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「井岡は依然、世界トップレベルのボクサー」前WBA世界Sフライ級王者が語る最大の武器は

杉浦大介スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

7月13日(日本時間) 東京都 大田区総合体育館

WBO世界スーパーフライ級タイトル戦

王者

井岡一翔(志成/33歳/29勝(15KO)2敗)

12回3-0判定(120-108、118-110、117-111)

挑戦者

ドニー・ニエテス(フィリピン/40歳/43勝(23KO)2敗6分)

 4階級制覇王者同士のリマッチとして注目を集めた井岡対ニエテス戦は、前半から主導権を握った井岡の完勝に終わった。ジャブをうまく使った井岡は、持ち前の“打たせずに打つ”ボクシングを完遂。2018年12月、僅差の判定で屈した相手へのリベンジを果たし、さらなるビッグファイトへと希望を繋いだ。

 派手さはなくとも技術レベルは高かったこの一戦。前WBA世界スーパーフライ級王者アンドリュー・モロニー(オーストラリア)はどう見たのか。試合終了直後、母国オーストラリアで試合を見たモロニーに分析を依頼した。

 必要なことをやって試合をコントロールした井岡

 井岡とニエテスの再戦は、井岡が楽々と試合をコントロールしたという印象でした。ジャブを上手に使い、より速いペースで動き、ニエテスに付け入る隙を与えませんでした。特に危険な場面はなく、リスクを冒す必要もなかったですね。

 2018年の初戦ではニエテスが僅差の判定勝利を飾ったわけですが、今回の井岡は中間距離からよりアクティブに先手をとっていきました。一方のニエテスは明らかに運動量が少なかったと思います。その両方が重なり合って、これだけ差がある内容になったのでしょう。

 過去数戦のニエテスを見ていて、やはり加齢が故か、以前のようにハイペースでの戦いはできなくなっているというのは感じていました。今回の井岡戦でも印象は同じ。おかげで井岡が主導権を譲り渡すかもしれない、という予感を感じる瞬間はありませんでした。

 様々な試練を乗り越えてきた井岡は依然として世界トップレベルのボクサーだと思います。現時点での井岡の最大の武器は聡明さ。勝つためにやるべきことを見極め、リスクを最小限に止め、ファイトプランを貫き通す能力に長けています。ニエテス戦でも必要なことをやり、淡々とポイントを奪っていきました。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 ニエテスの元気のなさも目についたので、現在の井岡の戦力がピーク時と比べてどれくらいの位置にあるのかを判断するのは難しかったというのが正直なところです。ただ、王者としてやるべきことをやったという印象。ニエテスは40歳になったとはいえ、これだけ実績がある相手にそれができることこそが井岡の強さと言えるのでしょう。

井岡に挑戦できたら、どう戦うか

 現在のスーパーフライ級には井岡以外にもすごいメンバーが揃っています。4階級制覇王者ローマン・“チョコラティート”・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳)、WBAスーパー、WBCフランチャイズ王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)に加え、WBC正規王者ジェシー・バム・ロドリゲス(アメリカ)も素晴らしいボクサーですね。

 ロドリゲスは才能があり、スキルとフットワークを高レベルでミックスさせた選手。技術に恵まれながら、それでいて積極性を保っていることにもボクシングファンの1人として感心させられます。

 ロドリゲスはフライ級に下げると聞いていましたが、9月17日にスーパーフライ級で2度目の防衛戦を行うと発表しました。彼の加入のおかげで、この階級はより層が厚くなりました。個人的には依然としてチョコラティートが階級最強だと思っていますが、彼もまたキャリア晩年に差し掛かっています。

 昨年8月、WBA王者ジョシュア・フランコ(アメリカ)に敗れて以降、私は3連勝を飾っており、近い将来の世界タイトル挑戦が目標です。この激戦階級の世界王者なら誰が相手でも構いませんが、できれば井岡に挑戦したいですね。

Photo By Mikey Williams/Top Rank
Photo By Mikey Williams/Top Rank

 ライト級の4団体統一王者になったデビン・ヘイニー(アメリカ)とジョージ・カンボソス Jr.(オーストラリア)が10月中旬、オーストラリアで再戦する予定で、その興行のセミファイナルで井岡に挑戦できたら私にとってベストです。ニエテス戦での井岡はほとんどパンチをもらわなかったので、10月にまたリングに立つのも不可能ではないんじゃないかと思っています。

 現実的にそこでの挑戦は難しくとも、井岡は大晦日に日本のリングに立つのが恒例なのはよく知っています。今年の年末、井岡の対戦相手として来日できたらそれもまた私にとってドリーム・カム・トゥルー。いずれの形にせよ、次戦で井岡に挑みたいというのが私の希望です。

 井岡と戦えたら、老練な相手のペースにはまらないようにハイペースでパンチを出していくつもりです。スピードがあり、手数が出せ、よりハングリーな私は井岡に勝つだけのものを持っていると確信しています。そんな舞台が巡ってくると信じて、これからもハードな練習を続けていくつもりです。

アンドリュー・モロニー : オーストラリア出身。31歳。24勝(16KO)2敗1無効試合。2019年11月、エルトン・ダーリー(ギニア)に勝ってWBA世界Sフライ級暫定王者に。2020年3月1日、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア・帝拳)がWBAからスーパー王者として認定されたことで、レギュラー王座に昇格した。 昨年6月、ジョシュア・フランコに判定負けで王座陥落。11月の再戦では2回までフランコを圧倒しながら、不可解なノーコンテスト裁定で王座復帰を果たせなかった。2021年8月、フランコとのラバーマッチでは判定負けも、再起後は3連勝を飾っている。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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