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【デュピルマブ】アトピー性皮膚炎治療薬が引き起こすリンパ球反応とは?皮膚科医が解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【デュピルマブによるリンパ球反応とは?】

デュピルマブは、中等症から重症のアトピー性皮膚炎の治療に用いられる注射薬です。IL-4とIL-13というサイトカインのシグナル伝達を阻害することで、アトピー性皮膚炎の炎症を抑える働きがあります。

しかし、デュピルマブ治療中の患者さんの一部で、リンパ球反応と呼ばれる皮膚の変化が報告されています。今回の研究では、530人のデュピルマブ治療を受けた患者さんのうち、11人(2.1%)にリンパ球反応が見られました。

リンパ球反応が起こると、一旦はデュピルマブで改善していた皮膚症状が再び悪化します。患者さんは皮膚の灼熱感やかゆみを訴え、体幹や大腿部に赤い斑点や丘疹が広がることがあります。

リンパ球反応は比較的まれな副作用ですが、症状がアトピー性皮膚炎の悪化と紛らわしいため、見逃されている可能性もあると考えられます。皮膚科医は本副作用の存在を認識し、適切に診断・対処することが求められます。

【リンパ球反応と皮膚T細胞リンパ腫の異同】

リンパ球反応は、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)と呼ばれる皮膚がんに似た症状を示すことがあります。CTCLの代表的な型である菌状息肉症は、アトピー性皮膚炎との鑑別が難しいことで知られています。

実際、今回の研究でデュピルマブ治療中にCTCLが疑われた14人のうち、3人(0.6%)は菌状息肉症と診断されました。残りの11人はリンパ球反応でした。

リンパ球反応とCTCLの皮膚症状は似ていますが、詳細な病理組織検査により区別が可能です。リンパ球反応では、小型の濃染核を持つリンパ球が表皮内に散在性に分布し、CD30陽性を示します。一方、CTCLでは異型リンパ球が表皮基底層に連なって配列し、CD30陰性であることが多いとされます。

デュピルマブ治療中の皮膚症状悪化には、CTCLの可能性も念頭に置く必要があります。皮膚生検と免疫染色による慎重な鑑別診断が求められます。

【リンパ球反応への対処法とまとめ】

デュピルマブによるリンパ球反応が疑われる場合、直ちに投与を中止することが推奨されます。今回の研究では、リンパ球反応と診断された11人全員でデュピルマブ中止後に皮疹が消失しています。再投与は避けるべきでしょう。

一方、デュピルマブ治療でCTCLが悪化した報告もあり、注意が必要です。疑わしい皮疹が生じた場合は皮膚生検を行い、病理組織像とともに臨床経過から総合的に診断することが大切です。

アトピー性皮膚炎は多彩な症状を示す慢性疾患であり、患者さんのQOL低下にもつながります。デュピルマブは有用な治療選択肢ですが、リンパ球反応やCTCLの発症・悪化に十分な注意を払う必要があるでしょう。皮膚科医には的確な診断と適切な対処が求められています。

【参考文献】

Boesjes CM, van der Gang LF, Bakker DS, et al. Dupilumab-Associated Lymphoid Reactions in Patients With Atopic Dermatitis. JAMA Dermatol. Published online October 18, 2023. doi:10.1001/jamadermatol.2023.3849

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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