アカデミー賞最多7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などエッジの効いた作品から、『ムーンライト』『レディバード』のようなドラマ性の高い作品まで、かずかずの話題作を送り出しているA24。

その勢いとあいまって、最近は彼らが製作した作品のみならず、「A24が北米配給権獲得」などというフレーズがついている作品にも、興味が俄然高まったりするほど。

そんな注目スタジオの日本初公開となる11作品がラインナップされた特集上映「A24の知られざる映画たち　presented by U-NEXT」が開催中だ。

上映されているのはアメリカの“インディーズ映画の至宝”と称されながら、『ファースト・カウ』が日本での初の劇場公開作となったケリー・ライカートが、ミシェル・ウィリアムズと４度目のタッグを組んだ最新作『ショーイング・アップ』。マーティン・スコセッシが製作総指揮を務め、ティルダ・スウィントンが母と娘の二役を演じるゴシックドラマ『エターナル・ドーター』など、バラエティに富んだラインナップ。

『ショーイング・アップ』はライカートらしい淡々とした語り口の中に、個展を目前に控えながらも、小さなアクシデントが続いて創作がはかどらない美術学校の講師リジーを通して、ままならないながらの人生の幸せが浮かび上がる珠玉作。

濃密な人間ドラマは

ときとして究極のホラー？

気になる作品揃いの中でひときわ惹かれたのが、『ザ・ヒューマンズ』だ。

ピューリッツァー賞に2度ノミネート経験のある劇作家スティーヴン・カラムが、トニー賞を受賞した自身の戯曲を映画化した監督デビュー作。

描かれるのは、ある一家が集まった感謝祭の夜。感謝祭やクリスマスに久々に家族が集まると、それまで隠されていた秘密やわだかまりが吹き出すのは、映画ではお約束。本作でも、家族の団欒を過ごすはずだった一家が抱える問題が次々と明らかになっていく。

だが、この作品は一味違う。作品全体をホラー映画のような不気味な空気が覆っているのだ。

一家が集まったのは、次女がパートナーと暮らし始めたチャイナタウンの古びたアパートメント。不気味な音が一家を何度も驚かせたり、突然電気が消えたり、まるでそのアパートメント自体が意思を持った生き物のようなのだ。

はたして、この次女カップルが選んだ家は、安心して住んでいい物件なのか。オカルト的な不穏な気配のみならず、壁の奇妙な膨らみから今にも得体のしれない何かが飛び出してきそうな不気味ささえ漂う建物を舞台に、家族の空気も険悪になっていくなかで、やがて観客はこの不穏な空気の正体を知ることになる。

ジャンル的には「ドラマ」になるのだろうが、実はこれこそが究極のホラーなのではと思わせる極上の心理スリラー。

それなりに人生経験を重ねてきた世代にとっては、「それこそが自分にとっての最大の恐怖です」と、全編を覆っていた不穏な空気の正体に戦慄せずにいられないのでは？　

この濃密な人間ドラマをホラーのように感じさせるあたり、スティーヴン・カラムはそれだけ人間や社会の深淵をえぐっているということだ。

長女役のエイミー・シューマーといい、次女役のビーニー・フェルドスタインといい、それぞれ『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』や『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』といったガールエンパワーメントムービーでコメディセンスを発揮してきた二人が、シリアスな作品で抑えた演技を見せていることで、より一層、作品の不穏な空気が増している。

濃密な人間ドラマを覆う、ホラーめいた空気がたまらない作品だ。

『ザ・ヒューマンズ』(c) 2021 THE HUMANS RIGHTS LLC. All Rights Reserved.

『A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT』

12月22日よりヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかにて４週間限定ロードショー中

2024年1月26日よりU-NEXTにて独占配信