優勝キャプテン・森本耕志郎(石川MS)、NPB戦での収穫を糧にドラフトに向けてラストスパートをかける
■NPB球団との試合で収穫
1秒たりとも、無駄にはしたくなかった。
石川ミリオンスターズの森本耕志郎選手はNPB球団との一戦で、盗めるものはすべて盗んでやろうと目を凝らし、“目指す舞台”にいる選手たちの動きを脳裏に焼きつけていた。
6月4日にオリックス・バファローズ、8月6日に北海道日本ハムファイターズ、そして同27日に阪神タイガース、それぞれのファームと対戦した。
「相手のシートノックとか、試合中のジェスチャーとかを見ていました。やっぱりスローイングの質とかコントロールとか重要だなと思ったし、身のこなしっていうか、そういうところも見ていましたね」。
とにかく何ひとつ見逃すまいと、必死に目で追った。
先のタイガース戦では「榮枝(裕貴)さんの練習でのスローイングを見ていて、力感なく投げられていたので、そういうのを真似したいなって思った」と教材にした。
また、中川勇斗捕手のバッティングに目を奪われ、「すごかった。見て学ぶのは難しいですけど、あれくらい打てたら…。体もそこまで大きいバッターじゃないのにあれだけ飛ばしているのは、やっぱりスイングの中で参考にできることがあるんじゃないかと、ベンチから見ていました」と、なんとか秘訣を探り出そうとし、“打てるキャッチャー”としてのお手本に掲げた。
ファイターズ戦の前には、捕手としての師匠でもある岡﨑太一監督(元阪神タイガース)から、「タイミングを見とけよ」との課題を与えられていたと明かす。
「サードコーチャーのサインをまず見て、それから自分たちのベンチのサインを見てってするんですけど、タイミングまで考えたことなくて…。そのタイミングが、僕はあまりよくなかったんです。それで相手のタイミングをしっかり見て、勉強しろって言われました」。
そのタイミングというのは、「試合のリズムとか、そういうのが変わったりするので」と非常に重要なのだという。まさに捕手出身の指導者でなければ、できないアドバイスだろう。
ファームとはいえNPB球団との試合は「やっぱり目標としているところなので、レベルの高いところと試合ができて勉強になった」と、収穫がもりだくさんだった。
自身がNPBでやるためには今、何が必要なのか、何が足りないのか。しっかりと“現在地”を把握できた3試合でもあった。
■深いところまで考えるようになり、大量失点が減少
長野県で生まれ育ち、山梨県の駿台甲府高校を卒業してミリオンスターズに入団した。ルーキーイヤーの昨年から注目はされていたが、まだまだ実力不足だった。
だが、今年は捕手出身の岡﨑監督が就任し、キャッチャーとしてのイロハをたたき込まれている。岡﨑監督の教えをスポンジのように吸収し、自分でも急速な成長に手応えを感じる日々だ。(関連記事⇒「“岡﨑チルドレン”がドラフトに向けて急成長!NPBを目指す石川MS捕手・森本耕志郎が進化したワケとは」)
「配球のこととか、去年よりもいろんなことを考えられるようになりました。考えることが増えたというより、今まで考えていたその先の、もっと深いところまで考えるようになりました」。
たとえば、と例を挙げる。
「ピッチャーが今日はこのボールがストライク入っている、でも風がこう吹いているからあんまり引っ張らせたくないな、じゃあこれじゃないほうがいいかな、とか」。
昨年までなら投手のことだけを考えていたのが、今年は風や状況、バッターの調子など、さまざまな情報を加味し、それらをすべて考慮した上での配球を考えるようになったと胸を張る。自分なりにデータも蓄積している。
そうして考えて配球することで、「1イニングで大量失点というのは、少なくなりました」と、結果として表れているという。
■名前に共通点がある選手とは…
シーズンも佳境に入り試合日程が詰まっているとなかなか時間はとれないが、シーズン序盤はNPBの試合もよく見ていたと振り返る。
「キャッチャー目線で試合を見るんですけど、どのキャッチャーもそれぞれ考え方が違うんで、自分の考えと合っていたり、『そうなるんだ』と感心したり…。とくに誰がどうとかはあんまりないんですけど、勉強になりますね」。
タイガース戦の前に、「タイガースの選手で」と限定して目標とする捕手を挙げてもらうと「坂本誠志郎選手です」という答えが返ってきた。
「一つ一つのプレーに対して、とても堅実にこなしている。フレーミングや配球など、キャッチャーとしてめちゃくちゃ参考にさせてもらっています」。
そして、「あとは…」と付け加えた理由がおもしろい。「個人的にちょっと名前がに似ている(笑)」。なるほど、名前の後ろの『志郎』が同じだ。そういうのって、自ずと親近感がわくものだ。
■高卒2年目でキャプテン就任
ほとんどが年上の選手の中で、高卒2年目にして岡﨑監督からキャプテンに任命された。「監督は、もっと自分からガンガンいけという感じなんだと思います」と自分なりに、その意図を受け止めている。
高校時代にもキャプテンは経験済みだが、「あんまり声でガツガツ言うタイプじゃなかったです」と言い、どうやら黙って背中で引っ張るタイプだったようだ。
岡﨑監督もあえて若い森本選手にキャプテンという要職を任せて、チームをまとめ引っ張っていくという自覚をもたせたかったのではないだろうか。それは間違いなくキャッチャーとしての成長にもつながるだろう。
「なんにもしてないですけど(笑)」と謙遜するが、9月7日、自身の決勝タイムリーもあり、歓喜のときを味わった。
“優勝チームのキャプテン”として岡﨑監督に続いて3度、ナインの手で宙を舞った。「思ったよりめっちゃ高かったので、嬉しさより怖いが勝ちました(笑)」。そして胴上げのあと、岡﨑監督とは熱い抱擁を交わした。
「優勝できて、すごくホッとしています。開幕前からの岡﨑監督を胴上げするという目標が達成できたのでよかったです」。
ここまでを「何度も苦しいときがあった」と振り返るが、「最後はチーム一丸となって勝ちきることができた」と、キャプテンとしての醍醐味を味わった。
■エース・香水晴貴
そんな森本選手と、昨年からバッテリーを組んできた年上の投手たちはどう見ているのだろうか。
チームのエース・香水晴貴投手は今季、先発時には必ずコンビを組み、7勝(2敗)のアシストを受けている。5月12日に完封勝利を挙げたときも、もちろんマスクをかぶっていたのは森本選手だった。
そんな“相棒”の昨年からの変化を、香水投手はこう語る。
「試合をやっていて一番感じるのはキャッチング、フレーミングですね。去年はあいつ、けっこうポロポロしていたんですけど、今年はそういうこともなくて…。慣れっていうのもあると思うんですけど、やっぱ岡﨑さんに教えてもらってすごく上達した。『あぁ、成長したな』って、一番見て感じるところですね」。
しっかり捕ってくれると、ピッチャーも思いきって腕が振れるのだ。
さらには内面の成長も感じられるという。
「今年は自分がキャプテンとして、引っ張っていくっていう気持ちがあるんだと思う。あいつ、感情表現が下手くそですけど、自分が引っ張っていくっていう気持ちがあるからこそ、リード面とかピッチャーの鼓舞の仕方とか声かけとか、そういうところもしっかりやっていて、去年に比べるとやっぱり人間的にひと回り、ふた回りは大きくなったなと思います」。
自覚の芽生えが、プレーにも表れているようだ。
声かけについては「言葉の意味というより、タイミング」だと、香水投手は語る。
「自分がマウンドでピンチを迎えたときや流れが悪いとき、『どうしよう、どうしよう』ってなっているときに、タイミングよく来てくれる。そういう空気を読んで、ここで必要だなっていうときに来ることが多くなりましたね」。
洞察力や危機察知能力も磨かれてきているのだろう。
「試合での冷静な判断や考え方、キャッチャーとしての立ち振る舞い、そういうところは本当に成長したと思います。岡﨑さんから『いいキャッチャーとはどういうキャッチャーなのか』というところを、すごく教わっていると思う。ただ、全部が全部、岡﨑さんに言われてそのままやるんじゃなくて、その教わったことを自分で判断して動いている。『ここは自分がひと声かけたほうがいい』『こういうときは、ピッチャーをよく見てこうしたほうがいい』とか、自分で判断したことがいい方向に結びつくようになったと思います」。
香水投手も後輩捕手をよく見て、自身が助けられながらも、その成長の手助けをしている。
■左のセットアッパー・村上史晃
チーム最年長投手、左のセットアッパー・村上史晃投手とは8歳差である。村上投手は昨年も「若いけど落ち着いた選手。練習からサインとか投球のコースとか、お互いの意思疎通はけっこうできていてやりやすいし、僕にとって意思疎通できるキャッチャー。けっこう頭がいい」と、ルーキーキャッチャーを温かく見ていたが、今年は森本選手に大きな変化があるという。
「僕が一番感じるのは、なんかどっしりしたなということ。それはメンタル的な成長で、キャプテンにもなって、ひと回り大人になった感じがしています。試合においても、自分が試合を作って絶対に勝つんだとか、なんとしても自分がピッチャーを引っ張って0点に抑えるとか、そういう心構えみたいなものがすごく感じられるようになりました」。
年など関係なく、頼もしさを感じている。
はたして、どういうところにそれを感じるのだろうか。
「たとえばリードでも、森本がサインを出してピッチャーに『絶対にこの球でいくぞ』『ここはボール球要求だぞ』と、ジェスチャーであったりサインの出し方であったり…。『ここは気合い入れろよ』というような、なんかそういうオーラじゃないですけど、それがめちゃくちゃ伝わります」。
森本選手自身もジェスチャーでしっかり伝えるということは腐心しているが、それをピッチャーはちゃんと受け止めてくれているのだ。
マウンドからはどのように見ているのか。
「僕は2年目ということもあって、やっぱ安心感はありますね。配球もそうだし、間というか、時間の使い方とか、このバッターをどう打ち取ろうみたいな思考回路が、すごく成長したと思います。配球は基本、任せています。僕も自分の投げたい球があるけど、ちょっと違っても『森本はこういう意図をもってやっているんだな』というのがすぐ伝わるので。でも、どうしても違うってなったときは1回首を振るんですけど、そうしたらだいたい次のサインで自分の投げたい球の答えが返ってきます。合わないときも2回くらいのサインのやりとりで完結するくらい、ある程度は分かり合えてはいますね」。
コンビネーションもバッチリなようだ。
森本選手本人は「キャプテンらしいことはしていない」と言うが、村上投手は「キャプテンだからこそ、自分が試合でちゃんと貢献してチームを勝ちに導こうっていう、言葉じゃなくプレーで語るという、そういう姿は伝わっています」と、リーダー資質を認めている。
■選抜試合でのアピール
リーグ戦も残り3試合。
「この勢いのまま、残りのリーグ戦とチャンピオンシップで日本一を獲れるように最高の準備をして挑みます!」
キャプテンとして、若き司令塔として、さらにチームを引っ張り一丸となって向かっていく。
また今後、個人としてはドラフトに向けてのアピールチャンスが残されている。富山GRNサンダーバーズの選手とともに選抜チームを結成して、タイガースのファームや読売ジャイアンツ3軍と対戦する試合が待っているのだ。
NPB球団のスカウトも視察に訪れるこれらの試合で、どれだけアピールできるか。
「自分自身ももっとキャッチャーとしてもそうですけど、バッティングももっとインパクトが残せるように」。
どの球団もいいキャッチャーを欲している。これまで以上に存分のパフォーマンスが披露できるよう、森本耕志郎はここからさらに状態を上げていく。
【森本耕志郎(もりもと こうしろう)*プロフィール】
2004年5月30日(20歳)
173cm・83kg/右投右打
駿台甲府高校
長野県出身/捕手/背番号2
【森本耕志郎*今季成績】
27試合/打席100/打数80/安打19/二塁打7/三塁打0/本塁打0
四球16/死球3/三振16/犠打0/犠飛1/併殺打1
打点10/得点12/盗塁2/失策2
打率.238/出塁率.380/長打率.325/OPS.705
(9月7日現在)
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(撮影はすべて筆者