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【子どもの感染症大流行】初夏がピークの「ヘルパンギーナ」、夏風邪の受診目安や家庭でできる備えとは

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

連日報道されている通り、ヘルパンギーナをはじめとする夏風邪やRSウイルス感染症が猛威を振るっています。小児科外来はすぐに予約で埋まってしまうし、入院病床もひっ迫しています。また、子どもの風邪は家族に波及します。入院しなくても、家族みんなが体調不良、みたいなことも珍しくありません。特にヘルパンギーナは、コロナ禍では流行が抑えられてきましたが、ここにきて患者さんが非常に増えています。そこで今回は、こどもの受診の目安について、夏風邪(ヘルパンギーナ)の症状を念頭に、改めて考えてみたいと思います。

外来では様々な感染症が流行

子どもが発熱する原因は様々ですが、今、外来でみる患者さんは、ヘルパンギーナをはじめとする夏風邪(その原因の多くはエンテロウイルスという病原体です)、RSウイルス感染症、溶連菌感染症など様々です。クループ症候群という病気の原因にもなるパラインフルエンザウイルス感染症や、RSウイルス感染症に似たヒトメタニューモウイルス感染症の患者さんもいます。色々調べても原因がよく分からないその他のウイルス感染症もあります。

ヘルパンギーナで入院、その多くは脱水と熱性けいれん

さて、ヘルパンギーナのピークは毎年初夏(6-7月)です。まさに今です。患者さんの多くは5歳以下で、潜伏期間は3-7日です。特徴としては急に熱が出て、その後喉に水疱ができるため強い痛みや、小さな赤ちゃんだと、痛みを訴えられない代わりによだれが増えることもあります。診察では口の中を観察し、水疱ができていることで診断がつきます。熱は数日で下がり、口の水疱も3-6日でよくなることが多いです。

ヘルパンギーナの多くは入院せずに自然によくなりますが、一部は入院することがあります。理由として最も多いのは「脱水」です[1]。のどが痛くて水分がうまく摂れずに脱水になってしまうのです。したがって、こまめに水分を与えることが大事になります。ちなみに、脱水の次に多い入院理由は熱性けいれんです。

ヘルパンギーナは解熱し、食事が取れれば登園OK、その理由は?

ヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルスはウイルスの排泄期間が長いという厄介な性質があります[2]。のどから排出されるのは約1週間ですが、便から排出されるのは6-8週間とされています。とても長い期間です。

これに関連して外来診察時によく聞かれる質問があります。それは登園停止期間についてです。

ウイルスの排泄期間の話をした後に「基本的には解熱し、食事がしっかりとれるようになったらOKですよ」と答えると意外そうな顔をされることがあります。

長期間ウイルスを排出するのにそれでいいの?と思われるのかもしれません。

実はヘルパンギーナを含むエンテロウイルス感染症の約半数は不顕性感染といって、感染しても無症状なのです[3]。しかし無症状でもウイルスは周りに排出されています。したがって、症状のある人だけ6-8週間という長期間出席停止にしても感染拡大を抑えることはできないため「症状がなく、急性期を過ぎてウイルス排出量がある程度減れば登園はOK」としているのです。米国小児科学会のウェブサイトにも「保育所や学校から出席停止にしても感染拡大を止めることはできない」としています[4](これは手足口病についての記述ですが、手足口病と同様にエンテロウイルス感染症であるヘルパンギーナにもあてはまります)。

知っておきたい発熱時の受診目安とは?

次に、医療機関の状況もひっ迫している中で、症状がある場合の受診目安についてご説明します。

発熱時に急いで受診が必要なタイミングは次のような場合です。

・ぐったりして顔色が悪い

・呼びかけてもぼんやりしている(眠ってばかりいる)

・何度も嘔吐する

・水分が摂れず半日以上尿が出ない

・けいれんした

ヘルパンギーナに限らず、子どもの風邪の多くは、熱があっても元気で水分が取れていれば、あえて薬を飲まなくても、こまめな水分摂取と安静で自然に治ることがほとんどです。高熱で脳に障害が残るのでは、と心配される方もいますが、感染症の熱だけが原因で脳に障害が出ることはありませんのでご安心ください。

また、「早く病院に行けば早く治るのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、子どもの感染症の多くはウイルス感染症で、処方される薬の多くは「症状を多少和らげる薬」です。必ずしも早く飲むほど早く治るわけではありませんので、上の症状があてはまるのでなければ一刻を争って慌てて受診しなくても大丈夫です。

生後3か月未満の発熱は急いで受診を

しかし一方で、元気に見えても急いで受診しなくてはいけない場合があります。例えば、生後3か月未満の発熱です。通常この時期は、お母さんからもらった免疫成分がまだ体に残っているため、熱を出すことはあまりありません。したがって、この月齢で熱が出た場合は、通常とは違う重い感染症のサインかもしれず、すぐに病院を受診しなければいけないのです。

 以上の目安を知っていても不安がある場合には、日本小児科学会「online こどもの救急」や小児救急電話相談(#8000)をご利用ください。私たちのプロジェクトでも、受診の目安を判断する無料アプリを提供していますので、ご参考になればと思います。

コロナの感染予防策はヘルパンギーナにも有効

ところで今回の感染拡大はコロナ禍の厳重な感染予防策でかかる機会がなかったお子さんが増えたから、と考えられています。裏を返すと、こまめな手洗いをはじめとするコロナの感染対策はヘルパンギーナにも有効だった、ということでもあります。

たかが夏風邪、されど夏風邪

たかが夏風邪なんだから感染対策なんてしないでかかればいいよ、という意見もあるかもしれません。たしかにヘルパンギーナの多くは軽症で、入院しないで自然に治るケースが多いですが、中には脱水で入院するお子さんもいますし、熱性けいれんを起こすお子さんもいます。小児科医の立場から「どんどん感染すればいいです」とは言えません。また今は感染が爆発していて医療機関もパンク状態です。少しでも感染のピークを抑えるために、感染対策は大切です。具体的には手指をこまめに洗うこと、また食器やタオルの共用を避ける、などの接触予防策が有効です。これらの対策で兄弟間の感染を少しでも減らせるかもしれません。特にエンテロウイルスは便に排出されることも多いため、赤ちゃんのいるご家庭ではオムツ交換時にはしっかりと手洗いすることを心掛けていただきたいと思います。

ファミリーサポートや病児保育はあらかじめ登録しておこう

発熱などで急なお迎えなどに備え、子どもをお願いできるルートをあらかじめ用意しておくことも大事です。家族内で感染が広がると動ける人も限られる可能性もあり、あらかじめお迎えプランを複数決めておくことをお勧めしますが、夫婦で対応できないときに誰に頼むかを決めておくことも大事です。

こういったとき、祖父母に頼りたくなるかもしれません。実際に助けてくださる方も多いかと思います。ただ私は、祖父母に頼ることについて、一度立ち止まって考えるいい機会ではとも考えています。昔と違って仕事をしている祖父母世代は多いです。また昔より出産年齢が上がった分、祖父母の年齢も上がっていて体力も落ちています。世代間の子育ての価値観も思った以上に違うものです。意外とトラブルの原因にもなり、メリットばかりではないと知っておくことは有用です。

今は以前より様々な行政サービスもあります。ファミリーサポート制度や病児保育の利用登録など検討しておくことをお勧めします。これらの制度は登録までに時間がかかることもありますので、あらかじめ調べておき、病児保育をしてくれるクリニックなどを探しておくとよいでしょう。民間のサービスですが、病児保育ネット予約サービス「あずかるこちゃん」なども活用するのも選択肢の一つと思います。

今回は、ヘルパンギーナを中心に、その予防策や受診の目安、いざというときに備える準備について書きました。少しでも参考になればと思います。

<参考文献>

1.多屋馨子,早川丘芳ほか. 本邦におけるエンテロウイルス感染症の疫学、重症化例の発生動向調査. 病原微生物検出情報. 2004;25:226-7.

2.国立感染症研究所. ヘルパンギーナとは. 2014

3.松永健司. 手足口病、ヘルパンギーナ. 小児内科. 2020;52:1048-53.

4.American Academy of Pediatrics. Hand, Foot & Mouth Disease: Parent FAQs. 2016

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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