが、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤です。特に、ウパダシチニブという薬が、中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者さんに希望をもたらしています。

ウパダシチニブは、JAK1という酵素を選択的に阻害することで、炎症を抑える働きがあります。欧州と日本では15mgと30mgの2つの用量が承認されていますが、今回は30mgの効果と安全性について、実際の臨床現場でのデータが報告されました。

【52週間の実績:驚くべき効果と改善率】

イタリアの研究グループが行った52週間の観察研究では、31人の中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者さんにウパダシチニブ30mgを投与し、その効果を詳しく調べました。

結果は驚くべきものでした。治療開始から16週間後には、67.7%の患者さんがEASI90(症状が90%以上改善)を達成。さらに54.8%の方が完全に症状が消失するEASI100を達成しました。

そして52週間後には、なんと84%の患者さんがEASI90を、68%がEASI100を達成したのです。これは、従来の治療法では考えられなかった高い改善率です。

さらに、アトピー性皮膚炎患者さんを悩ませる「かゆみ」と「睡眠障害」にも大きな効果がありました。52週間後には72%の方がかゆみをほとんど感じなくなり、88%の方が睡眠の質が大幅に改善したと報告しています。

これらの結果は、ウパダシチニブ30mgがアトピー性皮膚炎の治療において画期的な選択肢となる可能性を強く示唆しています。特に、長期的な効果が維持されている点は、慢性疾患であるアトピー性皮膚炎の管理において非常に重要です。

【安全性と副作用:気になる点は?】

新しい薬剤の効果が高いのは喜ばしいことですが、安全性も同様に重要です。この研究では、副作用についても詳しく報告されています。

全体の29%の患者さんに何らかの副作用が見られましたが、その多くは軽度から中等度でした。最も多かったのは乾癬様発疹(12.9%)で、次いで高コレステロール血症(6.5%)でした。

重篤な副作用は稀でしたが、3人の患者さんが治療を中止しました。その理由はリンパ球減少症、帯状疱疹、重度の高脂血症でした。また、2人の患者さんは肝酵素の上昇と中等度の痤瘡様発疹のため、15mgに減量しました。

これらの副作用は、他のJAK阻害薬でも報告されているものと一致しており、予想外のものはありませんでした。しかし、長期的な安全性については、さらなる研究が必要です。

【日本の患者さんへの展望】

この研究はイタリアで行われたものですが、日本の患者さんにとっても大きな希望となる結果です。日本でも2021年にウパダシチニブが承認されており、15mgと30mgの両方の用量が使用可能です。

ただし、日本人の体格や遺伝的背景が欧米人と異なることを考慮すると、効果や副作用の出方に若干の違いがある可能性があります。そのため、日本人を対象とした同様の研究が行われることが期待されます。

アトピー性皮膚炎は、症状が目に見える部分に現れるため、患者さんの心理的な負担も大きい疾患です。高い効果が期待できるウパダシチニブ30mgは、多くの患者さんの生活の質を大きく向上させる可能性があります。

ただし、どの薬剤にも適応がありますので、自己判断は避け、必ず皮膚科専門医に相談してください。個々の症状や体質に合わせて、最適な治療法を選択することが重要です。

アトピー性皮膚炎の治療は日々進歩しています。ウパダシチニブ30mgの登場により、さらに多くの患者さんが症状の改善を実感できるようになることでしょう。希望を持って、適切な治療を続けていくことが大切です。

参考文献:

Gargiulo, L., Ibba, L., Bianco, M., Di Giulio, S., Alfano, A., Cascio Ingurgio, R., ... & Narcisi, A. (2024). Upadacitinib 30 mg for the optimal management of moderate-to-severe atopic dermatitis: a 52-week single-center real-world study. Journal of Dermatological Treatment, 35(1), 2375102.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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