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名古屋メシはなぜどれもこれも“味が濃い”のか?

大竹敏之名古屋ネタライター
味噌煮込みうどん、手羽先、味噌カツ、ひつまぶし。名古屋メシに共通するのは味の濃さ

名古屋はご当地グルメの宝庫

あんかけスパ、カレーうどん、台湾ラーメン、鉄板スパ。味噌を使わない麺類も濃い口
あんかけスパ、カレーうどん、台湾ラーメン、鉄板スパ。味噌を使わない麺類も濃い口

ご当地グルメ花盛りの昨今。B級グルメイベントの活況に象徴されるように、全国各地のローカルフードに注目が集まっています。

名古屋はそんなご当地グルメの宝庫。味噌煮込みうどん、味噌カツ、手羽先、ひつまぶし、きしめん、味噌おでん、名古屋コーチン、小倉トースト、鉄板スパゲティ、あんかけスパゲティ、台湾ラーメン・・・。名古屋メシと総称される地域特有の食べ物には事欠きません。がっつりメシから軽食、酒の肴から接待にも使えるごちそうまで、これほど多彩な郷土料理が揃っている地域は、国内では他に沖縄ぐらいしかないんじゃないでしょうか。

名古屋メシの特徴はどれもこれも“味が濃い”こと。こってりだったり甘辛だったり、ひと口目からガツンと来るインパクトの強い味つけが施されています。この味の濃さはすなわち旨みの強さ。旨みは日本で発見された味覚ですから、これを好んでやまない名古屋人の嗜好は、独特と言われながらも実はきわめて日本的とも言えるでしょう。

味噌が育む濃い口嗜好

東海地方でのみ食される豆味噌。赤味噌とも呼ばれるが色はむしろ黒に近い茶色
東海地方でのみ食される豆味噌。赤味噌とも呼ばれるが色はむしろ黒に近い茶色

こんな名古屋人の濃い口嗜好を形成しているのは豆味噌(赤味噌とも)です。実際、名古屋メシといえば味噌、を思い浮かべる人も少なくないでしょう。

豆味噌は大豆と塩だけを使って作る、東海地方独特の味噌。岡崎の八丁味噌が代名詞的存在で、この地域でのみ生産され、かつ食されています。この豆味噌こそ、長期熟成によって旨み成分がとびきり多いのです。

最近でこそ、朝はパン食という家庭が多数派となっていますが、ほんのひと昔前まではごはんに味噌汁が主流でした。つまり名古屋の大人世代の大半は、毎朝豆味噌の味噌汁を飲んで育ってきたのです。韓国の人が幼い頃からキムチを日常食として食べて辛いもん好きになるのと同様に、こってり濃い豆味噌の味噌汁を飲み続けてきた名古屋人が旨口、濃い口嗜好のなるのは必然なのです。

また、味噌だけでなくたまり醤油も東海地方特有の調味料で、これまた旨みが強いのが特徴。きしめんのつゆももともとはたまりが基本でした。日本の食の味つけを決定づけているのは味噌と醤油ですから、この2つが旨み重視となれば、もう旨み大好きにならないはずはありません。

初めは「?」でもクセになるその理由

徳川家康も故郷・岡崎の八丁味噌をこよなく愛した
徳川家康も故郷・岡崎の八丁味噌をこよなく愛した

名古屋メシの中にはもちろん味噌を使わないものも少なくありません。それでも旨みの強いはっきりした味のものがほとんどで、これは名古屋人の嗜好に応えるために自然とそういう味つけになり、だからこそ名古屋人に受け入れられ名物にまで育ったと言えます。

旨みの強い食べ物というのは、くり返し食するうちにクセになるという魅力を持っています。名古屋メシに関しても「最初は抵抗があったけど何度か食べたらハマってしまった」という声をよく聞きます。ほんの10年ほど前まではゲテモノ扱いすらされてきた名古屋メシですが、最近はご当地グルメの代表格として世間の見る目も変わってきました。一度といわず二度三度と食してみて、ヤミツキになっていただきたいものです。

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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