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東京都の新型コロナの状況 個々人の努力に頼った新型コロナ対策は限界にきている

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

東京都の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は12月12日に過去最多となる621人となり、まだ第3波の流行は収まる気配がありません。

医療体制の逼迫状況、都内の感染状況について紹介します。

東京都の新型コロナ患者数の状況

東京都における新型コロナ新規感染者数(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
東京都における新型コロナ新規感染者数(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

東京都の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は11月上旬から下旬にかけて急激に増加し、11月下旬以降は増加ペースは緩徐にはなったものの未だ減少には転じておらず、本日12月12日には過去最多となる621人となりました。

東京都における新型コロナ入院患者数(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
東京都における新型コロナ入院患者数(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

東京都における新型コロナ重症患者数(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
東京都における新型コロナ重症患者数(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

都内における入院患者数、重症患者数も高止まりのまま推移しており、医療現場の逼迫は続いています。

すでに都内では新型コロナ患者用に確保したベッド数が満床となり、これ以上の新型コロナ患者の新たな受け入れができないという病院が複数出てきています。

また、外来を受診した患者さんや救急車で受診した患者さんが新型コロナであることが判明しそのまま入院が必要という事例も増えてきているため、そうした事例が発生すると他院へ転院しないといけなくなりますが、新型コロナ患者の新たな受け入れができる病院が少なくなってきており、転院先の調整にも難航する事例が増えてきています。

第1波のときのように、予定手術を減らしたり、新型コロナ患者への対応のために通常診療を縮小したりといった、新型コロナ以外への医療にも影響が出てきています。

医療現場はこうした綱渡りの状況が11月下旬から続いています。

高齢者の感染者が増えてきている

新規感染者のうち高齢者が占める割合の推移(第23回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
新規感染者のうち高齢者が占める割合の推移(第23回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

高齢者の新規感染者数の推移(第23回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
高齢者の新規感染者数の推移(第23回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都の感染者の推移を見ていて、気になるのが高齢者の感染者の増加です。

第2波では20代・30代の感染者が大多数を占めていたことから重症者数は抑えられていましたが、第3波は高齢者の占める割合が大きいため重症者数の増加に繋がり医療体制に大きな影響を与えていることはご存知の通りです。

この高齢者が占める割合が、この数週間でますます大きくなってきています。

12月1〜7日の週では、65歳以上の高齢者が感染者全体の16%を占めています。

現在、東京都は65歳以上の高齢者は原則入院となっており、高齢者の感染者が増えることは、入院患者数の増加に直結します。

また、高齢者は一定の割合で重症化しますので、診断から数日〜1週間程度遅れて重症者数が増加することになります。

そうすると、年末年始に向けて入院患者数、重症者数がますます増えていくことが懸念されます。

年末年始には通常の診療体制ではなく、休日対応となる医療機関がほとんどですので、新型コロナ患者を新たに受け入れができる医療機関は減るものと思われます。

さらに、これから本格的な冬を迎えますが、冬は脳卒中・心筋梗塞などの入院患者が増加する時期になりますので、そうした患者にも対応するための通常の診療体制の維持も医療機関には求められるところですが、今シーズンの年末年始はその両立が非常に困難な状況となってきています。

若い世代が外から持ち込み、高齢者が家庭内・施設で感染している

「うむ、やっぱり重症化リスクの高い高齢者の人が気をつけないといけないな」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

高齢者は、若い世代が外から家庭内や施設に持ち込むことによって感染をしているためです。

年代別の新型コロナの感染経路(第23回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
年代別の新型コロナの感染経路(第23回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

都内の新型コロナの感染状況を感染経路別に見ると、家庭内での感染が最も多く、次いで施設内(高齢者施設や病院など)となっています。

職場、会食は全体では2割弱とあまり多くないように見えますが、年代別に見ると、20代〜40代は職場や会食で感染している割合が高く、高齢者ではほとんどが家庭内か施設内で感染しています。

つまり構造としては、若い世代が外で感染し、家庭や高齢者施設などに持ち込むことで高齢者が感染しているということになります。

「高齢者・持病のある人のGo To除外は新型コロナの感染対策として妥当なのか」でも述べましたが、高齢者の移動を制限しても感染を抑制する効果には乏しく、若い世代の移動を抑えないと感染は抑えられません。

個々人の感染予防策に頼ったコロナ対策は限界にきている

しかし、現状のように個々人における感染予防策の徹底に頼った状況では、若い世代の職場・会食での感染を減らすことは困難です。

新宿駅周辺の人出の推移(データ提供:株式会社Agoop)
新宿駅周辺の人出の推移(データ提供:株式会社Agoop)

例えば、新宿駅周辺の人手の推移のデータを見ると、緊急事態宣言の頃には大きく人出が減っていますが、第3波の流行以降の人出はわずかな減少にとどまっており、むしろ第3波よりも感染者が少なかった第2波の頃の方が人出が少なかったくらいです。

Googleトレンド「コロナ」(https://trends.google.co.jp/trends/explore?q=%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A&geo=JP)
Googleトレンド「コロナ」(https://trends.google.co.jp/trends/explore?q=%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A&geo=JP)

すでに新型コロナの流行は1年に及んでおり、世間の関心も低下しているものと思われます。

Googleトレンドでも「コロナ」と検索する人は、第1波の緊急事態宣言時にピークに達しましたが、第2波、第3波では徐々に検索数が減少しています。

検索をしなくても新型コロナの情報はテレビや新聞などのメディアから連日のように入ってくることから「検索数の低下」がそのまま「世間の関心の低下」を反映しているわけではありませんが、感染者数は第1波から第3波にかけて増加しているにもかかわらず検索している人が減っていることは、私個人としてはその可能性を示唆するものではないかと思います。

すでに新型コロナの流行は1年に及んでおり、私も含めて皆コロナに疲れています。

感染対策を徹底した生活を維持することは個々人のレベルでは限界に来ているのではないでしょうか。

年末年始を控え、第3波を今しっかりと抑え込むためには、例えばGoToキャンペーン全体の一時停止や、飲食店のさらなる営業時間の短縮とその経済的な補填など、政治的判断が必要な段階になってきていると感じます。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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