米国でのDMCA濫用は"恥の殿堂"入りと訴訟リスクあり
求人情報サービスWantedlyの運営会社のIPOに関するブログ記事がGoogleの検索結果から消え、およびTwitterからも当該記事へのURLを含むツイートの多くが非表示にされるという事件がありました(参照記事)。ブログ記事中に、当該運営会社のCEOの顔写真が使用されていることが著作権侵害にあたるという申し出によるもののようです。
日本国内の事業者ですとプロバイダー責任制限法の範疇になりますが、今回はGoogleとTwitterが対象なので米国のDMCA(米デジタルミレニアム著作権法)に基づくNotice&Takedownの手続きが行なわれたことになります。著作権や商標権等の権利侵害が疑われるコンテンツがあったことが権利者から通知された場合に、アクセス提供事業者はそれを速やかに削除しなければならないという規定です。
確かに、写真の無断利用は形式的には著作権侵害になる可能性があります(引用または報道目的と解釈できる余地がないわけではないですが)。しかし、法律的に問題ないからと言って道義的な問題は残ります。ネット上では、自社に都合の悪い情報を遮断するために著作権を方便として使ったのだろうという意見が多く聞かれます(参考記事)。
容易に想像できるように、このようなDMCA濫用(を疑われる)パターンは今までも数多くありました。一般論として、米国は、著作権法や他の法律による言論の自由の阻害について、日本よりも強く反応するように思われます。
たとえば、デジタル社会の言論の自由保護を目指す非営利団体EFF(Electronic Fronteer Foundation)は「DMCA濫用:恥の殿堂」(Takedown Hall of Shame)なるWebページを作って、自社に都合の悪い情報を隠蔽するために著作権や商標権を濫用した企業の事例を載せています。ワーナーミュージックからユリ・ゲラーまで多くの"恥事例"が紹介されています。
ユリ・ゲラーの件は10年前の事例でかすかに覚えていますが、ユリ・ゲラーが同氏の"超能力"を検証するYouTubeの動画を著作権侵害を主張して削除させたケースです。この件は、EFFが動画のアップ主に代わって訴訟に持ち込み有利な和解を勝ち取っています(参照記事)。単なる広報活動や意見表明だけではなく訴訟までしてしまう点が強力です(訴訟社会の米国と日本を直接比べることはできませんが)。
なお、"恥の殿堂"は誰でもエントリーできるようにはなっていますが、今回の件はちょっとスケールが小さすぎて"殿堂入り"は難しいのではと思います。
今回の件に限った話ではないですが、日本でもEFFのように相当な予算と弁護士リソースを持ち「言論の自由」側に立ってくれる非営利団体があってほしいのですが、なかなか難しいでしょうね。