金融資産を持たない世帯、夫婦世帯は1/4近く・単身世帯は1/3強(2023年公開版)
金融資産と認識している資産を持つ人はどれぐらいいるのだろうか。その現状と過去からの推移を金融広報中央委員会の「知るぽると」が毎年実施している調査「家計の金融行動に関する世論調査」(※)の公開結果から確認する。
「金融資産」があるか否かの問いに対し、「ある」と答えた世帯の推移が次のグラフ。単身世帯の調査は2007年以降なため、単身・二人以上世帯の比較がしやすいよう、今世紀に限定したグラフも併記した。
個人のプライベートな事情、資産に関するポリシーなどもあり、100%はありえないものの、前世紀末までは9割台を維持していた二人以上世帯の「金融資産保有率」。しかし21世紀に入ってからは少しずつ減少している(約10%ポイント下がっている)。その後二人以上世帯では8割近くまで戻したが、2011年では前年比で6.3%ポイントもの急落が起きている。この下げ幅は奇しくも2002年から2003年における不景気下でのものと同一で、少なくとも「二人以上世帯の金融資産保有率」の観点からは、景気後退の流れはほぼ同じレベルであることがうかがえる。
単身世帯では二人以上世帯よりも早く、金融資産保有率の上で、不景気の影響が出ている。グラフを見れば分かる通り、2010年から大幅な下落が確認できる。2009年からの2年間での下げ率は8.8%ポイント。2011年において単身世帯の4割近くは「金融資産を持っていない」との計算になる。
他方2018年以降は設問の変更(厳格化)が行われたこともあり、大きな増加が見られる。設問内容の限りでは、むしろこれまでは低めの値が出ており、2018年以降が実情を正確に表していると見てよいようだ。なお、預貯金口座や証券口座などの口座を一切持ち合わせていない世帯は単身世帯で2.2%、二人以上世帯で1.3%となっている。
今件の「金融資産」はあくまでも現金以外で、明確に金融資産として貯蓄しているものと認識している場合に限定される。今世紀に入ってから金融機関の金利が急落して事実上のゼロ金利となっているため、貯蓄目的としての預貯金、特に定期や定額の預貯金の意義がほとんど無くなり、流動性の高い普通預貯金口座に、日常的な出し入れ・引き落としに備えたお金と、運用のためや将来に備えて蓄えているお金を合わせて預け入れているケースが増えている。そしてそのような使い方をしている場合、貯蓄としての金融資産とそうでない常用的な資産との区分があいまいになっているのが実情である。2018年分からの設問の変更もこの現状に合わせてのものだが、それでもなお、区分が明確ではない人がいることは否定できない。
他方、他の項目を見ると今世紀に入ってからの金融資産保有率の下落とともに持家率が上昇しており、さらに今件金融資産では不動産をはじめとした実物資産は該当しないことから、「貯蓄から投資へ」ではなく「投資から実物資産へ」の動きが生じている可能性もある。
住宅への(実利用しながらの)投資もまた、金融資産保有率の減少の一因との考えは的外れなものではなかろう。
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※家計の金融行動に関する世論調査
直近分となる2023年分は世帯主が20歳以上80歳未満の世帯に対しインターネットモニター調査法で、2023年6月23日から7月5日にかけて行われたもので、対象世帯数は単身世帯が2500世帯、二人以上世帯が5000世帯。過去の調査も同様の方式で行われているが、二人以上世帯では2019年分以前の調査は訪問と郵送の複合・選択式、2020年では郵送調査式だった。
今件における「金融資産」とは、預貯金・有価証券・保険などの金融商品を意味する。事業性の預貯金(家計で蓄財しているものとは別個)は「金融資産」には該当しない。また、土地や住宅、貴金属などの実物資産なども含まれない。
2017年までは単純に「金融資産を保有しているか否か」で問われていたが、2018年以降は「預貯金や株式などの金融商品を列挙し、そのいずれも保有していない」あるいは「預貯金は有るがその中で運用または将来の備えがゼロ」の世帯を金融商品非保有世帯としている。クレジットカードの支払いに代表される口座からの自動引き落とし制度の利用が日常化し、預貯金口座を運用や将来への備えと、日常的な引き落とし口座との兼用として使うケースが増えたことによるものと考えられる。2017年までは「預貯金は運用または将来の備えの部分を金融資産とし、日常的な出し入れ・引き落としに備えている部分は除いてください」との説明が行われていた。
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