Yahoo!ニュース

新型コロナで入院したら費用はどのくらいになる?

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナの波が到来しています。多くの感染者は軽症で済むため入院は必要ありませんが、基礎疾患のある人や高齢者を中心に、現在毎週全国で3,000人以上が新規に入院しています。処方される経口抗ウイルス薬が高額であることが知られていますが、入院にかかる費用についてはあまり知られていません。

現在の流行状況

第29週(7月15日~7月21日)において、代表的な定点医療機関あたり1週間に観測された新型コロナの感染者は13.62人であり、2ケタを超えてきました(図1)。

経験上、10人を超えてくると医療機関で流行が肌で体感できる水準になり、20人を超えると忙しくなり、30を超えると他の診療に差支えが出てくる、といった感じです。

図1.新型コロナの定点医療機関あたりの感染者数(参考資料1をもとに筆者作成)
図1.新型コロナの定点医療機関あたりの感染者数(参考資料1をもとに筆者作成)


昨年同時期と同じくらいの感染者数ですが、入院患者数は今回の波のほうが多いです(図2)。これは、軽症者の多くが受診していないためで、水面下にはさらに多くの感染者数がいることを示しています。

図2. 新型コロナの入院患者数(参考資料1より引用)
図2. 新型コロナの入院患者数(参考資料1より引用)

入院で使用する抗ウイルス薬はさらに高額

外来で新型コロナの抗ウイルス薬を使う場合、3割負担の患者さんの場合、1治療あたりパキロビッドで2万9,708円、ゾコーバで1万5,556円の自己負担が発生します。処方してもらうかどうか、悩ましい値段です()。実際に外来ですすめても、半分くらいの方が「高いのでやめます」とおっしゃっています。

表. 新型コロナの抗ウイルス薬の薬価(筆者作成)
表. 新型コロナの抗ウイルス薬の薬価(筆者作成)

入院が必要な中等症以上の場合、肺炎を起こしていたり酸素療法が必要だったりします。この場合、点滴製剤であるベクルリーを使うことが一般的です(図3)。

図3. 新型コロナの抗ウイルス薬選択(筆者作成)
図3. 新型コロナの抗ウイルス薬選択(筆者作成)

問題は、抗ウイルス薬の中で点滴製剤がもっとも高額であることです。5日間で薬価27万8,988円、3割負担の場合8万3,696円の自己負担が発生します。

これまでは、政府が高額な治療薬を肩代わりしてくれていましたが、この仕組みは4月1日から完全に撤廃され、患者側が自己負担する必要があります。

個室代がかかることも?

また、これまでは「確保病床」といって、自治体が各病院へ入院ベッドを確保するよう要請していました。

「新型インフルエンザ等感染症」に基づく強い要請が可能だったため実現できていたわけですが、2023年5月に「5類感染症」に移行して、確保病床の概念が消えていきました。

5類移行後は、多くの医療機関で個室隔離のうえケアしていることが多いでしょう。

さらに、確保病床に対する補助金がなくなったこともあり、個室に入院するための差額ベッド代の免除が難しい医療機関があるのも現実です(※)

※21時26分追記:医療機関によって対応に差があります。患者さんへの十分な情報提供を行い、患者さんの自由な選択と同意に基づいて決定される必要があります。

以上から、新型コロナが悪化して個室に入院する場合、高額な抗ウイルス薬+差額ベッド代という2つの自己負担がハードルになることがあります。

実際の自己負担額

日本では、収入と年齢に応じて、自己負担額の上限が高額療養費制度によって定められています。

たとえば、年収370~770万円の70歳未満の場合、1か月約8万円が上限に、平均的な年金受給を受けている70歳以上の場合、1か月約5.8万円が上限になります。新型コロナの抗ウイルス薬の点滴製剤を用いると、この上限額に達します。この制度に食事代や差額ベッド代は含まれません。あくまで、治療にかかった費用が対象になります。

個室の差額ベッド代の全国平均額は1日8,800円、食事代は1日1,400円です。

そのため、新型コロナで1週間入院すると自己負担が10万円を超えてくるケースがあります。

昨年9月末までは入院費に対しても1~2万円の助成がありましたが、「新型コロナを特別扱いすべきでない」という世論の後押しもあって、現在この助成もなくなっています。

今一度、ご自身が入院した場合の適用限度額を確認しておきましょう(2)。

全員に抗ウイルス薬は不要

とはいえ、新型コロナにかかった全員に抗ウイルス薬が必要というわけではありません。

たとえば、基礎疾患のない元気な若年層は、無理に内服しなくてよいでしょう。解熱鎮痛薬などの対症療法で問題ありません。しかし、重症化リスクの高い基礎疾患のある人や高齢者は抗ウイルス薬を内服したほうがよいでしょう。

上述したように、入院が必要になるほどの状態であれば、抗ウイルス薬の点滴製剤が推奨されます。その場合、ある程度の自己負担額を想定しておく必要があります。

高額ゆえ投与しないという選択肢もあろうかと思いますが、これまで等しく受けられていた治療薬の自己負担に対する補助が撤廃され、薬価の高低で患者側が治療を選択されるシーンが出てきたことに、私は強い違和感を感じています。


(参考)

(1) 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況)2024年(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00461.html

(2) 全国健康保険協会. 高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)(URL:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

倉原優の最近の記事