タピオカとプラごみの残念な関係 本家台湾の地道な取り組み
綺麗な理由はごみ箱にあり?
6月末の午後、台湾でタピオカミルクティーの元祖といわれるドリンクスタンド「陳三鼎黒糖青蛙鮮●創始店」に向かった(●は女偏に乃)。場所は、台湾の最高学府、台湾大学エリアだ。その日台北は気温35度に迫る暑さで、昼過ぎにはスコール後の晴れ間が見えていた。店に向かって歩いていると、店頭で店員がごみ拾いをしている姿が見えた。到着してすぐ行列の後ろに並び、前の人たちの注文を何気なく聞いていたら、こんなやり取りがなされていた。
店員「持ち帰り用の袋はご利用ですか」
お客「お願いします」
店員「1元ですけど」
お客「あ、じゃあ結構です」
壁には「台北市の条例により、プラスチック製の買い物袋は有料となっています」という意味の注意書きが張り出されている。現在、台北市内のコンビニエンスストア、スーパーなどでは基本的にレジ袋は有料だ。レジでは袋を買うかどうか訊ねるのがすっかり定着しており、大型チェーンだけでなく小売店にもその動きは広がっている。筆者はボトル持ち運び用のドリンクカバーを取り出し、袋は不要と伝えた。
ドリンクを受け取り、付近をぐるり一周してみた。ドリンク容器のごみは見当たらなかった。むしろ、しっかり掃除されていて綺麗だな、というのが率直な感想だ。
翌日、今度は違うエリアの店に向かった。MRT西門駅周辺は、たとえるなら渋谷原宿だ。若者や観光客が多く、週末の夕方ともなると人でごった返す。ここでも店先に行列ができている。
ちなみに先の店は学生街的な雰囲気でお客さんも学生のようだったが、こちらの店で前に並んでいたのは家族づれ。三世代一緒に旅行といった様子だ。小学生くらいのお子さんも、おばあちゃんも、5人それぞれ1本ずつ手にして、そのまま店を離れていった。
筆者は品物を受け取った後、店員に「ごみ箱ってこの近くにあります?」と訊ねてみた。彼女はちょっと考えると「あそこにありますよ」と5メートルほど先の公共ごみ箱を指差した。改めて付近を見てみると、結構な数がある。中には、飲み終わったドリンクのボトルが見える。
ドリンク片手にエリアを歩いてみることにした。すれ違う人は観光客もいたし、学校ジャージ姿の生徒もいたが、同様に使い捨てボトルを抱えている。
だが、ここでも路上には思ったよりごみがない。それよりも、ごみ箱が目につく。とりわけ屋台の並ぶ通りには、ほぼ10メートル感覚で左右互い違いにごみ箱が置かれていた。ステンレス製で資源ごみと一般ごみの2つセット。ごみ箱の前で観察していると、誰もがきちんとごみ箱に入れていく。ごみ箱の数は、本当に多かった。最初に行ったエリアには、MRTの駅近くにはあったものの、店周辺にはなかったので、エリアによって数に違いがあると思われる。それも、やはり地域の人たちがごみの問題を認識している証だろう。
だが、それではボトルごみが適当に捨てられていないかというと、残念ながら台湾も同じだった。本家の台湾でもタピオカドリンクのごみの問題はあるのだ。
台湾でのごみ削減に関連する取り組み
野外に置かれたごみ箱を設置しているのは、台北市政府環境保護局だ。1991年から始まったこの施策、2015年時点では市内に約3,000個あった。ごみ箱は、あくまでも通行人が使用するものという前提がある。にもかかわらず近年は、家庭ごみを捨てる事例が見られ、現在では2,000個を下回る数に減ってしまった。一方でごみ箱の位置を知らせるアプリも提供されており、市政府の努力も伝わる。
このほかに屋外では、MRT各駅とコンビニのごみ箱が利用可能だ。ちなみにコンビニは、日本では屋外に設置されているが、台湾では店舗内にある。
さまざまな場所にごみ箱が設置されていることで、路上を清潔に保つことができている、といってもいい。もちろん心無い人はどこにだっていて、そうでないケースもあるけれど、行政サイドによる努力は重ねられている。
西門エリアでとりわけ目についたのは、ドリンク容器よりもストロー袋だった。おそらく歩きながら開けた袋がそのまま路上へ、という運命を辿ったのだろう。店によっては、店頭にストロー袋のごみ箱が設置されているのだが、追いつかないのかもしれない。
具体的な取り組みもさることながら、台湾全体で見られるごみ削減の文化や習慣もある。
まずあげられるのが「持ち帰り文化」だ。外食の際、注文量が予想していた以上で、残り物が出てしまうことは誰もが経験するものだ。ここで日本なら、ごめんなさいと思いつつもそのまま店を去るところだが、台湾では「これ、包んでください」と言えば店の人がすぐに準備し、持ち帰りにしてくれる。通常の外食だけでなく、たとえば披露宴で出されたコースメニューも持ち帰る。筆者は知人の料理好きな方の御宅でいただいた夕食を「これ、帰って食べなさい」といって持たせてもらったことがある。
その容器として使用されるのは、基本的に紙製品だ。サイズも大小あり、汁物だってOK。だから、食べ残しても罪悪感はないし、ごみも減らせるので一石二鳥だ。
日本にもある事例ではあるが、台湾のマイ箸持参率は高い。中には、「割り箸で環境に負荷をかけるのが嫌だから」と外食先でもマイ箸を利用する姿も見られる。
箸だけではない。マイボトルの持参もかなりの確率で見かける。台湾を旅行したことのある方なら、背負ったリュックのポケットにマイボトルが挟まっている後ろ姿を目にしたことがあるのではないだろうか。日本なら、飲み物というとペットボトルを手にしている人が多いが、台湾ではペットボトル持参者はむしろ少数派といっていい。カフェやドリンクスタンドの中には、ボトルを持参すれば割引、という店舗もあるほどだ。
こうした取り組みは、地味なようでいて、すでに習慣化されているものばかり。持ち帰り文化に至っては、店側の対応次第なので難しそうだが、これまでの経験上、持ち帰り非対応の店に遭遇したことがない。人と店の双方、社会全体でこの文化を作り出しているわけだ。
使い捨てストローの店内使用禁止は7月1日から
プラごみに関連するものとして、台湾で大きく話題になったことがある。台湾の離島である澎湖諸島や小琉球は、ウミガメの産卵場所として知られる。報道によれば、毎年年間200件のウミガメ保護依頼があるという。さらに、見つかった時にはすでに死亡しているケースもあるのだが、ここで問題になるのが、ウミガメの死亡原因だ。あるものはプラごみの誤飲が、さらにあるものは漁師網が体に巻きついて身動きができなくなるなど、いずれもプラスチックとのかかわりが指摘されていた。
こうしたことから、少しずつだが新たな動きも見られる。目覚ましいのが、ストローの素材変更による再利用化だ。まず2013年にステンレス製のストローが開発された。そこから火がつき、タピオカも飲める太めのサイズのものも生まれ、ガラス製のストローへと代替素材による開発へと動きが拡大している。掃除のためのブラシもあり、利用をスタートさせた外食店も出てきた。さらには、ストローを使わずにタピオカドリンクの飲めるボトルも生まれた。
もちろん台湾の対策が万全というわけではない。ただ、個人的には、台湾の環境保護に対する意識の高さは、日本以上と感じる。
さらに、台北では7月1日から店内利用の客に対する使い捨てストロー禁止になった。市政府のサイトによれば、台湾では毎年、プラスチック製のストローが約30億本使用されており、処理品目の上位5位にランクインするという。国際的に使い捨て用品の環境問題が注目されていることを受け、この削減に取り組むことになったそう。ゆくゆくは全面禁止をめざすことが明記されている。これから外食先でどんな姿が見られるか、注目してみたい。
最後に。台湾には「公徳心」という言葉がある。台湾教育部制作の辞書には、公徳心の例文にこうある。「環境保護でまず大切なのは、一人一人が公徳心を発揮することだ」。日本台湾関係なく、誰もが肝に銘じておきたいものだ。