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他力本願自民党

田中良紹ジャーナリスト

野田第3次改造内閣がスタートした。私の言う大政局の中盤はいよいよ解散を巡る攻防が佳境を迎える。改造内閣を巡って「論功行賞内閣」とか「在庫一掃内閣」とかバカの一つ覚えの論評だらけだが、私には早期解散しか目に入らない自民党をあらぬ方向に引きずり込む「深慮遠謀」の内閣に見える。

カギを握るのは輿石幹事長である。この人事は要のところに輿石氏の意向が反映されており、一見「解散先送り内閣」に見えながら、同時に「論功行賞」を目立たせて離党予備軍の不満を募らせる内閣にも見えるようにしている。そこに「深慮遠謀」が隠されている。

今回の民主党代表選挙を私は野田再選より輿石続投に重きが置かれていると書いた(「中盤の序盤2」)。野田氏が初めて代表に選ばれた去年も今年も民主党代表戦は同じ事の繰り返しである。去年は輿石幹事長の誕生、今年は輿石幹事長の続投がカギなのである。

去年の代表選挙で野田氏は全く勝ち目がなかった。同じ陣営から前原誠司氏が立候補したからである。野田氏と前原氏はそれぞれ小沢一郎氏に面会して協力を要請した。すると小沢氏は前原氏だけ不支持を表明した。それから野田氏は輿石氏と面会し、相田みつおの「どじょう」の色紙を見せられる。

決選投票での野田氏の「どじょう演説」は輿石幹事長起用のサインである。中間派の鹿野グループが背広を脱ぐ合図で野田氏への投票を促し、それが勝ち目のなかった野田氏を代表に選ばせた。野田氏は三顧の礼で輿石氏を幹事長に迎えた。

今年は輿石氏の支持勢力が細野豪志氏に代表選出馬を促し、細野氏がその気になると1日で出馬をやめさせた。細野氏が出馬すれば野田再選は危うかったが、細野氏の不出馬で野田再選が確定した。細野氏に出馬を促した人たちは野田総理の輿石幹事長続投を確信したので細野氏の出馬をやめさせたのである。

従って野田氏は再選されるとすぐに輿石氏に続投を要請した。しかし輿石氏は回答を留保する。留保したのはその後の政権運営と人事について輿石氏の考えを飲ませるためである。そのうえで輿石氏は幹事長続投を受け入れた。党役員人事や組閣に輿石氏の意向が反映されるのは当然である。

細野氏は次の「選挙の顔」として政調会長に抜擢され、輿石氏と並ぶ執行部の一員となった。また安住財務大臣を幹事長代行として輿石氏の下に就け、財務大臣に輿石氏と気脈を通ずる城島功力氏を就けた。城島氏と同じく輿石氏の指揮下にあった樽床伸二氏は総務大臣として地域主権問題を担当する事になった。樽床氏は大阪選出議員だから地域主権改革を掲げる「大阪維新の会」にとって強烈な牽制となる。

一方、代表選挙では小沢一郎氏に近い議員らが田中真紀子氏に出馬を促し、真紀子氏がこれを辞退して野田再選を支持する一幕があった。これで野田総理は真紀子氏を処遇せざるを得なくなった。真紀子氏もまた細野氏と並ぶ次の民主党の「選挙の顔」つまり代表候補の一人となる。

そしてこの人事で最も肝心なことは反野田派を処遇せず、党内の離党予備軍の不満を見せつけた事である。自力で解散に追い込む力のない自民党はそこに目が向く。それが「深慮遠謀」に見えるのである。

3年前の総選挙で大敗した自民党は衆議院で120議席、公明党の21議席と合わせても過半数に遠く及ばない。従って内閣不信任案を可決できない。出来るのは参議院での問責決議だけである。しかし問責は憲法にも規定のない「いやがらせ」のようなものである。総理が問責を受ければ解散するというものでもない。要するに自民党は解散に追い込む力を持っていないのである。

東日本大震災で無能ぶりをさらけ出した菅総理に自民党の谷垣総裁は不信任案をぶつける事が出来なった。民主党の小沢一郎氏が菅総理の退陣を要求して初めて不信任案を提出した。小沢グループが不信任案に賛成し、民主党が分裂する事を期待しての他力本願の不信任案提出である。しかし小沢氏には初めから不信任案を可決する気はなく、菅総理から「退陣」の言質が得られれば矛を収めて、不信任案は否決された。

メディアは不信任案に賛成しない小沢氏を非難したが、醜態をさらしたのは本当は他力本願にすがるしかない自民党の方である。それが野田政権になると今度は自民党を消費増税に引きずり込んだ。もとより自民党は消費増税を選挙公約に掲げてはいるが、それが選挙で不利になる事を誰よりもよく知っている。そのため民主党が不人気でいるうちの早期解散と引き換えにしようとした。

ところが小沢氏が声高に消費税に反対し、最後は分裂までして見せたので、自民党はその分裂劇に目を奪われた。解散の保証もないまま3党合意に引きずり込まれ、臨時国会中の解散を党内から迫られて谷垣総裁は窮地に立たされた。しかも政治の構図として言えば、民主党から分裂して野党に転じた小沢氏らに協力を求めなければ、自民党は内閣不信任案を可決する事ができない。

臨時国会での解散にこだわった谷垣総裁は最後に小沢氏らが提出した野田総理の問責決議に賛成した。それが3党合意を否定する内容なのにである。この矛盾した行動が谷垣総裁の再選を阻む理由に挙げられて谷垣氏は自滅した。

民主党を解散に追い込むためには民主党を離党して野党に転じた勢力に頼るしかない。そして自民党が小沢氏らに協力を求めなければ解散に追い込めない構図はこれからも変わらない。だから自民党は民主党の過半数割れを期待する。それを分かっているから民主党は離党予備軍を抱えて分裂含みである事を見せつける。

しかし自民党が赤字国債発行法案や選挙制度改革法案を取引のカードとして解散・総選挙を迫っても、民主党離党組がそれで自民党の内閣不信任案に賛成するとは思えない。彼らが賛成するのは3党合意の破棄と消費増税の廃止なのである。そう考えれば民主党が分裂含みを見せつけているのは自民党を翻弄するためだけかもしれない。

自民党が早期解散にこだわって執行部に年内解散のハードルを設けたりすると、硬軟両様の政治手法を使い分けられない安倍新総裁は谷垣前総裁の二の舞になる可能性もある。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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