ナゴルノ・カラバフ戦争で双方が嘘塗れの宣伝戦を開始
9月27日にアゼルバイジャン共和国がアルメニア共和国との係争地ナゴルノ・カラバフに侵攻しました。7月にも小規模な衝突はありましたが今回は大規模な戦闘に入っており、停戦する様子がまだ見られません。
なおアゼルバイジャンとアルメニアの双方が空中のドローンや地上から撮影した戦闘の様子の映像を公開するなど積極的に宣伝を繰り返していますが、段々とその内容に疑わしいものが増えてきました。
9月30日のアゼルバイジャン側の戦果発表ではアルメニア兵士2300名を無力化、装甲車両230両撃破など壮大な数字が並びます。もしこれが本当で短期間のうちに敵1個連隊相当を完全撃破できたなら小国同士の戦いなのでもう勝ったも同然ですが、おそらくこの数字は十倍どころか数十倍に盛られているでしょう。到底信じられない数字です。
またアルメニア側は「8月に合同演習でアゼルバイジャンに来ていたトルコのF-16戦闘機が今も居残って戦闘介入し、我が方のSu-25攻撃機が撃墜された」と主張しトルコを非難していますが、各国のシンクタンクが民間光学衛星を利用してアゼルバイジャンの航空基地をチェックしているにもかかわらず、F-16戦闘機が駐機されている様子は今のところ確認されていません。少なくともアルメニアがトルコF-16が居ると主張しているアゼルバイジャンのギャンジャ航空基地には見当たらないという報告があります。(追記:10月8日に衛星写真でF-16の機影を確認の報告※)
そして今度はアゼルバイジャン国防省が「アルメニアがトーチカU短距離弾道ミサイルを使用した」とTwitterで不発弾の写真を投稿するも直ぐに消してしまいました。というのも、そこに写っていたのはどう見てもスメルチ多連装ロケットの300mmロケット弾だったからです。
消された後に文面は同じで別の写真で再投稿されましたが、その写真はトーチカUではあるものの2016年アルメニア首都エレバンでのパレード時のもので、今回の戦争の不発弾ではないので使用の証拠にはならず、「アルメニアが弾道ミサイルを使用した」というアゼルバイジャンのプロパガンダは宣伝戦として完全に失敗となっています。
トーチカUは直径65cmでスメルチの300mmロケット弾とは大きさが全く異なり、スメルチは最後部に安定翼が付きますが、トーチカUは弾体の中央やや後方に安定翼が付きその更に後方に格子状の操舵翼が付きます。両者の違いは素人でも部品を見た瞬間に分かるくらい違いますが、アゼルバイジャン国防省のTwitterアカウントは間違えてしまいました。
国家レベルでこのようなフェイクニュースが流されるのですから、SNSで民間人が流す情報はさらに嘘塗れです。戦争や災害では全く関係ない古い写真や映像を、今起きている事件に関係があるかのように説明を付けて流す者が毎回のように必ず大勢現れるので、迂闊に信じてしまわないように慎重に見極める必要があります。
参考比較画像の出典:Точка (тактический ракетный комплекс) - Wikipediaより、トーチカU弾道ミサイルの画像。