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残暑高温 泳ぐ気のない水難事故の危険大 連休の月曜日は要注意(15日夜追加版)

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
9月7日に女の子2人が溺れて亡くなった愛知県の矢作川の現場(筆者撮影)

 9月14日ー16日の秋の連休、関東から西では、秋とは思えない高い気温の残暑に見舞われています。9月15日10時現在の天気予報では明日も関東から西は晴れて高い気温に見舞われるようです。晴れて気温が高ければ、観光客も増えて、当然水難事故も発生します。秋の水難事故の特徴とともに、注意すべき点を解説します。

河川に注意

 秋の行楽で定番は山。少し山に入ると気持ちのよさそうな川が目に入ります。水に入る気がなかったのに川に入ると思わぬ水難事故につながります。その理由は、

1.ライフジャケットがない 水に入って遊泳する時にはライフジャケットや浮き輪などの浮き具が必須です。ところが、最初から水に入って遊ぶ予定がないと、そういう準備がありません。「少しの時間だから、まあいいか。」これが危ないのです。

2.足だけ浸かればいいと思う  泳ぐ気がないので足だけ浸かれば溺れるわけがない。このように思って溺れてしまった例が、大阪府高槻市で発生した水難です。川床の構造は複雑で、数m先まで膝下だったのが、その先は大人の背丈を超える深さだった、ということは普通にあります。「泳がないから」という思い込みが最も危険です。

3.このところ晴れていて水量が少ない  激しい流れだと人は川に近づきません。穏やかで水深も深く見えないからこそ、川に入ってしまいます。穏やかで涼しげな川は「おいで、おいで」していると考えてください。

堰堤に注意(15日夜追加版)

 川の流れに高低差をつける堰。これを堰堤といいます。堰堤の付近では川が急に深くなっています。浅いと思って足を浸けた瞬間、潜ってしまいます。人間は潜った瞬間になすすべもないと垂直に沈み、水面にあがってきません。瞬間的に、助けを呼ぶ時間もなくです。特に土石を止める役割をもつ堰堤は、堰堤のすぐ上流も、すぐ下流も、深くなっています。堰堤の上を歩かないでください。

橋から飛び込まないで(15日夜追加版)

 気温が高くて暑いとついつい橋から飛び込みたくなります。大きめの川でも海でも、橋上から見ると水面までの距離が近く見えます。かなり大きな誤差を生じます。航空隊の隊員でも目測を見誤って、ヘリコプターから10 mかと思い飛び込み、実際には15 m以上あり、なかなか水面に至らず「やばい」とヒヤッとすることがあります。

 なぜやばいかというと、高ければ水中深く潜るからです。水面に達する瞬間にちょっとだけ両脚が前に出ていれば、水中斜め方向に沈むのでほとんど潜りません。一方、完全に両脚が水面と垂直に潜ればずっと深く潜ります。5 mも潜れば水面に出てくるまで呼吸がもたないことがあり、溺れます。

 橋から飛び降り、1回目、2回目は浅く潜っても、3回目は深く潜るかもしれません。1度目、2度目が安全でも、3度目は死ぬかもしれません。

干満の差に注意

 海では、潮流に流される事故に要注意です。図1のような注意書きは、本当に命にかかわる注意です。

図1 過去に貝採り中に溺死が多発した地点の注意看板(筆者撮影、15日13:45追加)
図1 過去に貝採り中に溺死が多発した地点の注意看板(筆者撮影、15日13:45追加)

 9月13日は中秋の名月でした。12日から15日が大潮です。つまり干満の差が激しくて、満潮から干潮に向かう時やその逆で海岸においては、潮の流れが激しくなります。気をつけたいのは、潮干狩りやシュノーケリング。

 今の時期は潮干狩り禁止のところが多いのですが、それでも親子連れで潮干狩りをしている姿を見かけます。さまざまな理由があって、図2のように干潮時に人目につかないところや沖合まで歩いていって、気が付いたらいつの間にか海水に浸っていて、陸に逃げようと思っても時すでに遅し、といった水難事故が多発するシーズンでもあります。大潮は干満の差が大きいことをお忘れずに。

図2 遠浅海岸だとついつい沖まで潮干狩りに出ますが、帰る時に時間がかかるのをお忘れなく(筆者撮影、15日13:45追加)
図2 遠浅海岸だとついつい沖まで潮干狩りに出ますが、帰る時に時間がかかるのをお忘れなく(筆者撮影、15日13:45追加)

 

 すでにシュノーケリングをする時期にははずれていますが、多くの人がシュノーケリングにでています。しかもライフジャケットをつけずに。特に岩場では満潮から干潮に向かう時に岩と岩との間のすきまから海水が沖に向かって激しく流れていきます。シュノーケリング中にその流れにつかまれば沖合に流されて戻ってこられなくなります。離岸流と違い、海全体の流れが沖に向かうので、そうそう自力で泳いで戻れません。

明日の月曜日は特に要注意

 3連休の月曜は要注意! 沖縄の海で水難事故が多発 「連休最後は無理して楽しもうという心理が働いているのでは」琉球新報に啓発記事が出されました。今年の沖縄は異常というほどの水難事故件数に見舞われました。今、最も警戒しているのが月曜日です。9月16日と9月23日です。このことは日本全国どこでも同じことが言えます。今日は十分楽しめたとして、明日の月曜日は家に帰ることに専念して、無理に水に入らない。また来年くればいいじゃないか、という気分で過ごせればと思います。

溺れそうになったら、ういてまて

 この時期、有利なこともあります。着衣のまま水に入ることが多いので、溺れそうになったらすぐに図3のように背浮きに移りましょう。着衣の間の空気を逃さないようにできます。このようにして呼吸を確保して救助を待ちます。靴の浮力は重要ですから、川に足を浸けるにしても靴やサンダルのまま入ってください。周囲の人は助けに行こうとしないですぐに119番通報。もし助けに入って溺れそうになったら、一緒に浮いて救助を待ってください。

 「琵琶湖でおぼれた4歳男児、元気に回復 命の恩人と再会」(朝日新聞デジタル)。この記事にも出ていますように、浮いていて発見が早ければ、たとえ呼吸が止まっていても助かる確率は高くなります。望みを捨ててはだめです。なぜかについては、記事下のオーサーコメントを参照してください。

図3 ういてまて。子供の背浮きの様子(筆者撮影)
図3 ういてまて。子供の背浮きの様子(筆者撮影)

おわりに

 楽しい行楽。月曜日には笑顔で帰宅できるようにしてください。「人生、楽しんでなんぼ」の世界です。自然の中に積極的に入って、海、川、山を精一杯楽しみましょう。でも自分の命を守るのは自分です。水難事故に遭った時、万が一の時に呼吸をどうやって確保するか、少し考えていただければと思います。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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