史上最重量の元素「オガネソン」と、理論上の上限値「ウンセプトトリウム」
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「観測史上最重量の元素と、理論上の原子番号の上限値」というテーマで動画をお送りします。
●原子と元素
地球上のあらゆる物質は、拡大していくと「原子」という構造が見えてきます。
さらに原子は+の電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子を含む原子核のまわりに、-の電荷を持つ電子が存在する、という構造をしています。
高温環境では、原子自体が持つエネルギーのために原子核と電子の電気的な結合が外れ、それぞれが自由に動き回る「プラズマ」という状態になります。
ですが地球を含め、宇宙でも多くの低温・常温環境で原子の構造を保った物質が存在しています。
原子は、原子核内部の陽子の数で化学的な性質が大きく異なります。
陽子の数は「原子番号」と呼び、同じ原子番号の原子は、同じ「元素」であるといいます。
原子核内に中性子を含まず、陽子1つのみが存在する「軽水素」と、陽子と中性子が1個ずつ含まれる「重水素」は、原子内部の構造は異なりますが、陽子の数が同じため、どちらも同じ「水素」という元素です。
では、この原子番号はどこまで大きいものが存在するのでしょうか?
今回は、現在見つかっている中で最大の原子番号を誇る元素と、理論上の原子番号の最大値について紹介します。
●オガネソン
オガネソンの特徴
オガネソンは、原子番号が118の元素です。
原子番号は原子核内の陽子の数と等しいため、オガネソンの原子核内には118個もの陽子があります。
これはこれまで発見されたことのある元素で最大の数です。
原子番号が等しいものの、原子核内の中性子の数が異なるために、原子の質量が異なっている「同位体」は、オガネソンではまだ検出されていません。
そのため、オガネソンの原子核内の粒子の個数を表す「質量数」は、現時点では294の1種類のみです。
オガネソンは2002年に初めて合成されましたが、滅多に生成できないため、今までに実質たった5個か6個しか確認できていません。
しかも、5個か6個しか確認できていないだけでなく、生成後にあっという間に崩壊してしまいました。
オガネソンは非常に不安定なので、0.89ミリ秒ほどで崩壊すると計算されています。
すなわち、1000分の1秒以内に崩壊してしまうため、オガネソンの性質はまだほとんどわかっていません。
オガネソンは第18族元素であり、ヘリウムやネオン、アルゴンなどと同様に、貴ガスに分類される元素です。
しかし理論計算によると、オガネソンは室温ではガスではなく、固体だと予想されています。
また、一般的な貴ガスは反応性が低いですが、オガネソンはほかの貴ガス元素とは異なり、非常に反応性が高いそうです。
オガネソンの発見までの経緯
最重量の元素であるオガネソンは、どのような経緯で発見されたのでしょうか。
原子番号118番の元素について、最初に考察したのは、デンマークの物理学者の
ボーアです。
1922年にボーアは、原子番号118番の元素が、周期表で7つ目の貴ガスだろうと記しています。
ただしこの時代には、元素を人工的に合成する方法は、知られていませんでした。
1965年には、ドイツの核化学者のグローセが、118番の元素の性質に関して、予測する論文を発表しています。
だいたいこの時期から、次々と人工元素が合成されていき、2002年に初めてオガネソンが合成されました。
つまり、ボーアの予測から80年経って、オガネソンの合成に成功したことになります。
オガネソンを初めて合成したのは、ロシアのドゥブナ合同原子核研究所です。
ロシアとアメリカの科学者の合同チームによって、オガネソンが合成され、一時的な名称としてウンウンオクチウムと呼ばれていました。
それから10年以上経過した2015年になってようやく、新元素として正式に承認されました。
その翌年の2016年には、オガネソンと正式に命名されています。
オガネソンという名前は、オガネソンの発見で重要な役割を果たした、ロシアの核物理学者のユーリイ・オガネシアン氏にちなんで付けられました。
オガネソンの語尾がオンなのは、ヘリウム以外の第18族元素の語尾が、ネオンやアルゴンのように、オンで終わっているためです。
オガネソンの合成方法
ところでオガネソンは、どうやって合成されたのでしょうか。
天然には存在しないオガネソンのような人工元素は、核反応によって合成されています。
核反応とは、原子核に粒子が入射して、別の原子核を生じ、粒子が放出される現象のことです。
そして、オガネソンの合成では、質量数が249のカリホルニウムと質量数が48のカルシウムの衝突が用いられました。
オガネソンは極めて希少な元素です。
まず、反応に用いるカリホルニウム249も人工元素なので、カリホルニウム249を製造できる設備を持っている国は限られています。
さらに、カルシウム48もカルシウムの同位体の一つであり、自然界ではカルシウム全体の0.187%しか存在しません。
この同位体は非常に珍しいものなんですね。
それに加えて、材料を十分に集めたところで、オガネソンの合成実験には4ヶ月もかかります。
これはオガネソンの得られる確率が、10万分の1以下と推定されているからです。
具体的に、オガネソンの合成実験では、2.5×10の19乗個ものカルシウム48イオンを含む、ビームが用いられました。
2.5×10の19乗は2500京、すなわち25の後に0が18個付く、ものすごく大きい数です。
このように非常に過酷な実験によって、ロシアの核物理学者オガネシアン氏が率いるチームは、2002年に1つか2つ、2005年にさらに2つのオガネソンの検出に成功しました。
やっとの思いで合成されたオガネソンですが、非常に寿命が短いため、1000分の1秒も経たないうちに崩壊してしまいます。
そのため、オガネソンが生成した証拠を示すためには、オガネソンの分解物を確認することが必要です。
オガネソン294は、ヘリウム原子核の放出するアルファ崩壊によって、リバモリウム290に変わります。
その上、このリバモリウム290もとても不安定で、14ミリ秒程度でフレロビウム286になり、さらに次々崩壊が続いていくのです。
それどころか、オガネソン294の崩壊によって生成したリバモリウム290やフレロビウム286でさえ、当時は存在が確定していない元素でした。
したがって、オガネソンの前に、まずオガネソン294の崩壊生成物の証拠を示す必要があります。
結果として、先にオガネソンの崩壊生成物であるフレロビウム286とリバモリウム290の存在を確定させ、その後の2006年にオガネソンを間接的に検出したと報告されました。
オガネソンの発見から年月が経過しましたが、あまりに生成が難しいために、オガネソンの物理的性質や化学的性質を調べるための実験は、未だにほとんどできていません。
●原子番号の上限値
未発見の超重元素の性質は、理論的に予想することしかできませんが、原子番号は無限に増やせるわけではなく、どこかに上限があると考えられています。
具体的な上限については諸説ありますが、陽子を173個含む、原子番号173の「ウンセプトトリウム」が、原子の構造を維持できる最大の元素である可能性があります。
「ウンセプトトリウム」は、発見後に付けられる正式な名称ではなく、未発見の元素に付けられる一時的な仮称です。
原子番号の100の位から順に、1という意味の「un」、7という意味の「sept」、3という意味の「trium」を組み合わせ、「Unsepttrium(ウンセプトトリウム)」という仮称が付けられています。
このように未発見の元素に対しては、原子番号の100の位から順にその数値に対応する単語を組み合わせた仮称を用います。
ウンセプトトリウムが持つ化学的な特性については、わかっていないことだらけです。
ただしウンセプトトリウムの場合、原子核から最も遠い位置にある「最外殻電子」は、原子核と非常に緩い結合をしており、容易に手放すと考えられています。
つまり電子1つを容易に失って一価の陽イオンとなりやすい、ナトリウム(Na)やカリウム(K)などといった「アルカリ金属」のように振る舞うと予想されています。
ではなぜ原子番号173のウンセプトトリウムが、理論上最大の原子番号を持つ元素であると考えられているのでしょうか?
端的に言うと、電子の構造が安定的に存在できなくなるためです。
原子番号が173を超える元素では、原子核が強い+の電荷を持つために、原子核から最も近い電子の軌道に非常に強い電場が働きます。
すると量子力学的な効果により、電子と陽電子のペアが対生成されるようになります。
このような状況では、原子核の周囲の電子が安定的に存在できなくなり、原子という構造を維持できなくなります。
よって原子番号173の「ウンセプトトリウム」が、電子の軌道を含めた原子の一般的な構造を持てる最大の元素であると考えられています。
ウンセプトトリウムまで生成されるのは難しそうですが、オガネソン以降の元素も今後生成され、超重元素の性質が解明されるのに期待です。
今回の関連で、原子番号が非常に大きいのではなく、逆に「0」である物質が生成された話題についても、以下の動画で解説しているので、併せてご覧ください。