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侍ジャパンとの対戦を待ちわびる日本育ちの中国代表戦士たち【WBC】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
リャン・ペイ(中国代表/北京タイガース)

 いよいよあと2日に迫ってきたWBC。侍ジャパン初戦の相手は中国だ。昨日6日、中国チームは宮崎で社会人野球・西部ガスと対戦。2対6で敗戦し、大会本番に向けての練習試合4連敗となってしまった。これまで来日以後の通算成績は3勝5敗。勝ち星はすべてクラブチームからと、アマチュア強豪や独立リーグのチームに対して勝ち星を挙げれずに終わっている。

 チーム内でも、国外でプロ経験のある選手はチームに対して厳しい評価を下しているのも現実だ。

 エンゼルスのルーキー、クリス・カーターは現状の代表チームを「アメリカで言えば、攻撃陣はカレッジ、投手陣はハイスクールレベル」とし、今回で3度目の出場となるベテラン、レイ・チャン内野手は「マイナーのAクラス」と現チームを見ている。

 しかしそのことが、大会本番に対して白旗をあげていることにはならない。4年前にようやく本格的なプロリーグができたという若い国。代表メンバーの多くも、20代半ばまでの若い選手だ。そんな彼らは、WBCの舞台に立てることに喜びを感じ、全試合を勝ちにいくと息巻いている。

 そんな若い選手の中に、2人、日本生まれの選手がいる。ともに現在、プロ球団、北京タイガースに所属し、「見知らぬ母国」で奮闘している。

陸昀(ルー・ユン)内野手

 生まれは中国だが、小学生時代に両親の仕事の都合で来日。そこで野球に出会い、三重県の四日市大学卒業後に単身中国に渡り、北京タイガースに入団した。

「日本のプロではドラフトにかからなかったんですが、野球を続けたくて、卒業後に中国に渡って、セレクションを受けて採用されたんです」

 野球後進国とは言え、中国はスポーツに関しては徹底的なエリート主義を貫いている。さすがに、人気種目ではないので、本当の意味でのトップアスリートは来ないが、野球を選ぶ者もその身体能力は非常に高い。大学時代無名だった選手が、主力として迎え入れられるような場所ではなかった。

「はじめは試合に出れるとは思いませんでした。もちろん、レギュラーとるつもりでやってましたけど。頑張って少しずつアピールして、だんだん試合にも出場できるようになりました」

と陸は振り返る。

 陸が中国球界に飛び込んだ2019年は、本格的にプロ化に舵を切った年だ。新リーグ、中国プロ野球リーグ元年。陸は北京タイガースのショートストップとしてシーズンを過ごし、初年度シーズンの優勝に貢献した。

 当時北京タイガースには、監督以下指導者に数名の日本人がおり、プレーする上ではやりやすかった。しかし一方では、他の選手との間に入って通訳をさせられることもあり、それはそれで大変だったと1年目のシーズンを振り返る。

 プロ野球とは言え、中国プロ野球は、日本とはかなり違う。例えて言えば、学生野球が給料をもらっている感じだ。選手たちは、原則、ホーム球場のある大学内にある寮で集団生活。食事は、3食とも寮内の食堂。北京市内と言っても、寮や球場は市街地からバスで1時間以上かかるようなところなので、薄給の選手たちはおいそれと遊びにいくこともままならない。そして、オフの一時期に帰省する以外は、年中この寮生活だ。

北京入団後、5番ショートとして活躍した。
北京入団後、5番ショートとして活躍した。

 中国人とは言え、日本で育った陸は当初なにかととまどったが、そのうちに慣れたと言う。

「でも、食事や生活スタイルは大丈夫でしたよ。日本で暮らしていた時から中国にはしょっちゅう来てたんで」

 ここ3年は、コロナ禍でリーグ戦は中止。プロアマ合同の全国大会に出場するなどして、チームは活動していたが、そこでの活躍もあり、晴れて今回WBCの代表メンバーとして名を連ねることができた。

 日本ではかなえられなかったプロの夢を母国でかなえた陸だが、手の届かなかった日本のプロにメジャーリーガーを加えた侍ジャパンと対戦する。普通に考えれば雲の上の存在の侍ジャパンに対しても、彼が臆することはない。

「あこがれというスタンスではなく、侍ジャパンも対戦相手のひとつです。笑われるかもしれないですけど、僕らは全部勝つつもり。一位通過目指して本番に臨みますよ」

 息子の晴れ姿を見るため、中国に帰っていた両親も東京ドームにやってくると言う。侍ジャパンに一泡ふかせて日本への「凱旋」を飾るつもりだ。

梁培(リャン・ぺイ)外野手

 外野のサブメンバーである梁培は、日本生まれ日本育ちだ。東海大菅生高校卒業後、彼も野球を続けたくて中国に渡った。ちょうど前回のWBCが行われていた年だった。

 頼ったのは、シニアリーグ時代のつてだった。中学時代所属していた名門調布シニアが台湾遠征を行った際の世話人が北京タイガースのコーチをしており、橋渡し役を買って出てくれたのだ。

「大学からも話はあったんですけど、中国に行って野球するのも面白いなって。こっちだと国際大会の舞台に立てるチャンスもありますから」

 高校時代に日本のプロからの誘いがなかった梁にとって、母国でプロ選手となり、国際舞台に立つことは選手として大きな魅力に映った。北京入団後、WBCは早くから目標となっていった。

「中国では野球はマイナー競技なんで、プロって言っても、そりゃ日本とはずいぶん違うでしょうけど。まだまだお客さんも少ないですし。でも、思ったよりいい環境でプレーさせてもらってます」

 彼もまた中国人の両親の下で育ったため、寮生活や食事にはあまり不自由を感じなかったが、言葉の面では多少の不安があったと言う。

「家庭では中国語だったんですけど、いざ行ってみると、やっぱり話す方が困りましたね。聞くのはわかっても自分の言いたいことが全部言えない(笑)。だから最初は他の選手ともちょっと距離ありましたけど、そのうちみんな受け入れてくれましたよ」

 日本の高校から進んだ中国野球だが、チーム力は高校野球上位、あるいは大学野球レベルに映った。その一方で個々の選手のポテンシャルの高さには舌を巻いた。

 それでも、梁も2019年のプロリーグ発足のシーズンにはレギュラーポジションを獲得。「中国一」に貢献している。彼もまたその活躍も認められて今回代表入りしたが、侍ジャパンとの決戦を前に、いまだ実感がわかないと笑う。

「楽しみですね。多分見たことないような球が来ると思うんですけど、思い切りやるだけです。日本で野球続けていたら絶対こんな体験できませんから」

プロリーグ発足の2019年は1番セカンドとして陸と二遊間を組んだ。
プロリーグ発足の2019年は1番セカンドとして陸と二遊間を組んだ。

 ふたりが心待ちにしている侍ジャパンとの一戦はいよいよ明後日に迫っている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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