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米国にも菅首相のような人がいた! コロナ規制で国民を締め付け、自ら破る官僚たち

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米コロナ対策専門家チーム(タスクフォース)のデボラ・バークス医師(右)。(写真:ロイター/アフロ)

コロナで始まりコロナで終わった2020年。アメリカの今年の顔と言えば、この人たちだろう。ファウチ博士、バークス医師・・・etc

ファウチ博士(尾身会長の米国版)ワクチン接種で安全性アピール

アメリカではこの10ヵ月の間、COVID-19(新型コロナウイルス)医療専門家チーム「タスクフォース」の主要メンバーが、たびたびホワイトハウスで記者会見を開き、新型コロナの脅威と対策を国民に啓蒙してきた。

日本では、新型コロナウイルス感染症対策分科会長の尾身茂博士をよく見た1年だが、尾身会長のアメリカ版が、アンソニー・ファウチ博士だ。

ファウチ博士は、国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の所長で、タスクフォースの主要メンバーの1人。12月24日に80歳の誕生日を迎えるなど、高齢だが精力的に活動をしている。2日前の22日も自らのワクチン接種を一般公開し、開発されたばかりのワクチンの有効性と安全性を身体を張って全米中にアピールした。

22日、ワクチンを打ってご機嫌のファウチ博士。若者にも新型コロナを啓蒙するため、ユーチューバーのインタビューに気軽に応じたりと、博士のカジュアルな姿勢に、筆者の周りでは好感を持っている人が多い。
22日、ワクチンを打ってご機嫌のファウチ博士。若者にも新型コロナを啓蒙するため、ユーチューバーのインタビューに気軽に応じたりと、博士のカジュアルな姿勢に、筆者の周りでは好感を持っている人が多い。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

タスクフォースの少数精鋭メンバー、バークス医師

「タスクフォース」は、今年1月29日に結成された。ペンス副大統領を筆頭に、総勢27人の専門家を擁する。この中で、おそらくファウチ博士と同じくらい、今年アメリカのメディアで見かけた顔と言えば、デボラ・バークス(Deborah Birx)医師であろう。

タスクフォースは男性ばかりの専門家チームだが、“紅二点”の1人がこのバークス医師だ。毎回違う胸元の上品なスカーフが彼女のトレードマーク。誰もが未知のウイルスに対して不安を抱えていた初期(3、4月)のころ、トランプ大統領やファウチ博士らと共に、バークス医師も頻繁に記者会見を行い、最新のファクトを国民に周知してきた。

ホワイトハウスで記者会見に応じる、バークス医師。エイズ研究者である同医師は今年64歳。80年以来、連邦政府で働いてきた。
ホワイトハウスで記者会見に応じる、バークス医師。エイズ研究者である同医師は今年64歳。80年以来、連邦政府で働いてきた。写真:ロイター/アフロ

自らの指導を大胆に違反する官僚たち

さてそんなバークス医師だが、感謝祭休暇中に州を跨いだ移動をしたことが最近になって判明し、問題になった。

感謝祭はクリスマスと並んで人々が帰省(大移動)をする2大イベントの1つだが、その直前にバークス氏は「今年はなるべくステイホームをするように」と、移動や会食の自粛に関するガイダンスを出していた。ところが、幹部自らが大胆にそれを無視したことで、「ダブルスタンダード(発言と行動の矛盾)だ」「適切な予防策を講じたとしても、国民に間違ったメッセージを送った」と非難されたのだ。

21日付のAP通信によると、バークス氏は先月27日、ワシントンD.C.の自宅からデラウェア州フェンウィックアイランドの別荘の1つを夫と共に訪れ、妊娠中の娘夫妻ら3世代が集まった。

同氏は常々、会食をする場合において、人数の問題ではなく、近しい者同士か否かで危険度が変わると述べてきた。つまり同じ屋根の下で暮らしている10人と、4世帯から集まってきた10人とでは、感染の危険性がまったく違うと説いてきたのだ。その上で、休暇前には「すべてのアメリカ人はウイルス拡散を防止するため、犠牲を払う義務がある」と警告していた。

同氏はこの旅行について「感謝祭を祝う目的ではなく売却予定の別荘を冬季に備えて点検する必要があった」「両親が落ち込んで元気がなかった」と弁明した。しかし理由が何であれ、自身が発したガイダンスと矛盾した行動をとったことには違いない。(同氏はこのほか、別の州で別の親族と集まったことも指摘されている)

同氏は次期バイデン政権も支えていくだろうと言われてきた人物だが、22日になり「マスクはちゃんとしていた」と、感謝祭の行動について開き直った態度でインタビューに答えた。また、「両親は1年も自分の息子に会っておらず、私たち家族にとって非常に困難なこと」と、自らの行動についてはどうしても避けることができなかった胸の内を語り、辞意を表明した。

日本だけではない、政治家による「倫理的欠如」

日本でも最近、5人以上の会食をなるべく避け、集まる時は短時間でマスク会食をするようにと言っておきながら、8人の会食に参加したことがバレてしまった菅首相のケースがある。しかし、このような政治家による矛盾は、日本だけではない。

官僚の発言と行動の矛盾について、デザレット紙はコーネル大学ビジネススクールで倫理学を教えるダナ・ラドクリフ(Dana Radcliffe)教授のコメントとして、このように伝えた。

「今回の事例でもわかる通り、アメリカの歴史は政治家の行動と相反する理想を説いた事例で満ちている。それは、奴隷を所有しておきながら『すべての人間は平等につくられている』と宣言したトーマス・ジェファーソン元大統領(第3代)や、ベトナムへの軍事介入を計画していたにもかかわらず『エスカレートさせない』と誓ったリンドン・ジョンソン元大統領(第36代)らの行動を見てもわかるだろう」

同教授によると、このような現象は行動倫理の分野で『倫理的欠如』(Ethical Fading)と呼ばれているそうだ。論理的欠如とは、自らの選択の誤りを隠すために、欺く(自分自身に、自分だけは大丈夫だと言い聞かせる)ことだという。

記事によると、倫理的に欠如している官僚はバークス氏だけではない。禁じられていたにもかかわらず、8月にサンフランシスコの美容院に行ったことがバレて大炎上したナンシー・ペロシ下院議長(民主、カリフォルニア州)や、マスクの重要性を説いておきながら、9月にバージニア州ワシントン・ダレス国際空港ターミナルをマスクなしで歩いているところを目撃されてしまったダイアン・ファインスタイン上院議員(同上)など、6人の官僚らの「矛盾」も同様にあぶり出した。

クリスマス休暇、8500万人が国内大移動?止まらない感染爆発

アメリカは24日より、クリスマスと年末の休暇に入る。政府同様に疾病管理予防センター(DCD)も、休暇中の旅行をできるだけ避けるようガイダンスを出しているが、各空港ではすでに、スーツケースを持った帰省客の大行列ができている。

国内移動は8500万人に上るのではないかという調査結果もある。アメリカでは第2波を大きく上回る第3波が押し寄せているが、人々は何処吹く風。人々の間違った行動による「大きな犠牲」は、今後避けられないだろう。

写真:ロイター/アフロ

感染状況ファクト

アメリカ

人口:3億3100万人

感染数:1838万件以上

死者数:32万5097人

ニューヨーク州

人口:1940万人

感染数:87万1000件以上

死者数:3万6300人

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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