Yahoo!ニュース

マラリアってどんな病気? 旅行者も注意すべき感染症

忽那賢志感染症専門医
(提供:イメージマート)

コンゴ民主共和国で原因不明と言われていた疾患がマラリアであったことが判明しました。

「新しい感染症ではなくて良かった」と安堵されている方も多いと思いますが、この機会にマラリアについて知識を深めましょう。

 

マラリアは今も最も危険な感染症の一つ

マラリアの流行地域(マラリア 診断・治療・予防の手引きより)
マラリアの流行地域(マラリア 診断・治療・予防の手引きより)

マラリアは、マラリア原虫(Plasmodium属)という寄生虫が原因で起こる感染症であり、ハマダラカという蚊に刺されることでヒトに感染します。

先日、世界保健機関(WHO)から報告されたWorld Malaria Report 2024では、2023年の1年間に2億6,300万人がマラリアに感染したと推計されており、今回の集団感染事例が起こったコンゴ民主共和国は世界で2番目にマラリアの感染者が多い国となっています。

1番目はナイジェリアであり、上位20カ国のうち19カ国をアフリカの国が占めています。

そして、年間59万人がマラリアによって亡くなっています。世界的に見ると、マラリアは今も最もヒトを死に追いやる危険な感染症の一つです。

ヒトに感染するマラリア原虫は5種類

末梢血のギムザ染色で観察された熱帯熱マラリア原虫(筆者撮影)
末梢血のギムザ染色で観察された熱帯熱マラリア原虫(筆者撮影)

マラリア原虫には多数の種類が存在しますが、ヒトに感染するマラリア原虫は、

・熱帯熱マラリア

・三日熱マラリア

・卵形マラリア

・四日熱マラリア

・二日熱マラリア(Plasmodium knowlesi)

の5つが知られています。

この中でも、熱帯熱マラリアが最も重症化しやすいマラリア原虫であり、アフリカで最も広がっているのも熱帯熱マラリアです。

他の4種類については、熱帯熱マラリアと比べると重症化しにくいことが分かっていますが、稀に重症化することもあり油断はできません。

症状としては、発熱、悪寒、だるさ、頭痛、筋肉痛、関節痛などの症状が多く、重症化すると、意識障害、貧血、臓器不全などが起こることもあります。

日本でのマラリアは?

では日本ではマラリアは問題にならないのでしょうか?

日本でもかつてはマラリアの流行がみられていました。歴史上の人物では、平清盛はマラリアで亡くなったのではないかと言われています。近代においても明治から昭和初期にかけてマラリアの流行がみられ、また太平洋戦争においても八重山諸島で山間部に避難した人々が、ハマダラカに刺されマラリアに感染した事例が多く報告されました(いわゆる戦争マラリア)。

日本での輸入マラリア症例の報告数の推移(国立感染症研究所のデータを元に筆者作成)
日本での輸入マラリア症例の報告数の推移(国立感染症研究所のデータを元に筆者作成)

戦後は日本国内ではマラリアに感染する事例は報告されなくなりましたが、海外でマラリアに感染し日本で診断される事例が年間数十例報告されています。

近年は日本での報告数は減少傾向ではありますが、最も重症化しやすい熱帯熱マラリアの割合が高くなっており、決して無視することのできない疾患です。

海外旅行でマラリアに感染しないためには?

年末年始に海外に旅行に行く方も多いと思います。

特にサハラ以南アフリカなどの流行地域に行く予定の方はマラリアにご注意ください。

もっとも大事なことは、蚊にさされないよう対策をすること、そして次に大事なのが予防内服の検討です。

蚊に刺されないためには、なるべく露出の少ない服装をすること、露出した部分にはディートまたはイカリジンという成分を含む虫よけを使うことが大事です。

予防内服とは、海外旅行中にマラリアの薬を飲むことで感染を防ぐことを言います。現在利用できるマラリアの予防内服薬には3種類がありますが、旅行期間の長さ、年齢、予算、などによってどれが良いか医師と相談するようにしましょう。

コンゴ民主共和国のキサンガニのホテルの部屋の蚊帳(筆者撮影)
コンゴ民主共和国のキサンガニのホテルの部屋の蚊帳(筆者撮影)

寝るときに蚊帳を使う・・・というのはやり過ぎかもしれませんが、私がコンゴ民主共和国に感染対策の支援に行ったときは、泊まった宿の窓が壊れていて蚊が部屋の中に入り放題でしたので、蚊帳が大いに役立ちました。

万が一、マラリアに感染してしまった場合も、早く診断して早くマラリアの薬を使えば治療可能です。

特にアフリカなどのマラリア流行地域から帰国した後に熱が出た場合は、なるべく早く病院を受診しましょう。

このときに大事なのは、病院を受診したときに「海外に行っていた」ということを医師に伝えていただくことです。

マラリアは潜伏期が2週間〜数ヶ月と長いので、海外旅行のことを忘れてしまっていることもあるかもしれませんが、海外から帰ってきて3ヶ月くらいは、発熱したときに渡航歴を伝えることを忘れないようにしましょう。

参考資料:

マラリア予防 Pocket Guide 2022. 国立国際医療研究センター トラベルクリニック

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

忽那賢志の最近の記事