クロノジェネシス・グランプリ3連覇、影の立役者と騎手を巡る天の配剤
宝塚記念制覇、影の立役者に贈る言葉
6月27日、阪神競馬場で行われた宝塚記念(GⅠ)を制したのはクロノジェネシス(牝5歳、栗東・斉藤崇史厩舎)。これで昨年の宝塚記念、有馬記念(GⅠ)に続くグランプリ3連覇。それも圧勝続きなのだからこのカテゴリーの現役最強という声が上がるのも頷ける。
そんなディフェンディングチャンピオンだが、今回、これまでと違った点が一つあった。鞍上のパートナーである。2018年のデビュー戦からドバイへ飛んだ前走のドバイシーマクラシック(GⅠ)まで全14戦で手綱を取った北村友一が5月2日の阪神競馬で落馬。大怪我を負ったため、今回は騎乗出来なかったのだ。
そこで代打騎乗となったのがクリストフ・ルメール。レース後には「難しい事はありませんでした。北村友一君が大事に育ててくれたから」と無念の休養を強いられる戦友にエールを送った。
また、管理する斉藤崇史は次のように語った。
「レースが終わってすぐに電話で報告をしました。今のクロノジェネシスがあるのは彼がずっと丁寧に乗ってくれたお陰です。こういった長めの距離を走れるようになったのも彼のお陰だと思っていますから……」
秋は凱旋門賞挑戦か?!
さて、こうしてグランプリ3連覇を飾ったクロノジェネシスだが、秋には凱旋門賞(GⅠ、フランス)に挑戦するプランもあるという。毎年10月の第1日曜日、今年は10月3日に行われるこのヨーロッパ最高峰のレースで過去に好走したディープインパクト(2006年3位入線後失格)やナカヤマフェスタ(2010年2着)、オルフェーヴル(2012、2013年に連続2着)はいずれも宝塚記念を快勝した実績があった。春先から現地入りしていたため宝塚記念を走る事はなかったエルコンドルパサー(1999年2着)も、もし春のグランプリに出走していたら最有力候補の1頭にはなったはずである。そんな相関性のあるレースを、圧倒的な強さで2年連続優勝したクロノジェネシスは、凱旋門賞馬バゴの産駒という事もあり、軽視は禁物の存在になった。再び斉藤の弁。
「この春にドバイ遠征を経験した事で馬がドシッとしてきました。フランス遠征となれば、それがまた活きると思います」
ジョッキーを巡る天の配剤
ところで、パリロンシャン競馬場の2400メートルに挑むことになった場合、その鞍上は果たして誰になるのだろうか。北村友一の復帰はまだまだ先になるという話である。となれば、引き続きルメールが指名されるのだろうか。クロノジェネシスとタッグを組んだ経験があり、かの地の特徴も知るジョッキーとなると、これほどの適役はいない。フランス時代の彼は凱旋門賞で2着はあるが、勝つ事は出来なかった。第2の故郷である日本の馬とタッグを組んで大一番を制すのは彼の夢でもあるので、応援したいものだ。
ちなみに今回の宝塚記念のタイミングでトップジョッキーのルメールが空いていたというのは彼にとって僥倖とも言えるが、これには競馬の神様のちょっとした差配があった。
時は昨年の10月に遡る。この月の18日に秋華賞(GⅠ)が行われた。デアリングタクトが優勝し、無敗の3冠牝馬になったレースなので競馬ファンにも強く印象に残っているだろう。フルゲートで行われたこのレースは、3勝馬が抽せんの上での除外対象となった。ボーダーライン上にいたのは6頭で、その中にはレイパパレもいた。除外となるのは2頭だけで、4頭は出走可能になる抽せんだったが、レイパパレはこの比較的、穴の大きな網に引っかかってしまう。2頭の除外のうちの1頭という憂き目にあってしまったのだ。
ちなみにもし除外になっていなければ、レイパパレはルメールと共に秋華賞に出走していた。これは主戦の川田将雅にはもう1頭のお手馬であるリアアメリアがいたため。もしレイパパレが除外になっていなければ、そして秋華賞を制していたら、その後はルメールとのコンビが継続されたかもしれない。しかし、そうなると今回のクロノジェネシスの鞍上は誰になったのか? その場合はもしかしたらこちらが川田になったのかもしれない。勝負事に“イフ”は禁物だが、天の配剤の妙味を感じずにはいられない。そんな事も考えさせられる結果となったのだが、何はともあれまずは今回の影の立役者と誰もが認める北村友一騎手の、一日も早い復帰を願うこととしよう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)