オミクロン株による入国制限や新規予約の混乱、対応悩む航空会社。ANA・JAL合わせ2年で1兆円赤字も
11月24日に南アフリカで新型コロナウイルスの新たな変異株であるオミクロン株が確認され、11月26日金曜日の夕方からオミクロン株の感染拡大の懸念が大きく報道された。日本政府も11月29日に水際対策の強化を発表し、11月30日午前0時からは外国人の新規入国が停止され、更に感染が確認された国からの入国者に対して、強制的にホテル滞在となる指定施設待機措置を実施している。
二転三転した日本人の新規予約一時停止、海外からの帰国予定者は混乱
更に12月1日には、国土交通省が日本行きの国際線航空券の新規予約を12月末まで停止することを日本乗り入れの全ての航空会社へ要請したことが明らかになり(要請自体は29日)、一時は日本人であっても航空券の予約をしていない場合には海外から帰国できない懸念が出ていた。その後、12月2日に松野博一官房長官は記者会見で、一律の停止要請は取りやめ、帰国需要に十分配慮することを明らかにしたことで、1日3500人の日本入国者総数の範囲で入国を認める方向に転じた。海外から帰国を希望する日本人にも混乱が広がったが、日本乗り入れの航空会社も情報が二転三転するなど対応に悩んでいる。
12月3日13時時点では、海外の航空会社では一部日本行き航空券の販売が再開されているが、ANAやJALではまだ航空券の発売は再開されていない。
今回の一連の動きの中で、日本に乗り入れている国際線を運航する航空会社は対応に悩んでいる。通常、航空券の予約は座席に空席があれば、そこに新規の予約を入れられることになるが、オミクロン前については1日5000人もしくは3500人(11月26日に3500人から5000人に引き上げられていたばかり。11月25日以前は3500人)しか日本に入国できないことから、各航空会社に割り当てられた人数分しか販売することができない状況が続いていた。今回、日本行きの全ての新規予約を停止する為に、予約システムで新規予約をストップする為の設定に追われた矢先の方向転換となった。
11月以降、国際線予約は増加傾向にあったなかでのオミクロン株
実際、11月8日にビジネス出張者、留学生、技能実習生など外国人の新規入国が一部認められ、日本人の帰国についても10月からワクチン2回接種者は最短10日間、11月8日からは海外へのビジネス渡航においては帰国後の活動計画書の提出や受入責任者を決めるなどの諸手続をすることで3日間待機+7日間の行動管理になる運用となり、更に年末年始を日本で過ごしたい海外駐在員の一時帰国などの需要も加わり、予約は堅調に推移していた。
しかし、今回のオミクロン株の発生により、最低でもオミクロン株の特性がわかるまでの1ヶ月間(12月31日まで)は海外との往来が厳しくなり、これから出発する予定だった海外出張、海外から日本への一時帰国のキャンセルが既に相次いでいる。外国人の新規入国が既にストップしていることから羽田空港や成田空港の到着ロビーは今まで以上に閑散とした状態となっている。
航空会社にとっては、国際線が少しずつ回復傾向に転じ、感染者数の減少が続いていたことで更なる日本入国後の自主待機期間の短縮が年末前もしくは年明け早々にも実現するのではないかという期待感があったが、オミクロン株の発生により、海外からの新規入国が停止となり、自主待機期間も例外なく14日間に逆戻りとなった。
航空会社の自助努力ではどうにもならない
こうした水際措置は、岸田文雄首相を中心に日本政府の方針として実行されているなか、航空会社の自助努力ではどうにもできない問題である。航空会社としても国の方針に全面的に協力している。
当初は年明けに以降に国際線の利用者がある程度戻ってくることも想定していた。ANAホールディングスでは10月29日の決算会見の中で片野坂真哉社長は、2022年3月末には国際線利用者がコロナ前の約3割まで回復する可能性を示唆し、11月2日のJALの決算会見でも2022年3月でコロナ前の約23%の需要回復を予想していた。昨年4月以降、国際線利用者は95%以上の減少が続き、直近でもコロナ前の1割程度しか利用者がいない状況にある。国際線の厳しい状況は1年9ヶ月近く続いているなかで、ようやく復活へ向けて動き出し始めた矢先だった。既にキャンセルも大量に出ているとのことだ。
海外へのネットワークは重要不可欠な交通インフラ
ANAやJALなど国際線ネットワークの構築は、海外との往来、ビジネス、政治、インバウンド(訪日外国人観光客)、アウトバウンド(日本人の海外旅行)においても不可欠な交通インフラであり、現状では公租減免などの措置は講じられているが、入国制限による影響が業績に与える影響は遙かに大きい。
今回のオミクロン株の発生による入国制限の影響で、ビジネス出張だけでなく、インバウンド、アウトバウンドの回復も更に遅れることになる。
ANA、JALの2社で2年間で1兆円超えの赤字の可能性も
2021年3月期(2020年4月~2021年3月)ではANAホールディングスが4046億円、JALが2866億円の赤字となり、今期(2021年4月~2022年3月)においてもオミクロン株が発生する前の段階でANAホールディングスが1000億円の赤字(10月29日発表)、JALが1460億円の赤字(11月2日発表)の業績見通しを出しているが、オミクロン株関連の入国制限の影響で更なる赤字拡大が懸念される。更なる赤字幅の拡大となれば、ANAホールディングスとJALの2社だけで2年間で合計1兆円を超える赤字幅になる可能性も出てきた。
これ以上のコスト削減の限界も。優秀な人材の流失懸念も
各航空会社では、ボーナスカットや基本給の削減など社員の給与を大幅カットしている。取材を進めると、ある航空会社の社員は、コロナ前に比べて年収ベースで3割程度減少しており、中には4割近く減少しているという声も聞かれるなど厳しい状況が続いている。また機体の早期売却や外部企業への出向、更には委託していた業務の内製化など様々なコスト削減を実行しており、想定よりも早いペースでコスト削減に成功し、アフターコロナへ向けての構造改革を継続しているが、これ以上のコスト削減は難しいく、削減できるものは全て削減したという声が聞かれる。
特に人件費の大幅カットが長期間に及びことで優秀な航空会社社員の流失に繋がる懸念もあり、既に若い社員などで他の企業に転職した人も時間を追うごとに増えている。そういった意味でも特に航空会社社員の給与カットの長期化は避けるべきであり、雇用調整助成金での限界もある。
航空会社などに金融支援を求める声も
ANA・JALだけで2年間で1兆円近い赤字幅となり、他の国内航空会社も厳しい経営状況が続いており、日本の航空業界全体では更なる赤字幅となる。全ての国内航空会社で銀行などからの借入金も増え、返済には10年~20年近く要する可能性も考えられるなか、国が入国制限などを課している以上、このタイミングで航空業界への金融支援をして欲しいという声が航空会社関係者から多く上がっている。
同時にインバウンドの影響が色濃い旅行業界、宿泊業界、鉄道業界に対しても同様であり、銀行借り入れの一部を政府が補助することで借入金全体を減らすなど、アフターコロナに向けての体制を国として整備する必要があるだろう。