それぞれ別のユニホームで、4か月ぶりに再会した“もと小虎” ~続編~
試合の結果や内容については前回書いたのですが、考えてみたら社会人同士の試合を見たのは本当に久しぶりで、ヤジも新鮮でしたねえ。犠打を初球で決められない相手打者に「バントの構えがおかしいよー」とか、ポール際に大きなファウルを打たれた味方投手には「狙ってあれだから大丈夫!」とか、また「ほらほら、キャッチャーが何回も(マウンドに)行って自信なさそうやー。次は置きにくるよ」など。あんまりプロでは聞かない、というか聞こえないので楽しませていただきました。ここに書きにくいフレーズも(笑)。
7回裏が始まる時、カナフレックスの投手が代わったのでショートの藤井選手がマウンドへ向かうと、球審(審判は球審だけ。塁審は両チームから出ています)が大きな声で何か注意しました。試合後に聞いてみたら「プロではピッチャーが交代したらマウンドへ行ってサインの打ち合わせをするのがふつうだったんですけど、1回とカウントされるよって言われました」と藤井選手。社会人野球の規約を見ると確かに『内野手(捕手を除く)が投手のもとへ行ける回数を1イニングにつき1回、1人だけとする』と書かれています。早く慣れないと大変ですね。
専用グラウンドがなく室内練習のみ
大変といえば…カナフレックスコーポレーション株式会社の本社は大阪市ですが、硬式野球チームは工場のある滋賀県東近江市で昨年発足。年末に日本野球連盟から社会人新規登録の承認を受けました。しかし、まだ専用球場がありません。藤井選手は「いつも室内で練習しています。外では走るくらい。だから守備練習ができなくて。きょうみたいにグラウンドを使ってやれたのは、まだ3回目ですよ」と言います。その割には守れていたし、とにかくバッティングがいいですねえ。先発全員の13安打で箕島を上回りました。
ところでチームメートからいろいろ聞かれる?プロでの話など。「そうですね。選手のこととか結構聞かれるので話はしていますよ」。自分から言うのではなく?「はい、聞かれたら(笑)」。今はアルバイト契約で、4月1日をもって正社員になります。普段は仕事優先ですが、社会人野球の大会2週間前からは野球優先だとか。4月19日から始まる都市対抗野球大会の一時予選、滋賀大会に向けて全力投球です。頑張ってください!
和歌山箕島球友会の穴田選手も現在はパート契約で、4月2日の入社式を経て株式会社松源の正社員となり、まずは研修期間。いろんな部署を回るわけで「めっちゃ上手になった」揚げ物担当も、今はもうやっていないそうです。チームの選手全員が松源の社員だと聞きました。スーパーマツゲンで働きながら野球をしています。さて、穴田くんが正式配属されるのはどこの店舗でしょうね。
なかなか“終われなかった”罰走
穴田選手の練習終わりを待っていたのですが、前回も少し書いた全員による“ポール間ダッシュ”は終わる気配がありません。その間に和歌山箕島球友会の西川忠弘監督にお話を伺いました。「いつかやろうと思っていたとこなんですよ。たまたま今日の試合内容が悪かったので。できたばかりのチームに負けていたらダメでしょう。専用のグラウンドがないんですか?それならなおのこと」。そろそろ引き締めなければ、と思っていたところでミスも出て負けたため西川監督いわく“罰走”のポール間ダッシュとなりました。
カナフレックスの選手もまだグラウンドで走ったりストレッチをしたりしていて、それが終わるまでの予定だったのですが、1時間近くになっても引き揚げる気配なし。原井和也ヘッドコーチ(和歌山出身、西武などで活躍された内野手)に西川監督は「向こうの選手がベンチに入ったら、あと3本で終わり」と指示。でもよく見てみると、カナフレックスは芝生部分にみんなが集まってミーティングというか、なごやかな雰囲気です。
ポール間を走っている箕島の選手たちも相当バテてきています。ちょうどライトポール近くまで行った誰かが息を切らしながら「ベンチに入ってくれたら終わりやねんけどなあ!まだかなー。しんどいなー」と、相手に聞こえる声で猛アピール(笑)。それで何人か立ち上がった、と思ったら場所を変えてまた座り…。もしかしてわざとやってる?監督も「なかなか終わらんなあ」と笑っていました。
「打って当たり前」の重圧
穴田選手については「性格的にも十分、チームになじんでいますよ。ただ自分自身にプレッシャーがかかっているのか、結果が出なくて焦りも見えている感じですね。それで、きょうは打順を1つ下げましたし。でも徐々によくなっています。プロと違ってアマチュアは負けたら終わり。また明日ではダメなんですよね。その集中力が必要。彼がいろいろ刺激になってくれれば」と西川監督。
この日の試合では果敢な動きを見せたショートの守備も「粗いところはあるけど肩は強いし、アマでは十分通用すると思います。ショートをやっていた山口をサードにコンバートして空けたんですよ」とのこと。「うちはまず8時間キッチリ仕事をします。朝5時から勤務して、午後3時から練習とかね。練習が休みでも仕事はある。またユニホームも支給じゃなくて全部自分で買うんですよ。そうやって野球をしている。これを経験してプロに戻ったら、全然違うでしょうね」
それから西川監督は「穴田ファンの方は多いですよ。試合にも来てくれるし、賛助会員も増えました」とおっしゃいました。穴田選手が目指すところはNPBへの復帰で「それしか考えていない」と言っていますが、支えてくださる地域の方々や職場の皆さんに恩返しができるよう、今できることを全力でやっていってください。
ようやくポール間ダッシュが終わり、箕島の選手たちもベンチへ戻ってきました。まだグラウンド整備をして、雨に備えシートもかけなくてはならないのですが、監督のご配慮で穴田選手と話ができました。ありがとうございます。
初めて来てホームランが見られたので、もう何本目何だろうと思っていたら…「2本目です」。ここにも書きましたがオープン戦2試合目、ご両親の前で打った2月16日以来だとか。調子はあまり良くない?藤井選手は3割3分くらい打っているみたいですよ。「数字はわからないけど、打率も良くないと思う」。そうなんですね。でも「この前の試合から上向いてきた感じ。きょうはよかったです!ティーバッティングの時から、打てそうな気がした」と穴田選手。それで2ランと中前打が出ました。
「打って当たり前と…焦ってます。出してもらってる、使ってもらってるから」
阪神時代は育成選手という立場ゆえ、ファームの公式戦に出られる機会は決して多くありませんでした。チームが遠征に出ている間、鳴尾浜に残って練習の毎日だったことはしょっちゅうです。 カナフレックスの藤井選手もしかり。“たられば”ではありますが「続けて試合に出られたら」「1試合4打席立てれば」と、育成選手の誰もが思ったでしょう。だから試合に使ってもらえることは最大の喜びで、やりがいもあって、逆に責任も重いというわけですね。和歌山箕島球友会も4月12日から公式戦が始まります。
背番号60は中谷選手の…
そうそう、気になっていた背番号のことも聞かなくちゃ。藤井選手の『10』は、特に意味はないと言っていました。穴田選手の『60』は絶対に何かありますよ。あえて60ってのは。「言っていいですか?中谷にもらった道具とかが使えるからです」…ほんとに?「はい」。穴田選手と一緒に入団した高校生が、あの年は支配下3人(一二三、中谷、岩本)と育成3人(阪口、島本、穴田)もいて、とても印象的な6人衆でした。その中でも中谷選手と仲がよかったんですよね。にしても、そういう理由だったとは知りませんでした。
まだカナフレックスの選手は帰っていなかったので藤井選手にも箕島側のベンチ前へ来てもらったんですけど、滋賀県の八日市まで車で2時間半くらいはかかるのに結構のんびりでしたね。カナフレックスは基本的に日曜日がお休みだからだったのかな?余談ですが、マツゲンはスーパーなので土日は書き入れ時。しかも消費税が上がる直前とあり超多忙で、猫の手も借りたい時期だそうです。30日のオープン戦は雨で中止になったので、お手伝いに行った選手がいるかもしれません。
藤井選手と穴田選手の2ショット写真は前回のタイトル画像に載せたので、そちらをご覧ください。お互いの打撃について穴田選手は「初球からセンター前ヒット打って、さすがやなあと思いました。藤井さん絶対、初球を振ってくると思ってた」とニヤニヤ。それを聞いて藤井選手が「カウント1-3(この場合は1ストライク、3ボールの意味)からホームラン、さすがやな」と返して2人で笑います。守備では「藤井さんのハンドリングうまいなあって、みんなベンチで話してましたよ」と穴田選手。そして「僕は?」と聞かれた藤井選手は「…」。ぷっ!重ねて「僕はどうですか?」と聞き「よかったよ」との返事に半分くらい不満な穴ちゃん。楽しそうで、私も来てよかったと嬉しくなりました。
最後は、タイトル画像に登場している和歌山箕島球友会キャプテンの大北匠央(おおきた たくお)外野手の穴田評で締めくくります。「よく言えば負けず嫌いですけど、結果によって一喜一憂が激しいかな。みんなに可愛がってもらっていますよ。生意気?あはは(笑)。生意気ぐらいがちょうどいいんです!」