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親の「相続」がガラッと変わる!?40年ぶりの民法大改正へ

竹内豊行政書士
民法改正で親の相続が大きく変わるかもしれません。(ペイレスイメージズ/アフロ)

いつかは必ず訪れる親の相続。親の相続を円満に終わらせるか、それとも親族が遺産を巡って争ってしまう「争族」(そうぞく)にしてしまうかの分かれ道。その原因の一つに「正確な知識」の有無が挙げられます。

そこで、今回は相続制度が大きく変わるかもしれない「民法の改正要綱案」について見てみます。

法務省の諮問機関「法制審議会」相続部会は1月16日、民法の改正要綱案をまとめました。法務省は、法制審議会から法相への答申を受けて、22日開催の通常国会に民法改正案を提出しました。

成立すれば、1980年に配偶者の法定相続分を3分の1から2分の1に引き上げた以来の、実に約40年ぶりの相続制度の抜本改正となります。

以下に改正案のポイントをまとめてみました。キーワードは、「高齢化社会の急速な進展への対策」「自筆証書遺言を巡るトラブル防止策」「相続の不公平感の是正」「金融機関の仮払制度の創設」「不動産登記の義務化」の5つです。

その1.高齢化社会の急速な進展への対策

高齢化社会の現在、残された配偶者(夫または妻)が長生きするケースが増加しています。また、親と同居しない子どもも増えています。

現行法では、相続人は、相続開始の時から、原則として被相続人(亡くなった人)の一切の財産を引き継ぎます(民法896条)。したがって、居住用の土地・建物は遺産分割の対象になります。そのため、自宅以外にめぼしい財産がなければ、死亡した夫が所有していた建物に同居していた妻が、遺産分割のために自宅の売却や退去を迫られて住み続けることができなくなるケースがありました。要綱案では「遺産分割における配偶者保護」としてこうした事態を避けるため、次の制度を設けています。

1.配偶者短期居住権

配偶者が遺産分割の対象の建物に住んでいる場合、遺産分割が終了するまでは無償で住めるようにする権利。

2.配偶者居住権

住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分割する。配偶者は居住権を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に渡っても自宅に住み続けることができる。

居住期間は遺言や遺産分割の協議で決められる。なお、居住権は施設に入所するなどしても、譲渡や売買はできない。

3.住居の遺産分割の対象からの除外(被相続人の意思表示推定規定)

結婚20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったとして、遺産分割の対象から除外する。

この場合、配偶者は住居を離れる必要がないだけではなく、他の財産の配分が増え、老後の生活の安定につなげることができる。

その2.自筆証書遺言を巡るトラブル防止策

終活の一環として自筆証書遺言(自分で書く遺言)を残す人が増えています。しかし、この自筆証書遺言が原因で相続が「争族」になってしまうケースもままあります。そこで、次の制度を設けています。

1.保管制度

自筆証書遺言を法務局で保管できる制度。自筆証書遺言は遺言書の存在が相続から何年も経過した後に発見されて遺産分割協議がやり直しになったり、発見した者が変造したり破棄してしまって遺言が執行されない危険が付き物であった。

そこで、公的機関である全国の法務局で保管できるようにして、相続人が遺言の有無を調べられる制度を導入する。

2.検認制度の不要

自筆証書遺言を法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容を確認する「検認」の手続を不要にする。検認は通常手続きを開始してから完了するまで1か月から2か月を要する。

今までは検認が終わらなければ遺言の執行ができなかった(民法1004条)。この制度の実現で速やかな相続手続が期待できる。

3.パソコンでの作成を可能にする

自筆証書遺言は「全文を自書する」ことが成立要件とされる(民法968条)。そのため、遺言者(遺言を作成する人)の負担が大きかった。また、誤字等によるトラブルも起きていた。

そこで、財産の一覧を示す「財産目録」はパソコンでの作成を可能にするようにする。負担軽減による遺言の普及とトラブル防止が期待できる。

その3.相続の不公平感の是正

相続権のない6親等以内の親族(いとこの孫ら)以内の血族と、3親等(めいやおい)以内の配偶者が介護などに尽力した場合、相続人に金銭を請求できる制度。

たとえば、義父を介護してきた「息子の妻」などが請求できるようになる。ただし、事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人は従来通り請求できない。

その4.金融機関の「仮払制度」の創設

現状では、遺産分割協議が成立するまで原則として銀行等の金融機関は故人の遺産の払戻や名義変更に応じない(いわゆる「口座の凍結」)。そのため、生活費の確保や葬儀費の支払いに支障を来すケースが起きている。

そこで、遺産分割協議が終わる前でも、生活費や葬儀費用の支払いなどのために故人の預貯金を金融機関から引き出しやすくする「仮払制度」を創設する。

その5.不動産登記の義務化

遺言で不動産を相続した場合、登記をしなくても権利の取得を主張できる。しかし、この場合、第三者がその不動産の所有者を確定させるのは困難になるため、不動産の流通に支障を来すことがままある。

そこで、今後、法定相続分を超える分は登記がなければ主張できないようにする制度を設ける。

いかがでしょうか。この法案が成立すると、相続の姿が今と比べてガラッと変わります。

冒頭にも書きましたが、親の相続はいつか必ず起きます。ほとんどの方が他人事ではありません。そして、親の相続を円満に終わらせるには「正確な知識」が必須です。

「争族防止」のためにも、ぜひ法案の行方を注目しておいてください。

30代40代の方から「親に遺言を残してほしい」という相談が増えています。その場合、いくつか気を付けてほしいことがあります。詳しくは知っておきたい「親の相続」~親に遺言を無理強いすると相続権のはく奪もをご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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