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【高齢者と貧困】簡易宿泊所に暮らす生活保護受給者の半数以上が身寄りのない高齢者に。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

山谷地域は戦後に戦災者や復員者などを受け入れ、日雇い労働者が利用する簡易宿泊所が数多く誕生しました。1964年の東京オリンピックでの建設ラッシュを背景に、1万数千人近い日雇い労働者が集まったとされます。現在、山谷地域では約157軒の簡宿に3,400人近くが暮らしています。宿泊代金は3畳一間で平均1泊2000円ほど。約9割が生活保護受給者だといいます。

高齢化も進んでいます。東京都の調査では1999年に59.7歳だった宿泊者の平均年齢は、2012年には64.7歳でした。5年以上簡易宿泊所に宿泊している人は5割を超えています。

※山谷地域簡易宿所宿泊者生活実態調査(H24年10月実施 東京都福祉保健局生活福祉部)より

簡易宿泊所がかつて路上生活を送っていた人たちの受け皿にこうした状況に、東京の山谷地域で生活困窮者へ支援を行うNPO法人「山友会」の油井和徳理事(31)に今後の課題と対策についてお伺いしました。

明智 簡易宿泊所を利用している人はどんな人たちが多いですか?

油井 もともとは、主に地方から職を求めて上京してきた日雇い労働者の人たちが簡易宿泊所を利用していました。高度経済成長期を終え、産業構造も変化したことにより、それまで土木・建築業を中心に日雇い労働を行っていた人々の多くは失業し、路上生活を余儀なくされるようになります。

さらに、高齢になったり、病気になってしまうことで、働くことも出来なくなったことで、その中で生活保護を受給するようになる人々も増えてきました。1990年後半には都市部を中心に全国で急激に路上生活者数が増加しましたが、生活保護を受給するようになった路上生活者の住まいや公的な施設が絶対的に不足していました。そのため、生活保護を受給するようになった路上生活者を受け入れるために、例外的な措置として簡易宿泊所は一時的な住まいとして活用されてきました。

山谷地域では、こうした歴史的な背景もありますが、主にかつて路上生活を送っていた人などの生活保護を受給した人が簡易宿泊所にたどり着き、そこでの暮らしが長期化してしまう要因は複雑で多様です。

まず、身寄りのない低所得者の入居可能な物件が少ないことが挙げられます。アパートなどの賃貸物件は保証人や緊急連絡先が必要なため、入居のハードルが高くなります。さらに高齢であったり、病気を抱えていれば、大家側は孤独死という不安材料が増えることになります。そうした方も入居しやすいのが、公営住宅なのでしょうが、こちらも数が不足しているのが現状です。

明智 行政からの支援はどうなっていますか?

油井 そうですね、生活保護を実施する福祉事務所サイドも、一人暮らしを行う前に生活指導が必要という考えがあるようです。それは、アパートなどでの一人暮らしをしていると家賃滞納やトラブルなどがあったときに対応しなければならないということや、退去を迫られた後どうするかという不安も影響しているように思います。こうした不安が、簡易宿泊所や施設から一般住宅に移るという判断を躊躇させているのかもしれません。

ほかにも、今まで関わった方の中では、日雇い労働をしながら簡易宿泊所や建築現場の寮で生活することが長かったため、アパートなどほぼ完全に一人になる環境での生活がイメージしづらいという方もいましたし、仲のよい人がいることから暮らし慣れたところを今さら離れたくないという方もいました。こうした様々な要因が複雑に絡み合っているように思えます。

地域の中で暮らしていけるサポートを

明智 油井さんたちはどのような支援活動を行っていますか?

油井 私たちの活動の生活相談・支援事業では、アパートや簡易宿泊所に暮らす方を支援する「地域生活サポート」という取り組みがあります。具体的には、一人で病院に行けない方の通院に付き添ったり、介護が必要になったときに介護サービスの利用手続きをお手伝いしたり、医療機関、介護事業所、福祉事務所などの支援機関との連絡調整などを行い、孤立してしまい困ったときに誰にも助けが求められないような状況にさせないような取り組みを行っています。

山谷地域では、こうした取り組みを、私たちだけではなく、複数のNPOがバリエーション豊かに展開しています。また、そうした方々が支援を受けるだけでなく、活動に参加してもらったり、一緒に支援を担ってもらったり、社会の中で役割を持ってもらえるような支援も行われています。

さらに、そうしたNPOを中心に、地域の医療・看護・介護・福祉事業所などとのネットワークづくりの取り組みも行われており、地域ぐるみでそうした方々をどのように支えていったらよいかということも考え始められています。

これらの取り組みはあくまで一つの例ですが、住み慣れた地域で暮らす上での「安心」をいかに担保するのか、ということも大切な視点だと思います。

そして、それが一方的に供給されるのではなく、当事者も地域に参加でき、社会的に不利な立場にある方も暮らしやすく参加しやすい地域づくりに結び付けていく、こうした取り組みは、身寄りのない生活保護受給者に限らず、より多くの方々にとってもメリットのあることなのではないかと思います。

簡易宿泊所が身寄りのない生活に困窮した方の受け皿になってしまうような構造に目を向け、身寄りがなくても、低所得でも、高齢でも、病気や障害を抱えていても、「地域」で「安心」して「安全」に暮らせる住まいを地域の中に整備することが、この問題の根本的な解決になると考えています。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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