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日銀は大丈夫か?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

今、なぜ日銀の出口戦略が語られるのか?

先週、日銀が金融緩和政策からの出口戦略を検討かとのニュースが流れて、堅調であった株式市場が一転売られる展開となった。ここにきて、日銀の出口戦略がクローズアップされるのは、アメリカが出口戦略に向けて動き始めて14日にはスケジュールを説明し、欧州も検討し始めているからだ。どうして、日銀の動きが鈍いのだろうか?それは日銀の抱える問題が大きいからだと言えよう。

急増する日銀の総資産

日銀は、2013年4月黒田氏が日銀総裁に就任して物価目標2%を目指し量的質的金融緩和に乗り出して以来、国債、社債、REIT、ETFなどの資産を市場から大量に買い続けている。しかも、日銀は、2%の物価目標を何としても達成しようとして、資産買い入れのペースを上げてきた。その結果、日銀の総資産は、この4年で急増、黒田総裁が誕生した13年4月から約326兆円も増え、5月末現在500.8兆円に膨らんでいる。

この500兆円を超える日銀の総資産は、日本の名目国内総生産(GDP)の約93%に当たる規模である。同じように、欧米の中央銀行も、リーマンショック以降金融緩和政策の一環として資産を買い入れてきているが、アメリカの連邦準備理事会(FRB)の総資産は約4.5兆ドル、名目GDPの約23%、欧州中央銀行(ECB)の総資産は約4.2兆ユーロ、名目GDP(ユーロ19カ国)の約39%であり、どちらも円換算で500兆円前後である。これを見ると、日銀の総資産の規模が、欧米に比べていかに大きいかがわかる。

一方、現在、80兆円をめどに、長期国債の残高を増やそうと買い入れている。長期国債は、毎年40兆円近くが償還されるので、実に120兆円近くの長期国債が市場から吸収されることになる。毎年発行される長期国債が約120兆円であることから、ほぼ消えることになる。そして、民間の金融機関は、日銀の長期国債買い入れに応じているため、大量の長期国債を日銀に渡している。

この結果、5月末時点で日銀の長期国債保有残高は、390兆円強(短期国債37兆円を加えると国債残高は427兆円)となり、長期国債発行残高約900兆円の43%を占め、13年3月末の約11%から大幅に上昇していることになる。その一方で、民間の金融機関の長期国債保有残高は減り続け、3月末で232兆円、国債発行残高の約26%となって13年3月末の約4割弱から低下している。これからすると、もはや国債の最大保有者は日銀となる。

こう見てくると、日銀の総資産は、規模においても、内容においても異常と言えるのではないだろうか。

日銀の資産買い入れは大丈夫か?

日銀の量的質的金融緩和という異次元緩和政策で大量の国債等の資産を買い入れてきているが、このまま続けられるのであろうか?

そもそもこの政策の目的は、資産を買い入れて、銀行等の金融機関に渡した買い取り資金を市中に回すことによって、景気を刺激し、物価上昇につなげようということであった。また大量の資金が市中に出回れば、需給関係から金利低下で円安に傾き、景気にプラスになることも期待していた。当初は、思い通りになっていたが、海外景気の緩やかな回復と欧米の金利低下もあって円安から円高に振れ、国内でも14年4月の消費税引き上げで個人消費が伸び悩み、設備投資も思ったほど増えないため、物価は1%台から再び0%台に低下し、日銀が期待した物価への効果が出ていない。

こうした状況で、日銀は、依然として80兆円をめどに長期国債を買い入れているが、もはや買い入れ効果が薄いのに、このやり方で本来の目的である2%の物価目標を達成するのは難しいと言わざるを得ないのではないか。それは黒田日銀総裁も認識しているのか、60~70兆円まで買い入れ額を減らすこともあり得ると示唆している。しかし、一方で消費者物価が2%を越えるまで残高の拡大方針を継続するとしている。結局、日銀の資産買い入れは、額を減らすものの、続けていくということになる。

それでは、日銀の資産買い入れ政策は、いつまでも続けられるかと言えば、もはや銀行などの金融機関は、日銀の担保として一定の国債を保有しなければならず、またマイナス金利に陥った国債などは運用資産として保有できないことを考えると、日銀の要請に応えることが難しくなってくる。それを考えると、今年後半から来年前半にかけて大量の資産買い付けは不可能となるはずである。今年は70兆円、その後の国債償還額の増加に伴い来年はさらに減少し60兆円と長期国債の買い付け額は減っていくと予想される。

実は、日銀は事実上のテーパリングへ向かうが、大きな問題がある

つまり、出口戦略の入り口となる資産買い入れ額の減少による事実上のテーパリングが行われるが、日銀は、市場が知ることでむしろ混乱になるのを恐れて市場への説明をしないかもしれない。それが、日銀の出口戦略を曖昧にしている姿勢に表れている。しかし、それでも、日銀は市中から国債を吸い上げ続け、国債保有残高は増えていくことになる。そこに大きな問題を潜んでいることに注意が必要である。

まず、市場機能の一段の低下である。今後、買い入れ額が減ったとしても、発行される国債のほとんどを日銀が買い入れていけば、国債の保有が益々日銀に集中し、ほとんど出てこないことで流動性を失い、民間の自由な取引による金融の市場機能が一層低下していくことになる。それは、これまで一日中国債の取引がない状況が時々起きてきたが、これが頻繁に起きることになり、最後は市場が死んでしまうことになる。

次に、運用する民間が運用難に陥ってリスクを抱えることである。国債の償還によって、市中に残っている1~2%台の利率の国債が減っていく一方、マイナス金利政策のもと昨年の9月に導入された長短金利操作付き量的質的金融緩和で、マイナスからゼロ近辺の利回りの新規発行国債が増えている。これでは、運用として、金融機関も機関投資家も買いづらく、結果として安全資産である国債等が縮小し、代わりに外債や株式などのリスク資産が増えて、将来的に運用で損失を抱えて問題になるかもしれない。

もう一つは、金融緩和の長期化により財政規律が緩むことである。資産買い入れを続けて、ほぼゼロ近辺の利回りを維持していくと、政府は、安易にほぼゼロに近い金利で大量の国債を発行することを望み、日銀に資産買い入れを続けることを期待するかもしれない。その結果、財政規律が緩み、財政健全化を先送りして、将来財政破たんを招く可能性がある。

最後に、日銀の総資産が増え続けることは、日銀の財務を悪化させることである。一つ目は、額面以上の価格で、もしくはマイナスの利回り(償還額と利金の合計より買い取り額が多い)で国債を買い入れてきた結果、償還時に損失が発生する。ただほかの国債による利金収入などにより、償還損はカバーされて大きな問題にはならない可能性が高い。

二つ目は、出口戦略によるか、いやおうなしに海外からの圧力で金利が上昇した時に、当座預金における付利が上昇し、日銀の保有国債の利率が低いままであると逆ザヤになって、自己資本を上回ると債務超過になる。ただ、いずれ利回りが上がり、高い利率の国債の組み入れにより財務は改善して債務超過は一時的に終わるので大丈夫という見方もある。しかし、日銀の信認を失う状況なので、円が急落して、思わぬ急激な物価上昇につながることもありうる。そうなったときは、再び金融緩和であろうが、景気悪化と物価上昇というスタグフレーションの状況で万策尽きているかもしれない。

最後に

こうして考えていくと、このまま2%の物価目標の達成が難しい中で日銀が大量の資産買い入れを続けることは、問題を大きくし、将来経済を危うくしかねないのではないだろうか。惰性でこれまでの異次元緩和を続けても効果はもはや期待できない。そして、金融政策だけでは、景気回復、デフレ脱却の定着は限界があり、それを達成するには、政府の本格的な改革政策が必要である。

今、日銀は、2%の物価目標の困難さ、資産の買い入れの問題を認めて、金融政策の正常化に向けて出口戦略を真剣に検討し、政府そして市場に丁寧に説明するときに来ているのではないだろうか。もし、本来国民生活の安定を図るべき日銀がそれを避けるのであれば、市場の不安とリスク回避で、急激な円安、金利上昇、株安となって、国民生活が混乱することもあり得よう。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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