レジェンド復帰ならず、「全員敗北」の声も…ミランとマルディーニは正しかったのか?
レジェンドの入閣は、かくも難しいものかと実感させられる。パオロ・マルディーニが11日、フェイスブックに投稿し、「チャイナ・ミラン」からのテクニカルディレクター(TD)就任オファーを断ったことを明かした。
年内のミラン買収完了を目指す「Sino Europe Sports」社は、すでに新体制の核としてマルコ・ファソーネ新CEOとマッシミリアーノ・ミラベッリ新スポーツディレクター(SD)を選んでいる。だが、両者はともに「元インテル」という経歴の持ち主だ。
30年にわたるシルヴィオ・ベルルスコーニ体制からクラブを引き継ぐ「チャイナ・ミラン」としては、ファンの支持を引き寄せる顔もほしいところ。その彼らにとって、黄金期のミランの象徴ながら、アドリアーノ・ガッリアーニ現CEOとの確執もあり、近年クラブから遠ざかっているマルディーニは、まさにうってつけの存在だった。
現役生活のすべてをミランにささげてきたマルディーニは、言わずと知れたミランの「レジェンド」だ。しかし、2009年の引退以降はクラブに一切関わっていない。それだけに、「マルディーニ入閣か」の報道は、近年の不振に失望ばかりさせられているミラニスタの胸を躍らせた。
だが、入閣は実現しなかった。金銭面の問題という見方を一蹴しているマルディーニが特に問題視したのは、「役割の定義」だ。
マルディーニは「ただのバンディエーラとして使われることは受け入れない」、つまりイメージばかりの名誉職に興味はないと明言。さらに、「プロジェクトや選手の売買すべてを同格のSDと共有しなければいけない」「意見が分かれた際はCEOに決定権があると言われた」と明かし、「勝者のチームとなるための条件がそろっていない」「結果を残すにはクラブの全構成員が一致すること、大きな投資、明確な役割が必要」と断じた。
ガッリアーニCEOのような「全権」は求めなかったと強調しているだけに、マルディーニが不満だったのは、技術部門の決定権が明確でなかったことと考えられる。
だが前述のように、マルディーニは引退以降、現場から遠ざかっていた。ディレクターとしての経験はない。ファッソーネCEOをトップに据え、スカウトとして名を馳せたミラベッリをSDとし、そこにマルディーニを加えて経験を積ませるという新体制サイドの思惑は、決して理解できないものではないだろう。
他クラブでも、インテルがハビエル・サネッティ、ユヴェントスがパヴェル・ネドヴェドと、それぞれレジェンドを副会長に据えており、チームに対して一定のインパクトを与えている。だが、両者の技術部門における権限は、ピエロ・アウジリオSDやジュゼッペ・マロッタCEOに及ばない。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のカルロ・ラウディスタ記者も、「もうワンマンショーの時代ではない」というコラムを執筆。フロントもチームプレーが求められる時代だと主張している。「年月が経ち、もはやサッカーにおけるバンディエーラの重要性は一定のところまでとなっている」。
だが、マルディーニともなれば、“下積み”をさせるべきではなく、信頼してすべてを委ねるべきという声もある。『ガゼッタ』が1週間前に実施した「マルディーニへの全権TD就任オファーは良いアイディアか?」というアンケートでは、2万3950名のユーザーのうち93.5%ものファンが「イエス」と回答していた。経験がなかろうと、マルディーニに託したいというサポーターも多いのだ。実際、新体制を批判するコメントも少なくない。
マルディーニがフェイスブックでオファー拒否を明かしたことで、複数のメディアが「良かったのか?」とのアンケートを実施しているが、結果はまちまち。ファンの間でも意見が分かれるところということだろう。なかには「全員にとって敗北」との声もある。
確かなのは、ミランの一時代を築いたレジェンドが、またもクラブから遠ざかったということだ。「勝者のチームとなるための条件がそろっていない」とまで口にしたことで、「Sino Europe Sports」からは「我々のプロジェクトが勝者のそれだと、彼もすぐに気づくだろうと強く信じる」と“反論”が届いている。この状況で、直近に再びマルディーニ入閣の可能性が出てくることは考えにくい。
イタリアでは、ローマのフランチェスコ・トッティやユーヴェのジャンルイジ・ブッフォンといったレジェンドの引退もそう遠くない将来に迫っている。彼らはマルディーニのようになるのか、それともサネッティやネドヴェドのようになるのか…偉大であればあるほど、レジェンドの扱いは難しい。