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キレる子どもたち、増える子どもの暴力:その背景と私たちの関わり

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■増加する小学生の暴力

全国の小学校で2013年度に起きた子どもの暴力は1万896件で、初めて1万件を超えました(文部科学省「問題行動調査」)。報告される小学生の暴力行為は2005年度までは年間2000件前後でしたが、年々増加してきています。

教員らは、「感情のコントロールがうまくできない児童が増えた」「人間関係をうまく構築できない児童が増えている」などと語っています。

多くのメディアがこのニュースを報道しましたが、先日11月1日に放送されたNHK『週刊ニュース深読み』でも、「なぐる・ける・すぐキレる... 小学生にいま何が?」と題して、この問題を取り上げています。

番組では、「ちょっと注意しただけで教師を蹴る子」「1人の子をほめたら、「あの子ばっかり」とキレて友だちに机を投げつけ子」「キレてハサミを向ける子」などが紹介され、「普通の子が暴力行為をする傾向がある」というコメントが紹介されました。

子どもたちに、学校や家庭でのストレス、「よい子プレッシャー」があることや、家庭の不安定な生活などが原因としてあげられていました。

■現代の子どもたちに襲いかかる問題

虐待

児童相談所が扱う児童虐待件数は、年々増加し6万件を超えました。そこまでいかなくても、とても乱暴な環境にさらされている子ども、ネグレクトとまでは言わなくても無視されている子など、統計に表れない子どもたちはさらに多いでしょう。

暴力や乱暴な言葉使いが日常的になっている子もいます。

そして、愛されている実感のない子が、大量に生み出されていると思います。必死になって、愛されるよい子になろうとして、そのプレッシャーの負けてキレる子もいるでしょう。

貧困

子どもの貧困も増えています。子どもの6人に1人は貧困です。お金がないことに加えて、心の余裕がない大人も増えているように感じます。不安定な家庭環境がキレる心理を作り出すこともあるでしょう。

学校現場で感じる子供の貧困と格差

ストレス

子どもの半数が「忙しい」と感じ、子どもの7割が「もっとゆっくりしたい」と言っています。

子どもの声は「騒音」などと言われ、元気に遊ぶ場所も減っているでしょうか。ストレスや欲求不満は、攻撃性を引き起こします。

たとえば、兄弟関係はいつも葛藤を生み出すのですが、それを丸く収めるのが親の役割りです。けれども、余裕のない親はきょうだいトラブルによるストレスの解消ができません。

ストレスを減らすことも大切ですし、ストレスに負けない力を育てるのも大切です。しかし、今注目されているのは「レジリエンス」です。

(ストレスに強くなるためには)

でこぼこ道も歩ける。転んで痛い目にあっても、また元気に起き上がれる。そんな心の強さ、しなやかさが必要です。そのような、逆境を乗り越える力、倒れても起き上がられる心の復元力、回復力を「レジリエンス」と言います。

出典:ストレスに負けない子を育てる:レジリエンス(あきらめない、折れない心)の心理学:Yahoo!ニュース個人有料

プレッシャー

昔なら、勉強ができないならできないで良かったようにも思えますが、現在は進学率が上がっています。みんなが上の学校を出て、サラリーマンにならなければならないというプレッシャーがあるように思えます。勉強の内容量も増加し、家庭学習が強調され、「よい子」にならなくてはと感じている子どもも増えているでしょうか。

■「キレる」心理と予防法

恵まれない暴力的環境で育ち、キレるようになってしまう子もいます。自分がとても乱暴に扱われ、傷つけられ続ければ、キレる子になるのも不思議はありません。大人が子どもを守らなければなりません。

でも、そんな子の母親が語っています。「(あの時は)生活に追われ、互いに傷つけあう人間関係をどうせこんなもんだとあきらめ、変えてみようと思う余裕もなかった」(西田寿美「子どもの衝動性と暴力」:こころの科学148)。

子どもの暴力対対策には、家庭支援も欠かせません。

「キレる」は、常識はずれの怒り方、暴力的行為のことです。心理学的に言えば、キレる子どもたちは「認知」が歪んでいます。普通ならそんなに怒らない状況を、非常腹立たしい状況と認知します(感じます)。その時に、周囲の対応が不適切だと、さらに認知が歪みます。

「どうして僕ばっかり」「みんな僕がきらいなんだ」などと。

認知の歪みを直すこと、そして怒りを、正しく表現することが求められます。

『週刊ニュース深読み』では、香川県の実践例を紹介していました。「怒らないですむ呼吸法」「上手な断り方」などを学ぶ、「ソーシャル・スキル・トレーニング」などが、効果を上げています。

認知行動療法による怒りのコントロール訓練もあります。

「もっと我慢しろ」「もっと落ち着け」。そう言うだけでは、問題は解決しません。〜

あなたを怒らせているのは、あなた自身〜

「出来事→感情」ではなく、「出来事→解釈(認知)→感情」〜

出典:あなたを怒らせるのはあなた自身:キレる心を静める認知行動療法入門:Yahoo!ニュース個人有料

子どもを責めるのではなく、理解することが必要です。怒りの感情自体を否定し、キレる子どもを否定してしまっては、問題は悪化します。怒りに理解を示しつつ、でも本人が幸せになれるような怒りのコントロールを学ばせます。

自分の怒りを周囲のせいにしないというのは、大人のDV加害者にも必要な発想の転換です(彼らは女性が悪いと感じている)。

■「キレる」病理と私たち

「キレる」子の中には、何らかの精神疾患を持っている子もいるでしょう。ただ、前述の番組では普段は普通の子がキレるようになったと紹介されています。

精神科医の齋藤環先生は、キレる原因を「安易に人格障害や易怒性といった個人病理にのみ還元すべきではない」と語り、「解離性憤怒」といった考え方を紹介してます(齋藤環「悪い卵システム、あるいは解離性憤怒」:こころの科学148)。

現代人は、店や学校や病院といった「システム」に「完璧」を求める(完璧を信じる)。ところが、目の前の担当者の不手際のせいで自分だけが不利益を被ったと感じる。そうすると、みずからの人格とはあえて解離した形で「憤怒」を表す。

これが、解離性憤怒です。この感情の背景には、深い不安があるのでしょう。

キレるのは、子どもだけではありません。親もキレる。患者もキレる。高齢者もキレる。そんなキレる大人たちが増える中で、子どもたちも翻弄され、キレているのでしょう。

カツアゲ(恐喝)をするような不良少年の怒りや暴力、脅しは、計算されています。しかし、キレてしまう子どもたちの中には、怒りで我を忘れて大暴れし、後で冷静になれば「またやってしまった」と落ち込む子どもも多くいます。

子どもを責めるのは簡単です。しかし私たち大人が、子どもの不安を取り、ネガティブ感情とのつきあい方を教えていかなくてはなりません。キレる子どもたちも、本当はみんなと仲良くしたいと願っていると思うのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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