Yahoo!ニュース

噂のバンド・Kroiが描くブレイクへの美しい軌道 新世代のブラックミュージックにハマる人が続出

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/IRORI Records

7月7日放送の「Mステ」の初出演し、そのパフォーマンスが話題に

7月7日に放送された『ミュージックステーション2時間スペシャル』(テレビ朝日系)に、現在飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンを駆け上がっている5人組バンド・Kroi(クロイ)が出演し、「Balmy Life」を披露。音楽プロデューサーのヒャダイン、蔦谷好位置が推す注目バンド、話題になったドラマ『silent』(フジテレビ系)の劇中で「Balmy Life」が流れトレンド入りした等、わかりやすいキーワードで彼らが紹介されていたが、何よりその演奏が“一聴瞭然”、視聴者に大きなインパクトを与えたはずだ。

ブラックミュージック全般を基点に、様々な音楽を飲み込み、消化しアプローチ

左から長谷部悠(G)、内田怜央(Vo、G)、益田英知(Dr)、関将典(B)、千葉樹(Key)
左から長谷部悠(G)、内田怜央(Vo、G)、益田英知(Dr)、関将典(B)、千葉樹(Key)

1stアルバム『LENS』(2021年)
1stアルバム『LENS』(2021年)

「Balmy Life」は2021年リリースの1stアルバム『LENS』のオープニングナンバーであり、全国47のFMでパワープレイを獲得し、街中至るところで流れる“街鳴り”でも多くの人が耳にした、Kroiの名を世に知らしめた名刺代わりの一曲だ。ファンキーかつメロディアスなこの曲を始め、ブラックミュージック全般を基点に様々な音楽を貪欲に飲み込み消化し、アプローチしたミクスチャーサウンドだ。そのカオティックな音楽世界から生まれるソウルフルなグルーヴは唯一無二だ。

Kroiはほとんどの曲のソングライティングを手がける内田怜央(Vo、G)、長谷部悠(G)、関将典(B)、益田英知(Dr)の4人で2018年に結成。2019年千葉樹(Key)が加入。2021年ポニーキャニオン/IRORI Rrcordsからメジャーデビューを果たした。同年「Juden」が『ダイハツROCKY-e:smart』のCMに起用されるなど、シーンの“次”を担う存在としてフェスにも引っ張りだこになり、大きな注目を集めた。筆者も1stアルバム『LENS』を聴いて、“なんだこれ!”とその才能に度肝を抜かれ、ライヴを一刻も早く観たいと思ったが、なかなか機会に恵まれなかった。

感度がいい音楽ファンが集まる新世代ジャズフェス“ラブシュプ”で見せた圧巻のパフォーマンス

初めて彼らのライヴを観ることができたのは今年5月に開催された『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』だった。ヘッドライナーにGEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC、そしてジャズ/ソウル/ヒップホップシーンのスーパースター TERRACEMARTIN、ROBERT GLASPER、KAMASI WASHINGTONがタッグを組んだ超豪華プロジェクト・DINNER PARTYという超大物アーティストを迎え、他にも新鋭からベテランまで、ジャズ、ソウル、ファンクを横断する上質で洗練された音楽を奏でるアーティストが集結した新世代ジャズフェスだ。様々なジャンルと年代の音楽を、鋭い感性でディグアップし誠実に向き合い、オリジナリティを追求しているKroiには、うってつけのステージだった。

Kroiの演奏が始まった瞬間、感度がいい耳を持つ音楽好きが集まっている客席の空気が変わった。メンバーそれぞれの高いテクニック、表現力が隅々から伝わっくるダイナミクスとそこから生まれるグルーヴは他とは違うということを、客席は一瞬で感じ取った。鋭いラップ、コブシが効いたシャウトで引きつける「Drippin’ Desert」、複雑かつ快楽的な構成と内田の変幻自在のボーカルが交際する、Kroiの真骨頂とでもいうべき一曲「Juden」、そして70年代のニューソウルの薫りが漂う「風来」は、太いリズムと美しいメロディ、コーラスが絡む一度聴くと忘れられないメロウなミディアムナンバーだ。一曲一曲テンションがガラッと変わる面白さ、アグレッシヴかつユーモアがあって、狂気も漂わせつつメロディアスなその音楽に、雨の中、全員が体を揺らし全身でKroiの音楽に酔っていた。

ジャンルを複合的かつ有機的に横断しているバンドと音楽は、他にも多数存在する中で光る、Kroiの圧倒的な存在感

Kroiのこれまでの作品を聴いて、そしてライヴを観て改めて感じたのは、ある音楽を基点にジャンルを複合的かつ有機的に横断しているバンドと音楽はたくさん存在するが、でもKroiが生み出す音楽はどこか突き抜けている。なぜそう感じるのだろうか。メンバーそれぞれが持つ知識や理論以上に、自由度を尊重し荒々しさから生まれる熱量を大切にしている感覚――それが得も言われぬ感動、“カッコ良さ”を生む源泉になっているのではないだろうか。ライヴでも感じたダイナミクスは、超絶テクを駆使する高い演奏力を誇るメンバーが弾き出し、できあがるアンサンブル、熱と、肌からも伝わってくる波動から生まれる。それが聴き手の感性をくすぐってくる。

語りたくなるバンド、誰かに教えたくなるその音楽

Kroiとその音楽については様々な書き手が分析、評論し解き明かそうとして、様々な言葉が飛び交っているが、語りたくなり、誰かに教えたくなるバンド、音楽なのだ。もちろん多数存在する彼らのインタビューを読めば、それが全てだとは思うが、Kroiの音楽を誰かに伝えたい時、こうやって自分でも書いていて感じるが、言葉で理路整然と表現することはできない。それはやはり5人が理論や知識よりも、音楽を自由に荒々しくクリエイティブし、楽しみ、研ぎ澄ませていくその“肌感”がKroiの音楽の大きな部分を占めているからではないだろうか。できあがった音楽を、メンバーの千葉がミックスエンジニアとして最終的に完成させ、その“肌感”を余すことなくパッケージしていることも大きい。だから常に新作が楽しみで仕方ない。

EP『MAGNET』(3月29日発売)
EP『MAGNET』(3月29日発売)

2022年7月に2ndアルバム『telegraph』を発表。同年11月にはZepp DiverCity(TOKYO)、2023年1月に初ホール公演LINE CUBE SHIBUYAでのライヴをソールドアウトさせた。今年3月にリリースしたメジャー2ndEP『MAGNET』は、原点、ルーツを再確認するようなアグレッシブさと情熱が詰まっている作品だ。強烈な個性を放つ、実験的な薫りの音楽を提示しつつ、きちんとマスに届けようという意志がそこには大きく存在している。

2024年1月日本武道館公演が決定

この作品を引っ提げ4月から6月にかけて全国のライヴハウスと東阪ホールを巡ったツアー『Kroi Live Tour 2023 “Magnetic”』を開催。6月23日のファイナルは自身最大キャパの東京・NHKホールだった。もちろんソールドアウトさせ、熱狂を生み出していた。さらに強度を増したバンドはこの夏、国内外の主要フェスに精力的に出演し、来年1月20日はいよいよ日本武道館のステージに臨む。ここからKroiとその音楽への注目度の高まりが、さらに加速していきそうだ。

Kroiオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事