一般NISAとつみたてNISAの「一本化」が意味するもの
今年末に向けて、NISA(少額投資非課税制度)を今後どうするかが議論されている。その中で、一般NISAとつみたてNISAを、今後「一本化」する案が浮上しているという。
【独自】NISA「一般・つみたて」一本化へ(読売新聞2019年11月27日9:23)
さて、この「一本化」は何を意味するか。
今年6月、金融審議会の市場ワーキンググループが取りまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」が、「老後2000万円」報告書として話題となった。
そもそも、「老後2000万円」報告書の真の狙いは、NISAの恒久化を実現することだった。その経緯は、拙稿「『老後2000万円』問題の落としどころは何か」に詳しいが、要するに、一般NISA(非課税投資期間5年)もつみたてNISA(非課税投資期間20年)も時限措置だから、いずれ期限が来るとその制度が廃止されてしまうのが現状である。なので、それらを恒久的な仕組みに変えたいというのが、金融界、そして金融庁の要望だった。それをサポートするために、敢えて7月の参議院選挙前である6月に、「老後2000万円」報告書を出した。
しかし、野党を始め各種メディアでも「老後2000万円」報告書への批判が上がったため、麻生太郎金融担当大臣はこの報告書を受け取らない事態となった。受け取らないこと自体にも、また別の批判があった。
これで、NISAの恒久化は、今年内の税制改正論議では取り上げられないか・・・と思いきや、12月中旬に取りまとめられる予定の「令和2年度税制改正大綱」に、つみたてNISAの恒久化と一本化に向けた方針が盛り込まれる方向で議論が進んでいるという。
NISAは、運用時に得た譲渡益や配当などに対する所得税を非課税にする仕組みである。だから、その非課税措置をどうするかをめぐって、与党の税制調査会を中心に議論されている。
現状だと、一般NISAは2023年まで、つみたてNISAは2037年までしか新規投資はできない。つみたてNISAは、年に40万円までの拠出には、運用時に非課税となる。他方、一般NISAの非課税拠出枠(投資上限額)は年120万円である。
では、一般NISAとつみたてNISAが今後「一本化」されるとなると、どうなるか。
結論は予断を許さないが、以下の点が焦点となるだろう。
まず、運用資金の使途である。そもそも、NISAは資金使途を問わない。だから、NISAで一たび投資してもいつでも引き出せる。住宅資金でも子どもの学資でも老後資金でもよい。つみたてNISAより先に新設された一般NISAからの仕組みである。
しかし、つみたてNISAを新設する税制改正の際の(隠れた)狙いとして、老後の生活を支える資産形成が挙げられた。それもあって、20年間という長期の投資期間が設定された。これは、明らかに一般NISAの狙いと異なる。
一般NISAと一本化する際には、「運用資金の使途を問わずいつでも引き出せること」と「長期の投資期間」との兼ね合いをどうするかが問われる。資金使途など問う必要はないというなら、なぜ老後に備えた長期の投資期間がNISAで必要なのかと問われることになるかもしれない。老後に備えるなら、中途で引出す必要がないはずだからである。
次に、非課税拠出枠(投資上限額)をいくらにするか、である。一本化するにあたり、つみたてNISAに合わせると、年40万円超の投資をする人が非課税の恩恵が受けられなくなる。だから、要望する金融界や金融庁は非課税拠出枠を一般NISAに近づけたいだろう。しかし、それだと年に100万円も貯蓄・投資に回せない人から「金持ち優遇」批判が出る上、所得税の減免により税収が大きく減るから財務省は反対する。
今のつみたてNISAの非課税拠出枠は、年40万円で投資期間が20年だから、合計で最大800万円となる。この金額は、それこそ「老後2000万円」に届かない。
他方、個人で老後に備えて任意に拠出額を決められる非課税制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)がある。iDeCoは、60歳になるまで拠出できる(目下、それを65歳になるまで拠出できるようにするか検討中)から、最大で20歳から60歳になるまでの40年間非課税拠出枠が与えられている。iDeCoの年間の非課税拠出枠は、勤め先によって異なるが、雇われている人(被用者)は年に14.4万円~27.6万円である。それを40年間拠出すると、合計で最大で576~1104万円となる。
もちろん、NISAとiDeCoは別の仕組みだから、併用することもできる。すると、一本化されたNISAの非課税拠出枠をいくらにするかは、単に2つのNISAの非課税拠出枠だけでなく、iDeCoの非課税拠出枠をも含めて包括的に検討する必要が出てくる。
そして、投資対象商品をどうするか、である。一般NISAは、上場株式と公募株式投資信託が投資対象商品の中心である。つみたてNISAは、積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)のうち内閣総理大臣が商品性についての告示で定める要件を満たすものに限られている。
両者の投資対象商品は同じではない。一本化するなら、その統一も必要となる。ただ、資金使途次第で、短期運用か長期運用かも異なって、求める商品性も異なるから、つみたてNISAに投資対象商品を統一すればよいとは限らない。
加えて、老後に備えた資産運用としてNISAを用いることを想定すれば、運用期間が終了した後の引出し方が問われる。今のNISAは、引き出す際には一括で元本と運用益を引き出すことになる。
しかし、使途が老後資金だと、老後生活の10~20年超にわたり、少しずつ取り崩して使えばよいはずである。NISAで非課税の運用が終わった後に一括で引き出すものの、老後生活で10~20年超にわたり少しずつ取り崩して使うとなると、一括で引き出した資金をその後どうするかも問われる。タンス預金にして特殊詐欺に巻き込まれては身もフタもない。
NISAから引き出した資金を銀行の預金口座に預ければよいのだが、そこで生じる利子所得には利子所得税が課される。NISAの魅力は、引出し時に所得税が非課税となることである(他方、iDeCoは課税される)。NISAから一括で引き出してもすぐに使わないのに、銀行口座に預け替えれば課税されるぐらいなら、非課税のまま据え置いて必要な時に少しずつ非課税で引き出せるようにする方法を検討できないものだろうか。
一つの解決策は、NISAの投資対象商品に年金保険(あるいは取り崩しを年金払いにする金融商品)を加えることである。
このように、NISAの一本化には、自由な引出しを認めるか、非課税拠出枠(投資上限額)をいくらにするか、投資対象商品をどうするか、という点について、しっかりとした根拠に基づいて議論する必要がある。
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【追記】
当記事公開後、2019年11月27日21:55に
NISA、24年に新制度 つみたてとの一本化見送り(時事通信)
が配信された。