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おおよそ軟調、一誌が特需…女性向けコミック誌の部数動向をさぐる

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ コンビニに並ぶ雑誌群。女性向けコミックもよく目に留まるが、部数動向は(写真:アフロ)

トップはBE・LOVE

加速度的に展開される技術革新、中でもインターネットとスマートフォンをはじめとしたコミュニケーションツールの普及に伴い、紙媒体は立ち位置の変化を余儀なくされている。すき間時間を埋めるために使われていた雑誌は大きな影響を受けた媒体の一つで、市場・業界は大変動のさなかにある。その変化は少年・男性向け雑誌ばかりでなく、少女・女性向けのにも及んでいる。今回はその雑誌のうち、女性向けコミック誌(少女向けのコンセプトで発刊されている雑誌群よりも対象年齢は上。大よそ大学生以上が対象。いわゆるR指定は無いが、その判断を下されてもおかしくない雑誌、連載もある)について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(該当四半期の1号あたりの平均印刷部数。印刷数が証明されたもので、出版社の自称・公称部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む。電子版は含まれない)から、実情をさぐる。

まずは女性向けコミック誌の現状。最新データは2017年第1四半期(1~3月)のもの。

↑ 2016年10~12月期と最新データ(2017年1~3月期)による女性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年10~12月期と最新データ(2017年1~3月期)による女性向けコミック誌の印刷実績

トップの「BE・LOVE」(主に30代から40代向けレディースコミック誌)がやや突出、「プチコミック」「YOU」が続く。トップ以外の部数は各誌でそれぞれ類似順位他誌と一定の差異があり、かつては並べるときれいな傾斜ができていた。しかしながら第2位と第3位の雑誌はここしばらく激しいつばぜり合い、さらには順位の差し換えの動きを続けている。今四半期では「YOU」と「プチコミック」の順位が前四半期から入れ替わる形となった。

またグラフの形状から分かる通り、「フラワーズ」が異様な値動きをしている。これは入力ミスでもトラブルでもなく、同誌に特需が発生した結果によるもの。詳細については次の項目で解説していく。

特需発生で大きな伸長…四半期変移から見た直近動向

次に前四半期と直近四半期との部数比較を行う。雑誌は季節で販売動向に影響を受けやすいため、精密さにはやや欠けるが、大まかに雑誌推移を知ることはできる。1誌が飛びぬけた上昇ぶりを見せ、グラフ全体の体裁がおかしな形となっている。

↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック)(2017年1~3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック)(2017年1~3月期、前期比)

「フラワーズ」はプラス142.4%、つまり前四半期比で部数を2.4倍に増やした計算になる。3四半期前にも大きな上昇を見せたが、その原因は人気作品「ポーの一族」の続編「ポーの一族 春の夢」がスタートしたことによるもの。同誌では2017年4月号で吉田秋生先生の「海町diary」が掲載されるなど、他にも部数底上げの要因は考えられるが、「ポーの一族 春の夢」の連続連載が2017年3月号(2017年1月28日発売)からスタートしたのが主要因と考えて間違いない。

↑ フラワーズの部数推移(2017年1~3月期まで)
↑ フラワーズの部数推移(2017年1~3月期まで)

今印刷証明付き部数は該当期間内に複数が発刊された場合、それらの平均値が計上される。3四半期前は「ポーの一族 春の夢」は単刊での掲載だったために上昇も限定的だったが(4万4667部)、今四半期は3号すべてで掲載されたため、ここまでの伸びとなったのだろう。

購読した読者の感想を見聞きする限り、大よそ好意的な意見で占められている。連載が継続する限り、この値は維持されるに違いない。実際、2017年5月27日発売号までは「春の夢」編が継続掲載されており、そこで「春の夢」は終了するものの、来春に新シリーズがスタートすることも告知されている。また「ポーの一族」の宝塚歌劇花組による舞台化も決定されているため、それに合わせた企画展開もあるかもしれない。「フラワーズ」の好調さはしばらく継続することだろう。

季節変動を考慮しなくて済む前年同月比では

続いて「前年同期比」による動向。年ベースの変移となることから大雑把な状況把握となるが、季節による変移を考慮しなくて済むので、より確かな精査が可能となる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック誌)(2017年1~3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック誌)(2017年1~3月期、前年同期比)

前四半期比のグラフ同様、「フラワーズ」の突出のためにグラフの形状がいびつになってしまった。しかしよく見ると、その「フラワーズ」以外はすべてマイナスで、1割超えの下げ幅を示したのは6誌にも及ぶ。

なお「デザート」の姿が見られないが、これは同年前期において姉妹誌の「ザ・デザート」が休刊のために脱落した際に、合わせてその四半期のみ部数計上が取りやめになったため。次四半期には再び部数を公開している。

「ARIA」はかつて「進撃の巨人」特需で大きく部数を底上げしたが、間もなく失速。その後は下落基調を示している。実部数は記録の限りではこれまでの最小値だった1万2000部すら下回る値にまで落ちており、危機感を覚える。

↑ ARIAの部数推移(2017年1~3月期まで)
↑ ARIAの部数推移(2017年1~3月期まで)

再び大金星をつかみ、大きな上昇ぶりを示してほしいものだが。

大よそ軟調な実情を見せてはいるが、「進撃の巨人」や「おそ松さん」のような盛り上がりを複数タイトルで意図的に起こせるようになれば、それこそ全盛期の週刊少年ジャンプのような活性化も不可能では無い。今四半期ならば「ポーの一族 春の夢」が好例。そのためには幅広い層へ訴えかける、購入動機をかきたてる作品との連動、あるいは発掘、さらには創生が欠かせまい。

なお他ジャンルの記事でも言及しているが、今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用性向も確実に上昇している。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各雑誌、コミックそのものの需要がそれと連動する形で減退しているとは限らないことは認識しておくべきである(残念ながら電子版の販売冊数は概して非公開)。もっとも女性向けコミック誌の場合、その方面の展開はあまり見聞きしないのが実情ではあるのだが。

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グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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