知っておきたい「親の相続」~親に遺言を無理強いすると相続権はく奪も
最近、30代40代の方から「親に遺言を残して欲しい」という相談が増えています。
その主な理由は、親が遺言を残してくれれば、「遺産分割協議」(遺産の分け方を相続人全員で決める話し合い)をしないで親の遺産を引き継げるからです。
ちなみに、遺産分割協議は、相続人全員が合意をしないと成立しません。一人でも反対する者がいれば遺産を引き継ぐことはできなくなります。
以下に、私が受けた、子どもが「親に遺言を残してほしい」相談の代表的な事例をご紹介します。
いつかは迎える「親の相続」。親の相続を円満に乗り切るためにご参考にしてください。
●子どもが「親に遺言を残してほしい」相談事例
「異母兄弟がいる」「相続人同士の不仲」「介護」「多様な財産」「安心」の5つがキーワードです。
その1~親が「複雑な相続関係の種」をまいた
親が離婚経験者で前婚のときに子どもをもうけている。このままだと、会ったことのない異母兄弟と父親の遺産分けの話し合いをしなければならない。「親の責任」として、このような面倒な事態を避けるようにきちんと遺言を残してほしい。
その2~兄弟姉妹と仲が悪い
兄弟姉妹とうまくいっていない。親の遺産分けの話し合いを穏便に済ませるとは到底思えない。
その3~自分の妻が親の介護をしている
妻が父親(妻からは義父)の介護を一手に引き受けている。父は妻に『感謝の証』として「嫁に遺産を残してあげたい」と言ってくれている。相続人ではない嫁に遺産を残すには遺言が必要。
その4~簡単に相続手続を行いたい
親の財産が多岐にわたっている。このままだと相続手続が困難になる。すみやかに遺産を引き継ぎたいので遺言を残してほしい。
その5~家族会議で遺産分けの内容が決まった
親子で話し合った結果、遺産分けの内容が決まった。話の蒸し返しを避けるようなことがないように安心したいので遺言を残してほしい。
●親に遺言を残してもらう「3つの注意点」
親に遺言を残してもらうときに、注意点が3つあります。
「親の意思」「自由の原則」「元気」の3つがキーワードです。
その1~親には「遺言自由の原則」が保障されている
人は、満15歳(民法961条)に達して「遺言をする能力」(民法963条:自分が残した遺言の内容を理解できる能力)があればいつでも自由に遺言を残すことができます。また、遺言を残した後も自由に変更したり撤回(将来に向かって効力を失わせること)もできます(民法1022条)。
このように、人は「遺言を残す・残さない」「(一度残した遺言を)変更または撤回する・しない」の自由が法律で保障されています。このことを「遺言自由の原則」と言います。
つまり、「親の意思が最優先」ということです。
以下、条文をご紹介しておきましょう。
民法961条(遺言能力)
15歳に達した者は、遺言をすることができる。
民法963条(遺言能力)
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
民法1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全文又は一部を撤回することができる。
その2~無理強いは厳禁!
このように、人には「遺言自由の原則」が保障されています。この遺言自由の原則を踏みにじって、親に無理強いして遺言を残させるようなことをすると、場合によっては相続権を失うこともあり得ます(民法891条)。無理強いは決してしてはいけません。
民法891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
(1号~3号省略)
4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
その3~親が「元気なうち」に相談する
親が遺言を残してくれたとしても、その遺言が紛争の火種になることがあります。その原因のほとんどが「遺言能力」に関することです。
つまり、親が遺言を残したときに、「自分が残した遺言がどのような結果をもたらすのか理解できていたか・できていなかったか」が争われるのです。そして、「遺言能力が無かった」となれば、遺言は無効となり、遺産分割協議を行うことになります。
「遺言は元気なうちに残しましょう」とよく言われます。このことは、「遺言能力がある内に遺言を残しましょう。遺言能力が衰えた時に残すと、遺言が原因で『争族』になりますよ」という警鐘なのです。
遺言は遺産分割協議を行うことなく故人の財産(遺産)を受け継ぐことができる便利なものです。しかし、使い方を誤ると、相続人同士が遺産を巡る争いである「争族」を引き起こす原因になることもあります。
特に、親に遺言を残してもらうときに「3つの注意点」をくれぐれもお忘れなく!
現在開催されている国会で、民法改正案が審議されています。この法案が成立すると「親の相続」がガラッと変わります。詳しくは、「親の相続がガラッと変わる!?40年ぶりの民法大改正へ」をご覧ください。