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「人に迷惑をかけるな」 故・吉田栄勝さんの教え

大宮冬洋フリーライター

●今朝の100円ニュース:吉田、W杯「父も一緒に戦う」(朝日新聞)

「ステキな大人になれますように! ステキな大人になれますように!」

テレビ番組『マツコ有吉の怒り新党』を見ていたら、ロケで滝行体験中のディレクターが絶叫していた。マツコ・デラックスと有吉弘行からは「前回は世の中のことを願ったくせに結局は自分かよ」と突っ込まれていたが、「ステキな大人」になることも世の中のためになると僕は思う。

でも、「ステキな大人」像はあいまいだ。20代の頃は、ひたすら「能力も名声もあるお金持ち」を思い描いていた。今だってかなり憧れている。今日も仕事をがんばる理由の半分ぐらいは、「できる男になりたい、声望が欲しい、小遣いを増やしてモテたい」という自意識である。

一方で、日々の生活で「ステキだなあ」と感じる大人像は変化してきた。先日、新幹線に乗っていたら、後ろの席の人に「(座席を)少し倒していいですか?」と笑顔で声をかけていた35歳ぐらいの女性がいた。そして、静かに本を読み始める。とても感じがいい。降りるときはきちんと席を戻していた。

荷物を通路にはみ出して置いたり、電子機器の音量が大きすぎたり、ゴミを放置したりする乗客も少なくない。車掌や販売員にやたらに横柄な態度を取る人もいる。その中で、彼女のマナーは傑出していたと思う。

都市生活と長距離移動が当たり前となった現代では、見ず知らずの人と接近する機会がやたらに多い。二度と会わないかもしれない関係性であっても、その一瞬だけは時間と場所を共有していることに変わりなく、僕たちはその積み重ねの中で生きている。見知らぬ人たちと社会という共同体を形成しているのだ。

この幻のように希薄な共同体の中で、「旅の恥はかき捨て」的に振る舞うか、それとも「共同体の維持と発展に微力ながら尽くす」方向で行動するのか。2つに1つだと思う。残念ながら、混雑した車道や電車内にいると前者のほうが多いように感じる。

今朝の朝日新聞によると、レスリング女子金メダリスト吉田沙保里選手の父親である栄勝さんは、高速道路の路肩に車を止めた状態で意識不明となっていた。死因はくも膜下出血だったという。

「お父さんは『人に迷惑をかけるな』ということを教えてくれた。最後も見本を見せてくれた」(吉田選手のコメント)

無理して運転を続けて車線上で意識を失っていたら、他の車も巻き込む大事故になっていた可能性が高い。栄勝さんは自分の安全確保というよりも「他の人に迷惑をかけないため」に必死で駐車したのだと思う。その後、助けを呼ぶこともできずに力尽きた。

社会を支える立派な力が自分にあるとは思えない。でも、周囲の見知らぬ人が気持ち良く過ごせるように振る舞うことはできる。できるだけ迷惑をかけないように気を付けることも可能だ。栄勝さんのステキな教えを吉田選手と分かち合いたい。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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