“岡﨑チルドレン”がドラフトに向けて急成長!NPBを目指す石川MS捕手・森本耕志郎が進化したワケとは
■石川ミリオンスターズの正捕手・森本耕志郎
「上」を目指す選手というのは、短い期間にこんなにも成長するものなのか。昨年とは格段に違う姿を見せているのが高卒2年目の捕手・森本耕志郎選手(日本海リーグ・石川ミリオンスターズ)だ。安定感が増し、チームを牽引する頼もしさを感じさせる。
「キャッチャーとしては全般的に成長したかなと、自分でも思いますね。キャッチング、スローイング、ブロッキングとか技術のところもそうですし、試合中の配球とかも」と、森本選手本人も胸を張る。
森本選手はなぜ、ここまで変わることができたのか。その取り組みや考え方のもとにあるものは何なのか。開幕から2か月、16試合を経過したところで話を聞いた。
■各分野での進化
◆キャッチング
もともと自信があったというキャッチングも、ブルペンから意識が変わったという。
「今まではただ捕って、よかったら『ナイスボール』って言うって感じだったけど、構え方とか、しっかり止めるとか、どれだけ試合に近づけられるかということを考えて捕るようになりました」。
ブルペンを大事にし、練習のための練習ではなく、試合を意識しながら試合と同じように丁寧に捕る。よりピッチャーのことを考え、ピッチャーがノッていけるようなキャッチングや声かけもできるようになってきた。
ブルペンでのそれが、翻って試合で活かされているのだ。
◆ブロッキング
ブロッキングについては「今まではずっと体で止めにいっていて、それが届かないとどうしても弾いちゃったり、後ろに逸らせたりしていた。最初から止めにいくっていうより、体で止めにいけないところは手でいくしかない。そこの判断ですね」と語る。
体で止めるのか、ミットで捕るのか。瞬時の判断で反応する。
「あとは、止めよう止めようと思うと、どうしても体が固まってしまうので、視野を広げてどんなボールにも反応できるように練習しています」。
その練習方法として取り組んでいるのが、片目を閉じてのキャッチングだ。「どうしてもボールを見ちゃう」と1点に集中してしまっていたのが、全体的に広く見ることができるようになり、反応もしやすくなったという。
また、片目では距離感がつかみづらいが、これをすることでその感覚を養う訓練にもなる。これは今もずっと試合前にも続けている。
◆スローイング
今年はスローイングの制球もよくなり、球威も上がったが、こんな工夫をしているという。
「捕ってからの握り替えの部分です。今までは正面で捕っていたのを、やや半身になりながら捕って投げるようにしたことによって、タイムもちょっと縮まりましたね。それと、肩の状態も今年はいいかなと思います。去年はただひたすら投げていた感じだったけど、今年はいろいろストレッチとかケアもしっかりできているので、今のところ出力が落ちないですね」。
二塁への送球タイムが最速で1.78秒をマークする森本選手のスローイングは、相手走者もかなり警戒している。
◆インサイドワーク
そして、配球などインサイドワークについても顕著な進歩を見せる。試合後、記憶をもとにチャートを書き込むのだが、オープン戦のころは全然書けなかったという。しかし、今では1球1球詳細に思い起こすことができる。
「ひとりひとり意図のある配球をしないとチャートも書けない。このバッターをどう打ち取りたいのかとか、そういうことを去年よりもっと考えられるようになりました」と、配球において意図や根拠が明確になっているのだ。
打線の前後のつながり、打者個々の前打席とのつながりや前試合からのつながりなど、さまざまなことを頭にインプットし、また、そのときの状況や打者の雰囲気、しぐさなど、すべてを考慮しながら配球をする。
頭脳も明らかにバージョンアップしているのは間違いない。
さらに家に帰ってからも、頭にあるのは野球のことばかりだ。「『ここはもうちょっと外に寄ったほうがよかったかな』とか、『もうちょっと低く構えたほうがいいかな』とか、試合のYouTubeを見ながら、考えますね」と、今よりよくなるにはどうすべきかという“永遠の課題”と向き合う日々だ。
◆バッティング
近年はキャッチャーといえど打撃力も求められるが、森本選手は「打てるキャッチャー」としての力も評価されている。開幕当初は湿りがちだったバットも、6月に入ってコンスタントに出場するようになって快音が響くことが増えた。「今、一番調子いいですね」と、手応えに自然と頬も緩む。
「最初は自分からボールにいっていたので、ボールを見る時間がちょっと短かった。ボール球にもけっこう手を出していたけど、最近はソーッと入るようになりました」。
さまざまなことを試しながらやってきたのが、ここへきて「なんとなく固まってきた」という。打ちにいきながらしっかりと見極めができていることで、四球も増えた。
6月28日は、あわやノーヒットノーランを喫するかと危惧された八回裏、チーム初安打となる左前適時打で阻止し、勝負強さも見せつけた。
■岡﨑太一監督との出会い
これらの成長の陰には、ある人物の存在がある。森本選手の技術向上や練習法、そして思考のベースになることを教えてくれているのは、今年から指揮官に就いた岡﨑太一監督だ。
阪神タイガースで16年にわたり捕手として活躍してきた、そのプロの“捕手道”のすべてを森本選手に注ぎ込もうとしている。
「本当に岡﨑監督に教われていることが、すべてだと思います」と、森本選手も感謝の念が尽きない。
ほぼまっさらな状態から、指導のすべてを吸収しようと必死でついてくる愛弟子に、岡﨑監督も「成長していますねぇ。アイツは今、一番成長している」と相好を崩す。
試合後の言葉にも変化が出てきたという。「配球の反省でも、最初はレベルの低い反省の仕方をしていたのが、口にする内容も変わってきたんですよね」。試合中、ベンチから見ている岡﨑監督が考える配球と、森本選手のそれが一致することも増え、「バッターが見えきているな」と師匠を喜ばせている。
岡﨑監督と出会えたことは、森本選手にとって運命…いや、必然だったのかもしれない。スペックを上げるために、さらにはNPBで活躍するために必要なことをたたき込まれ、まさに“英才教育”を施されている。
それに応えて日々ステップアップする愛弟子の姿は、岡﨑監督とっても喜びの一つである。
■オフには瞬発力の向上に取り組んだ
また、自身の意識もより高まっている。
NPBを目指して入団した昨季は、評価はされながらも調査書は1球団もなかった。「悔しいというより、去年の感じだったら来ないだろうなって、自分でも思っていました」と冷静に省みるからこそ、「年々(指名される)確率も下がるので、もう今年行くしかない」と並々ならぬ意気込みで今季に懸けている。
そのために、オフに取り組んだのは瞬発力のアップだ。自分で足りない部分だと感じ、「身体能力を上げよう」と体を絞ってジャンプ系のトレーニングを数多くして、キレを出すことに努めた。
体重管理も計画的に行っている。昨年は85キロあったが一旦、80キロくらいに落として瞬発力を上げ、動ける体を作った上で今、動ける範囲で増量しているところだ。現在は83キロまで戻した。もちろん、上げた瞬発力は維持している。
しっかりと自分のやるべきことを考えて取り組んでいる証しである。
■NPBのフェニックス・リーグに参加
森本選手にとって、昨年10月に参加したNPBのフェニックス・リーグでの刺激も大きかった。
「すごくいい経験になりましたね。本当に高いレベルの選手たちと試合をすることができたので、今の自分はどれくらいの位置にいるのかなとかを感じることができました」。
チームメイトは日本独立リーグ野球機構(IPBL)に加盟するリーグから選抜された、各リーグを代表する選手たちだ。
「すごくいい選手たちが集まってきていたんで、練習方法とか、また違う考え方とかも教えてもらって、そこは勉強になりました」。
このときのチームメイトとは今後、NPBで相まみえることもあるかもしれない。お互いに切磋琢磨することを誓って、今またそれぞれの舞台で戦っている。
■キャッチャーでプロに行くと決意
森本選手が小学1年生で野球を始めたのは、4つ上の兄がしていたからという、ごくポピュラーな理由だ。そして兄がキャッチャーだったから、自然な流れで耕志郎少年も小学5年生からマスクをかぶった。
「小学5、6年生くらいのときはピッチャーとかもやったけど、中学からはもうずっとキャッチャーでした。昔はピッチャーやショートをやりたかった」と述懐するが、「試合に勝ったときは、やっぱりキャッチャーってすごく嬉しいし、盗塁を刺したときも…」と次第にキャッチャーの魅力を感じるようになり、高校入学するときには「キャッチャーでプロになりたい」と腹をくくっていた。
兄の後を追って進学した駿台甲府高校では、「守備には自信がなかったですね。バッティングのほうが自信ありました」とプロを目指して汗を流した。自ら埼玉西武ライオンズのテストに応募して受験もしたが、調査書が届くことはなかった。
しかし、プロへの意欲が萎えることはなく、そうして自分から動いたことで道が拓け、テストのときに声がかかったミリオンスターズに入団することとなった。
■年上ばかりの独立リーグで
中学、高校でも年上のピッチャーとは組んできたが、とはいえ最大差2歳だ。ミリオンスターズでは8つも上の投手もいて、最初は戸惑いつつも「みんな優しいんで」とさまざまなことを教わている。
当初は、「このボールを投げたいんじゃないかな」と投手の意向を推測しながらサインを出していたが、最近は自分で「このボールを投げたほうがいい」と思うサインが出せるようになり、投手もそれを信頼してくれることが増えてきた。
岡﨑監督も「香水(春貴)が完封をした(5月12日)あたりから、耕志郎も自信をつけたんじゃないかな」と認める。
また、同29日の四回表、香水投手が無死満塁を3者連続三振で切り抜けたシーンも「耕志郎のリードが大きかった」と讃え、この日の6投手をリードしての完封リレーにも成長の跡を感じるとうなずく。
今や若き司令塔はしっかりと、年上の投手陣たちにも臆せずリードしている。
■アピールポイント
キャッチャーとして、すべての面でレベルが上がっている森本選手。今、もっともアピールしたい部分はスローイングと、キャッチャーとしてのジェスチャーだと話す。
18.44m先にいるピッチャーに、声ですべてを伝えることはできない。ジェスチャーは非常に重要である。
「思っていることがしっかりピッチャーに伝わるように」と意識する森本選手のジェスチャーは、大きくわかりやすい。これも昨年とは全然違うところだ。
昨年から大きく飛躍した。とはいえ、まだまだ成長の途上にある。今季もあと半分以上残る試合で、さらなるジャンプアップを見せてくれるだろう。
その先に続くのが最高峰のステージであることを期待しながら、見ていきたい。
(撮影は全て筆者)
【森本耕志郎(もりもと こうしろう)*プロフィール】
2004年5月30日(20歳)
173cm・80kg/右投右打
駿台甲府高校
長野県出身/捕手/背番号2
【森本耕志郎*今季成績】
12試合/打席44/打数34/安打10/二塁打3/三塁打0/本塁打0
四球7/死球3/三振7/犠打0/犠飛0/併殺打0/打点5/得点7/失策2
打率.294/出塁率.455/長打率.382/OPS.837
(7月3日現在)