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高齢者・持病のある人のGo To除外は新型コロナの感染対策として妥当なのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス感染症の国内における流行はいまだ落ち着く気配がなく、重症者数は増加し続けています。

そんな中、12月1日にGo Toキャンペーンの利用に関連して、65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人に都内を発着する旅行の利用自粛が呼びかけられました。

都知事、都内発着の「GoTo」で高齢者らに自粛呼びかけ…期間は17日までの予定

この方針は感染症対策として妥当なのでしょうか?

「重症者を減らす」という目的そのものは正しい

年齢・基礎疾患による重症化のリスク(CDC資料より データはアメリカでの新型コロナ入院・死亡データに基づく)
年齢・基礎疾患による重症化のリスク(CDC資料より データはアメリカでの新型コロナ入院・死亡データに基づく)

新型コロナで重症化しやすいのは高齢者および基礎疾患を持つ人であることは、これまで幾度となく報道されてきました。

確かに高齢者と基礎疾患を持つ人は、それ以外の方と比較して新型コロナに感染した場合に重症化するリスクが高いことが分かっています。

新型コロナを国内から排除することが難しい現状においては、こうした重症化リスクの高い方が感染することをいかに減らすかが重要になります。

高齢者および基礎疾患のある方が感染することを減らすことで、

・日本国内の新型コロナによる死者数を減らす

・重症者増加による医療機関の負担を減らす

ことが期待されます。

この意味において、高齢者や基礎疾患のある方の感染を減らすことが重要であることは論をまちません。

しかし、高齢者や基礎疾患を持つ方をGo Toキャンペーンから除外することで、この目標を達成することはできるのでしょうか?

東京都の高齢者の感染源は「家庭内」「高齢者施設」

東京都における新型コロナ感染者の高齢者の占める割合(第21回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新型コロナ感染者の高齢者の占める割合(第21回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都の公表データによると、高齢者(65歳以上)が占める割合は13%となっています。

第2波に比べ、高齢者が占める割合が多いことから重症者の増加につながっています。

この高齢者の感染経路についても東京都から公表されています。

東京都における年齢別の感染経路(第21回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における年齢別の感染経路(第21回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

これによると、高齢者、特に70代以上では「家庭内」「施設」での感染が多いことが分かります。

もちろん最近の高齢者はお元気な方が多く、Go Toキャンペーンを利用する方も多いとは思いますが、新型コロナの感染を広げているのはより若い世代であることは間違いありません。

そうであれば、高齢者や基礎疾患のある人たちの移動だけを制限しても感染対策に有効ではなく、より広い世代に対策をしなければ効果は見込めません。

Go Toキャンペーンはメリハリのある対応が必要

「Go Toキャンペーンそのものが感染を広げている証拠はない」とよく言われますが、「現時点でエビデンスがないこと」と「Go Toキャンペーンが感染拡大につながっていないこと」は同義ではありません。

Go Toキャンペーンによって人と人との接触が増え、また会食の機会が増えることは間違いのないことと思われます。

会食が新型コロナの感染者を増やすこと自体は海外では複数の研究から示されています(1,2)。

もしGo Toキャンペーンが本当に感染者を増やしていないのであれば、本来は「Go Toキャンペーンによって感染が増える根拠がない」と主張するよりは、「Go Toキャンペーンによって感染が増えていないこと」を示すべきではないかと考えます。

私もこうしたキャンペーンを完全に否定するものではなく、新型コロナが流行していない時期には感染対策に配慮した「ずらし旅」など旅行の形態を工夫しながら国内旅行を励行することによって経済活動を推進することには賛成の立場です。

しかし、現状のような新型コロナの流行が加速しているような時期には、Go Toキャンペーンについても一旦立ち止まって、感染対策に注力し、流行が落ち着いた段階で再開する、というようなメリハリのついた施策が必要なのではないかと考えます。

「日本国内の新型コロナによる死者数を減らす」「重症者増加による医療機関の負担を減らす」ためには、今がまさに正念場になります。

・屋内ではマスクを着ける

・3密を避ける(特に職場での休憩時間や会食)

・こまめに手洗いをする

といった個人個人の感染対策も重要ですが、行政による思い切った対策が必要な時期に差し掛かっています。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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