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臼田あさ美が20年目の連ドラ初主演。実力派への進化に「人によって見られ方が全然違うのがいいのかも」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
BSテレ東提供

臼田あさ美が会社帰りや仕事の合間に釣りを楽しむ主人公を演じるドラマ『ちょい釣りダンディ』。女優デビュー20年目にして連ドラ初主演。モデル出身で当初は美麗さが目を引きつつ、気づけば実力派と呼ばれる存在に。だが、本人は「今も反省の毎日」とのことで、至って謙虚な姿勢を見せる。深夜にのんびり楽しめる今作のクランクアップ後に聞いた。

釣りをして海を眺めるのはぜいたくな時間です

――釣りは初心者だったそうですが、『ちょい釣りダンディ』の撮影を通じて、見方が変わったところはありますか?

臼田 最初の頃は作業に追われるというか、竿を組み立てて糸を通したり、エサを付けたり、仕掛けを考えることで頭がいっぱいでした。それが気がつくと「投げ釣り禁止の場所で人通りがあるから下から投げよう」とか、わかってきました。手元のことに気を取られていたのが、水面を見られるようになって「あの辺の潮の流れだと魚がいそう」とか、鳥がたくさん来ると「魚が集まる時間なのかな」とか、視点が変わってきたんです。ちょっと余裕が出て、釣りを楽しむ感覚になっていました。

――毎回、冒頭のナレーションにある「人生を豊かにしてくれる」「少しだけ子どもに戻ることを許される」も、体感できました?

臼田 単純に、釣れたら嬉しいんです(笑)。「やったー!」みたいな気持ちは子どもも大人も変わらないと、すごく感じました。誰かが横で何か釣っていれば「私も釣るぞ!」となりますし、現場で指導してくださるプロの方たちも、「何が釣れたの?」って子どもみたいに駆け寄ってきたり。そこはみんな一緒で、ワクワクするのを共有できました。

――人生も豊かになりそうですか?

臼田 実際に釣りを趣味にしたら、すごくぜいたくなことだなと、演じながら思いました。撮影優先で自由に釣っていたわけではありませんけど、釣りをしていると、ただ海を眺めている時間もあるんです。絶対に魚を釣らないといけないわけでなくて、何でもない時間も嬉しくて。

――臼田さんもK-POPとか多趣味ではあるんですよね?

臼田 そうですね。時間があったら映画を観に行ったり、やりたいことは本当にたくさんあります。

――昔から特技に挙げているけん玉は、最近でもやっているんですか?

臼田 今はなかなか機会がありませんけど、この前たまたまお店にけん玉が置いてあって、やってみたら全然変わらずできました(笑)。

初めてドラマに出たときと変わらない不安があります

――『ちょい釣りダンディ』は臼田さんの連ドラ初主演作ですが、映画で主演されたときと感覚は違いますか?

臼田 全然違います。映画の場合、主役と同じくらい現場にずっといる方もいますけど、今回は各話ごとにゲストで来てくださる方がいて、1日か2日でサヨナラしないといけない。その中で自分は最初から最後までいるというところで、2時間の映画と12話のドラマではだいぶ違いました。

――20年のキャリアで培ったものの見せどころではありました?

臼田 そんなこと、全然思いません(笑)。脚本家の方が何人かいらっしゃって、監督も3人いて、各話ごとの色が強かったりするんですね。それぞれの回の面白いポイントがあったほうが喜んでいただけると思う一方、回によって演じる檀凪子が別人みたいに見えてもいけない。そういう葛藤はありました。そこも映画で1人の役をまっとうするのとは、別の意識でしたね。

――1話完結スタイルの連ドラならではですね。

臼田 毎回、自分1人の価値観でやっても面白くないので。共演者の方に振り回される回があってもいいし、監督の演出にとことん乗ってもいい。やりようがいくらでもある分、自分がどれだけ対応できていたのか。クランクアップした今も不安は残っています。

――キャリアを重ねても、そういう不安はあるものですか?

臼田 それなりに長く続けてきましたけど、ずっと現場にいると、今まで見えなかったことが見えたり、感じなかったことを感じたりします。初めてドラマに出たときと、全然変わらない不安があります。

BSテレ東提供
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熱い想いというより、たまに衝動に駆られました

――臼田さんについて、『ちょい釣りダンディ』のプロデューサーさんや原作の阿鬼乱太先生のコメントでも、“実力派”や“演技派”という言葉が使われていました。失礼ながら最初からそう呼ばれていたわけでなく、美しいルックスが注目された時期もあったかと思いますが、努力を重ねて今に至った感じですか?

臼田 お芝居も見た目も評価は自分ですることではないので、何を言われても気にしないでやってきました。「こう見られたい」というものがあったわけでもなくて。だから、長くやってきて身に付いたこともあれば、今でも全然上達してないと思うところもあります。お芝居は1人でするものではなくて、監督や周りの方のおかげで良く見えたりもしますよね。自分は目の前の与えられた役を、そのときにできる精いっぱいでやるのみ。それでここまできた感じです。

――『色即ぜねれいしょん』のとき、田口トモロヲ監督に出演を直訴する手紙を送ったとか、『南瓜とマヨネーズ』の撮影が中断していたとき、動かそうと関係者に当たったというエピソードを聞きますが、そういう熱さは持っていたんですよね?

臼田 お芝居をしている自分が好きとか、ずっと続けたいとか、熱い想いはあまりない気がしていたんですけど、たまに衝動に駆られることがあるんです。『色即ぜねれいしょん』のときは、それまでのドラマや映画で「自分の演技は見てられない」と思っていたにもかかわらず、みうらじゅんさんの原作が大好きだったので。トモロヲさんが撮った映画も好きで、この組み合わせで撮るなら、どんな役でもいいから出たい気持ちになって、衝動的に手紙を書きました。『南瓜とマヨネーズ』のときも、「何とかしてやる!」みたいな熱があったというより、諦め切れなかったんですよね。それで急に思い立って、行動した感じがします。

全力を出せなかった後悔だけはしないように

――5年前に『愚行録』でヨコハマ映画祭の助演女優賞を獲ったのは、自信になったのでは?

臼田 いやもう、あの映画は吐きそうになるくらい、ずっと緊張して撮影していました。皆さんがすごいエネルギーを持ってぶつかった作品でしたけど、表立って一緒にお芝居をするのでなく、それぞれの語りでストーリーが進んでいったんですね。自分に見えないところで、皆さんがどんなお芝居をしているのか、強いプレッシャーを感じながら演じていて。賞とは無縁と思って生きてきたので、ありがたさはありましたけど、感謝を向けるのは監督や共演者。その方たちが、私を導いてくれたとしか思っていません。

――女優人生で悔しい想いをしたこともありましたか?

臼田 そんな毎日です(笑)。「私はよくやった」と思う日は1日もありません。

――向上心の裏返しなんでしょうね。

臼田 どうですかね。周りの人たちがすごすぎて、「私ももっとできたんじゃないか」と、日々反省しています。

――演技に関して、ポリシーにしているようなことはありますか?

臼田 反省や後悔はしても、その瞬間にできることはすべてやり切る。全力を出せなかったという後悔だけはしない。そんな想いは年齢を重ねるにつれて、さらに強くなりました。

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役者として食らうものがありました(笑)

――最初に出ましたが、映画やドラマは自分でもよく観るんですか?

臼田 はい。連続ドラマはリアルタイムより、気になったのをまとめて観たり、話題になっていると聞いて後から追い掛けたりしています。映画は観たい作品をフラッと観に行ったり、空いた時間に「今やっているのは?」と調べたりします。サブスクもいろいろあるので、時間があればよく観ています。

――人生ベストの映画というと?

臼田 めちゃめちゃいっぱいあります。最近だと、韓国映画の『三姉妹』です。作品も素晴らしいんですけど、出てくる役者さんみんなに「この世界でちゃんと生きている」と感じたんです。演じるってこういうことだなと、言葉を選ばずに言えば、役者として食らうものがありました(笑)。

――好きな映画の傾向はありますか?

臼田 全然ないです。ただ、ティーンのキラキラした映画はあまり観なくなりました。生活を感じるような作品が好きかもしれません。

――『ちょい釣りダンディ』みたいな、ゆったりテイストの作品は?

臼田 派手ではないけど、ずっと観ていられるような作品もいいですね。『ちょい釣りダンディ』もそんなふうに観てもらえたらと思います。

BSテレ東提供
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泣いたり怒ったりするだけがお芝居ではないので

――『ちょい釣りダンディ』で演技的に難しかったシーンはありましたか?

臼田 すごく怒ったり、感情的になるシーンはなく、話は進んでいきました。ただ、「檀凪子というキャラクターはこれでいいのか?」ということは、何度も何度も考えました。エピソードを伝わりやすくするにはどうするか。こうしたほうが奥行きが出るんじゃないか。そういう迷いは本当にたくさんあって。

――楽に観られるドラマですが、演じる側は楽にできたわけではないんですね。

臼田 楽にやったらいけない、というのはありました。泣いたり怒ったりするだけがお芝居ではなくて。何でもないことを演じるのも、同じくらいていねいにやろうと思っていました。

――「目の前の役を全力で」とのお話でしたが、連ドラ初主演に至るまで20年間、女優を続けてきた臼田さんの強みだと思うことはありますか?

臼田 たぶん私は、人によって印象が様々だと思うんです。きれいな雑誌に出させていただいて、その印象を持たれている方もいれば、きれいとはほど遠い暗い役もやらせていただくこともあって(笑)。薄幸な女性も、強いキャリアウーマンも、天然みたいな役も演じさせてもらいました。キャスティングしていただくとき、「この役で私が思い浮かんだんだ」と驚くときもあります。今回も「私にダンディズムがあるのかな?」みたいな(笑)。自分ではイメージに全然当てはまらないような役でも、声を掛けていただけるのが、私の面白いところかなと思います。これからも「私はこんな人です」とは言わず、勝手に「こういう人っぽい?」と思われて呼んでもらえたらいいなと。

(C)阿鬼乱太(秋田書店)2019/「ちょい釣りダンディ」製作委員会2022
(C)阿鬼乱太(秋田書店)2019/「ちょい釣りダンディ」製作委員会2022

柔軟性を持って反省はいつまでもしていきます

――現在4歳のお子さんがいらっしゃいますが、母親になって、演技にも新しい視点ができたりはしました?

臼田 前からお母さん役は演じていて、母は尊いと思っていましたけど、実際に自分が親になると、世界のすべての子どもを幸せにしたい気持ちになりました(笑)。子どもに冷たい母親役はやりにくいなと。でも、母親も1人の人間。大変さや世知辛さにぶつかることもあるので、両面がわかりすぎる感じがします。

――まだ子育てに手が掛かる時期かと思いますが、今クールは『ちょい釣りダンディ』に加えて、『オクトー』にも精神科医の役で出演。どう時間のやり繰りをされているのでしょう?

臼田 釣りの撮影をしながら、『オクトー』の現場に行って、医療の専門用語を話したりしていると、頭の中がパニックになります(笑)。「いただいた役を精いっぱいやる」なんて言っているくせに、勉強不足ではないかと不安に駆られたり、もっと時間があれば役とさらに向き合えたかもと、反省もしました。でも、この状況も踏まえつつ、お受けしたことなので。気合いでやっていくのみ! という感じです(笑)。

――今回の主演から、さらに飛躍も目指していきますか?

臼田 お芝居って、勉強してうまくなるものではないかもしれませんけど、大事なのは柔軟性を持つことだと思います。「私のやり方はこう」とかたくなにならず、いつまでも反省しながらやっていくのが、もしかしたら私らしいのかも。あまり調子に乗らず、引き続き謙虚に頑張っていきます。

(C)阿鬼乱太(秋田書店)2019/「ちょい釣りダンディ」製作委員会2022
(C)阿鬼乱太(秋田書店)2019/「ちょい釣りダンディ」製作委員会2022

Profile

臼田あさ美(うすだ・あさみ)

1984年10月17日生まれ、千葉県出身。

2003年に女優デビュー。主な出演作はドラマ『アンサング・シンデレラ』、『ハコヅメ~たたかう!交番女子』、映画『南瓜とマヨネーズ』、『架空OL日記』、『私をくいとめて』、『ムーンライト・シャドウ』など。ドラマ『ちょい釣りダンディ』(BSテレ東)、『オクトー』(日本テレビ系)に出演中。

『ちょい釣りダンディ』

BSテレ東/月曜24:00~(ひかりTV&ひかりTV「釣り楽ライフ」にて1週間先行配信)

出演/臼田あさ美、上地雄輔、太田莉菜ほか

公式HP

(C)阿鬼乱太(秋田書店)2019/「ちょい釣りダンディ」製作委員会2022
(C)阿鬼乱太(秋田書店)2019/「ちょい釣りダンディ」製作委員会2022

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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