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「お湯換え問題」で揺れる二日市温泉……今こそ知ってほしい源泉かけ流しの小宿

高橋一喜温泉ライター/編集者

「大浴場の換水は年2回だけ、塩素注入も怠っていた」

「最大3700倍のレジオネラ属菌が検出」

ショッキングなニュースの舞台となったのは、二日市温泉(福岡県筑紫野市)の老舗旅館「大丸別荘」である。二日市温泉では別格ともいえる高級宿なので目を疑った。

かつては「循環ろ過をしている温泉施設の中には1~2か月換水しないところもある」という噂を聞くことはあったが、宮崎県をはじめ循環ろ過の温泉施設で死者が相次ぐなどレジオネラ属菌の問題がクローズアップされてからは、換水や清掃に対する意識も高まっていたと思っていただけに、今回のニュースは大変ショックである。

大丸別荘のある二日市温泉のイメージダウンは避けられないが、本来、二日市温泉は歴史あるすばらしい温泉地である。また、小さいながらも良質な源泉かけ流しが堪能できる宿も健在である。

九州最古の湯

二日市温泉の開湯は、1300年前の奈良時代。九州最古の湯と伝わる。博多駅から最寄駅まで十数分の距離で、「こんなところに温泉が?」と思うような市街地に湧いている。

柳並木が残る温泉街には7軒ほどの宿のほか、2軒の公衆浴場「御前湯」と「博多湯」が道路を挟む形で並び建つ。

ちなみに、「博多湯」には市街地とは思えないほど良質な源泉がかけ流しにされている。硫黄臭(硫化水素臭)もする本格派である。「博多湯」は温泉ファンの評判も高く、源泉かけ流しの湯を楽しめる。

博多湯
博多湯

仕事で二日市温泉に滞在することを決めた筆者は、旅行予約サイトで検索をかけた。「二日市温泉」で検索すると、引っかかったのは4軒。

高級旅館や大型旅館、ビジネスホテルなどが検索結果として表示されたが、いずれも決め手に欠けた。料金が予算オーバーであったり、温泉の質がいまいちだったり・・・。特に温泉の質はこだわりたいポイントであるが、どうやら純粋な源泉かけ流しではなく、循環ろ過もしているようだ。ちなみに、大丸別荘もそのうちのひとつだったが、予算オーバーであった。

ならば、旅行予約サイトに登録されていない宿はどうだろう? 観光協会の公式サイトに飛んでみる。

そこで、一軒の宿が目に留まった。松原旅館。紹介文には「まるで実家や親戚の家に泊まっているような家庭的なおもてなしが受けられます」とある。部屋数は4つ。このような小規模な宿にこそ、名湯が眠っている可能性がある。

では、肝心の温泉はどうか? 公式サイトを探すが、どうやら宿のホームページはないようだ。いまどき珍しい。「じゃらん」に登録ページはあるが、予約は受け付けていない。口コミもゼロである。

さらに、検索を絞っていくと、数人の温泉レポートが見つかった。どうやら、温泉は源泉かけ流し。食事も手づくりのようだ。情報通りであれば、筆者の好きなタイプの宿である。

数年前の情報しか出てこなかったので一抹の不安を覚えたが、とりあえず電話で予約を試みる。女将さんと思われる方が応対してくださり、すんなりと予約が完了した。

源泉かけ流しの湯船を貸切利用

投宿当日。二日市温泉のメインストリートに面した旅館は、うっかり見過ごしてしまいそうなくらい小さな建物だが、老舗らしい佇まいと洗練さがある

ひっそりと佇む松原旅館
ひっそりと佇む松原旅館

応対してくれたのは、女将さん。滞在中は、女将さん以外には会わなかったので、一人で切り盛りしているか、少なくとも家族での経営だろう。この日は貸切とのことだった。

部屋は昔ながらの和室。建物全体は古く、トイレは共用であるが、部屋はまさに親戚の実家にお邪魔しているかのような、落ち着く雰囲気である。

まずは温泉へ。4人くらいが入れるタイル張りの内湯。少し熱めの透明湯がかけ流しにされ、オーバーフローしていく。浴槽内の塩ビ管から直接湯が投入されている。特徴が際立った湯ではないが、まろやかなやさしい肌触りの湯である。大満足。

女将さんの話では、宿の玄関の植栽近くに源泉があり、1カ所にまとめられたうえで、共同湯や各宿に配湯されているという。

どれも印象に残る海の幸

手づくりの食事は絶品だった。近年で強く印象に残っている宿のひとつだ。

特に海の幸に光るものがあった。お造りはカンパチ、鯛、いさき、さざえ。どれも新鮮でおいしい。

初めて食べたタイラギという貝と、エツという魚の南蛮漬けは地元の味である。エツは筑後川で獲れたものだが、サクサクとまるでスナック菓子のような食感。これまで食べた、どんな魚にも似ておらず、あの食感は忘れられない。

エツの南蛮漬け
エツの南蛮漬け

お酒のメニューはなく、持ち込みOKということだったので、近所のスーパーで焼酎を購入してきたが、酒がぐいぐいすすんだ。

朝食も焼き魚や目玉焼き、納豆など、ザ・旅館の朝食であったが、ひと手間加えてあるのか、ご飯を3杯おかわりするほど美味であった。

温泉ワーケーションの拠点にも

宿泊料金は1泊2食で1万円を切る設定であるが、食事の充実度と源泉かけ流しの湯を考慮すれば、格安と言えるだろう。

なお、部屋にはWi-Fiが飛んでおり、ワーケーションでも利用できそう。素泊まりも可だ。博多から近いので、博多駅周辺のビジネスホテルに泊まるなら、少し足を延ばして松原旅館に泊まりたくなる。

帰り際、女将さんは「毎年のように仕事で博多にいらっしゃる人にも常連さんが多いですよ」とのこと。その気持ちよくわかる。筆者も定宿にしたい小さな佳宿である。

高橋一喜|温泉ライター
温泉ソムリエ/386日かけて日本一周3016湯を踏破/これまでの温泉入湯数3800超/著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)/温泉ワーケーションを実行中/2021年1月東京から札幌へ移住/InstagramnoteTwitterなどで温泉情報を発信中

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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