「リゲイン・プライド!」。ラグビー大学選手権、早大がスクラムで京産大に雪辱
いわばスクラム・プライドである。早大が、相手の看板のスクラムで真っ向勝負を挑み、京産大を降した。31-19。大学日本一の象徴の部歌『荒ぶる』熱唱にあと1勝とした。
昨年度の完敗(準々決勝・28-65)の借りを返す。早大選手はみな、そう心に決めていた。スクラムの要、右プロップ(3番)の亀山昇太郎は「リベンジというか」と言った。人懐っこい顔には充実感がにじむ。
「昨年はスクラムでけちょんけちょんにされたので、今回は逆にしたい、そう意気込んでいました。まあ、ある程度は、目標を達成できたのかなと思います」
全国大学ラグビー選手権準決勝。新年2日、晴天下の国立競技場には2万8千人のラグビーファンが駆け付けた。「ワセダ~、ワセダ~」。試合前から、早大応援歌『紺碧の空』が寒風に乗る。「ワセダァ ワセダァ 覇者 覇者 ワセダァ~♪」
◆試合テーマが『リゲイン・プライド』
『リゲイン・プライド』、これが早大のゲームテーマだった。早大主将のフッカー(2番)佐藤健次が説明してくれた。
「心のどこかで、みんな、京産大にやり返そうと燃えていました。そう、プライドを取り戻そうと。セットプレーだったり、ディフェンスだったり…。この勝利は、去年卒業の4年生のお陰です。そして、いい準備をしてくれた4年生たちのお陰です」
勝負の大きなポイントはスクラムだった。早大は序盤3本のスクラムで相手反則を奪い、勢いに乗った。マイボールの1本目は相手のアーリーエンゲージ(レフリーのコールより早く組む行為)で、マイボールの2本目ではコラプシング(故意に崩す行為)で相手反則をもらった。
このPKをタッチに蹴り出し、早大は前半7分、左ラインアウトからのサインプレーでロック栗田文介が先制トライを奪った。早大にとって最高のスタートとなった。
早大の大田尾竜彦監督は記者会見で、「スクラムですね」と満足げに口を開いた。
「スクラムで反則せずに組み勝ってくれたのが、今日の前半(26-0)につながりました」
敗れた京産大の廣瀬佳司監督はこうだ。
「立ち上がりから、ワセダのプレッシャーにペナルティーとミスを繰り返して、それが失点につながりました」
◆亀山「いい準備ができた」
さらに前半12分、京産大ゴールライン前、相手ボールのこの試合3本目のスクラムでも、早大はコラプシングの反則をもぎとった。その瞬間、主将のフッカー佐藤は雄叫びをあげた。左プロップ(1番)の苦労人、杉本安伊朗がぐっと沈んでトイメン3番の川口新太を抑え、3番の亀山が相手の1番と2番をぶっちぎる形に見えた。
スクラムで押せたのはなぜか。早大の京産大攻略が奏功した結果だろう。フッカー佐藤主将は「自分たちのスクラムが組めた」と満足そうに振り返った。
「自分たちにフォーカスして、8人がまとまって、まずいいヒットで前に出ることを意識してやっていました。それが、すごくはまったのかなと思います」
プロップ亀山も言葉を足す。「いい準備ができたのかな」と。
確かに『準備力』の勝利でもあった。
京産大は伝統的な独特のスクラムを強みにおく。早大など他の大学と違い、組み合う時、3番の左手を2番の右手の上でオーバー・バインドし、3番を前面に出す。右アップの攻めのスクラム。当たり勝てば、相手1番を押し崩す格好となる。
そこで、早大はまず、相手3番を気持ちよくヒットさせないよう間合いを詰め気味に構えた。そして、8人一体となって、低く、ヒットして前に出た。結束を強め、フロントロー(両プロップとフッカー)のでん部で横一線の『壁』をつくるイメージ。
そう言えば、早大の仲谷聖史コーチ(スクラム担当)は目の前で、両手それぞれ3本の指をスクラムの如く合わせながら説明してくれた。
「出過ぎないカベです。出過ぎると反則ですから。1番がやられると、(カベは)ばらけさせられます。(フロントロー)3人を絶対に下げさせない。それは、3人プラス、バックファイブ(両ロック、両フランカー、ナンバー8)のがんばりです。そういった意味では、練習通りにできました」
◆佐藤主将「あの3人のお陰」
この1週間。
試合メンバーの“台”となるBメンバーが京産大スタイルのスクラムを体現してくれた。また、準々決勝で、学生最強といわれる右プロップ稲葉巧を擁する関西の近大と対戦したこともプラスとなっただろう。
佐藤主将は記者会見で、台となってくれた3人(清水健伸、勝矢紘史、前田麟太朗)のフロントローの名前を出し、こうしみじみと漏らした。
「スクラムを押せたのですごくうれしかったですけど、それは自分たちの力というより、あの3人のお陰かなと思います」
スクラムさえ負けなければ、今季の早大はリズムに乗ることができる。鋭い出足の堅いディフェンス、日本代表フルバック矢崎由高らの鋭いランプレーと素早いつなぎ、そして1年生スタンドオフ、服部亮太の度肝を抜くロングキック。
終盤、京産大の反撃を受けながらも、12点差で振り切った。
◆スクラムは一日にして成らず
もっとも、ローマ、いや“スクラムは一日にして成らず”でもある。亀山によると、昨年度の京産大の敗戦直後、グラウンドで悔し涙を流しながら、佐藤主将らフロントロー陣でこう、誓い合ったそうだ。「どのチーム相手でもスクラムを押すチームになろうぜ」と。
その年度の年明け、早大は大学選手権決勝より早い1月9日に新チームのスクラム練習を始めた。例年より1カ月ほど早い。大学選手権での屈辱を晴らしたいという一心だった。
亀山の述懐。
「この1年、スクラムの練習量が圧倒的に違いました。春シーズンだけでも800本ぐらいはスクラムを組んだんじゃないですか。これまでの年の10倍はスクラムを組みました。仲谷さんの指導で、(スクラムの)いろんな引き出しも増やせました」
唐突ながら、「スクラムは好きですか?」と聞いた。正直者の亀山は、「いや、そんなに…」と漏らし、すぐ言い直した。
「でも、職業、いやポジション柄、好きだと言わないとおこられるので…。だから、はい、好きです。(記事には)“大好き”と書いておいてください」
◆迷わず組めば、『荒ぶる』が見えてくる
亀山の座右の銘が、故アントニオ猪木が引退セレモニーで披露した『道』という詩の締めの部分、「迷わず行けよ。行けば分かるさ」である。3番の好漢が照れながら説明してくれた。
「迷わずに自分たちのスクラムを組めば、絶対に相手に勝てる。自分たちのスクラムを信じて組んでいくだけです」
いざ決勝戦(13日・秩父宮)の相手は、4連覇を目指す王者・帝京大となった。関東大学対抗戦で勝ってはいるが、帝京大のスクラムも強力である。いつもの如く、シーズン終盤にきて、さらにパワーアップしてきた。
亀山は「準決勝はまだ通過点でしかありません」と言った。
「帝京大(のスクラム)は、組んでからパワーがあるチームです。そこに対して、ヒットで出て、しっかり体重を前に乗せていきたい。そこにこだわります」
相手は強い。それでも、ひとかたまりになって押せ、押せ。自分たちのスクラムを迷わず組めば、『荒ぶる』を歌う仲間の姿が見えてくる。