B1川崎の「2メートルトリオ」を機能させる スペイン代表アギラール
外国籍選手の登録が増えたBリーグ
2020−21シーズンのBリーグは新型コロナウィルスの影響を受けつつ、10月2日(金)の開幕に漕ぎつけた。
選手とコーチの来日が遅れ、しかも入国から2週間の「隔離」も必要になっていた。ただし開幕から2週間が経ち、各チームはようやくフルメンバーが揃いつつある。
今季のBリーグは外国籍選手の登録制度が変わった。同時起用2名という制限に変わりはないが、試合へのエントリーが3名に拡大された。バスケットボールは選手の入れ替えが自由で、40分の「フル出場」は原則ない種目。80分を3名でシェアすることで、プレーの強度やテンポは確実に上がる。
「アジア特別枠」も導入された。中国、韓国、フィリピン、チャイニーズタイペイ(台湾)、インドネシアの5ヶ国(地域)の選手は、通常の外国籍枠と別にプラス1名の登録が認められる。ただし後述の帰化選手枠とアジア特別枠は併用が認められない。
外国出身3選手の同時起用も
Bリーグのレベルを上げているのが「帰化選手」だ。近年はニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)、ライアン・ロシター(宇都宮ブレックス)、ギャビン・エドワーズ(千葉ジェッツ)とB1を代表する実力者が立て続けに日本国籍を取得している。
なお国際バスケットボール連盟(FIBA)は各国の代表チームについて、「16歳以降に国籍を変えた選手(=帰化選手)」の登録を1名に制限している。Bリーグの各チームも帰化選手の登録は1名だ。
とはいえアジア枠、帰化選手枠の活用でコート上に3名の「外国出身選手」を立たせられる。2020−21シーズンのB1は帰化選手の登録が10名で、アジア特別枠は2名。半分以上のチームに「オン・ザ・コート3」を活用する余地がある。
続く試行錯誤
もっともどれだけサイズが大きくても、能力が高くても、5名で機能するかどうかはまったく別の問題だ。開幕からB1川崎、B2群馬クレインサンダーズと「オン・ザ・コート3」の試合を取材したが、連携に苦しんでいる印象だった。
特に開幕戦でオフェンスに重さが見られた川崎は、第2節の大阪エヴェッサ戦で敢えて外国籍枠を余してプレー。長谷川技、熊谷尚也といった日本人選手のプレータイムを増やし、チームのバランスを取り戻した。
一方で川崎の佐藤賢次ヘッドコーチ(HC)は、あまりメンバーを固定しない指揮官。相手の特徴を見つつ、開幕から色んな組み合わせを「試して」いる。10月16日(金)の広島ドラゴンフライズ戦は、逆に「ビッグラインアップ」にこだわって試合を進めた。
試合後の佐藤HCはこう述べていた。
「今日はチームで『ビッグラインアップをメインにして勝ち抜こう』という目標を掲げて戦いました。チームを成長させていく過程として、思い切ってトライした。先週までは迷い、チグハグなところがあったけれど、方向性を一つにしたかった。それを今後の成長の糧にしていきたかった。それがうまく機能したので、チーム全体としてもまたひとつステップアップできる。ビッグラインアップは、強力なオプションとしてこれからも育てていこうと思う」
バランスが良い川崎の4選手
川崎は日本代表のニック・ファジーカスが、チームを長年支える「大黒柱」だ。そこに昨季はジョーダン・ヒース、マティアス・カルファニが加入し、カルファニの負傷に伴ってシーズン終盤からはパブロ・アギラールが加わった。
ファジーカス、ヒースは「センター(5番)/パワーフォワード(4番)」でプレーするタイプ。ファジーカスは機動力、跳躍力こそ凡庸だが、シュートの上手さと多彩さ、リバウンドの位置取りや反応が傑出している。ヒースは逆に「跳べる」タイプで、守備力が高い。
カルファニは204センチ・99キロ、アギラールは203センチ・99キロと細身で、どちらも身体のぶつけ合いでアドバンテージを発揮するタイプではない。一方で二人はスキルが高く、周りがよく見えて、ドリブルを突いて仕掛けるプレーもできる。
さらに4人は揃って3ポイントシュートの使い手で、「外」に回ってもオフェンス時の威力が消えない。少なくとも理論上は、3人同時に起用をしても機能するはずだ。
アギラールが攻守のキーマンに
16日の広島戦は今季5試合目にして「ビッグラインアップ」がハマった。アギラールはこう述べていた。
「僕とマティアス(カルファニ)は3番(スモールフォワード)もできるし、色んな戦略を立てやすい。特にディフェンス面ではこのラインアップが重要になる」
広島戦のアギラールは23分59秒の出場で16得点を挙げ、リバウンドはチーム最多の「15」だった。チームメイトが広島の外国籍選手と競り合い、飛ばせない動きをする中で、3番ポジションの彼がリバウンドを楽に取れていた。
広島の3ポイントシュート成功率を20%台前半に抑えた守備も、ビッグマンが相手のシューターにプレッシャーをしっかりかけていたからだろう。2メートルトリオがコートにいれば、一人が外に出ても残る二人はリバウンドに備えられる。
オフェンスでもアギラールが大きな手がかりを作った。16日の広島戦で彼が対峙していた相手は朝山正悟、アイザイア・マーフィーといったワンサイズ小柄な選手。川崎はそのミスマッチを積極的に使い、先手を打った。
ビッグラインアップが機能した理由は?
佐藤HCはこう説明する。
「オフェンスが始まったときには、パブロ(アギラール)のところにサイズのアドバンテージがあって、それを狙います。でもアドバンテージは生き物のように動く。パブロがいることで生まれたアドバンテージを、他の4人が利用する。それを使って仕留める準備をしようとアプローチした」
アギラールは派手な技巧やフィジカルで圧倒するタイプではないが、ボールをスムーズに動かせるクレバーな選手。加えて周りの選手の動きも合ってきているのだろう。16日は5アシストを決めた一方で、ターンオーバーがゼロだった。
バスケ大国といえば当然まずアメリカだが、ヨーロッパには違う文化がある。スペインは2019年のワールドカップ中国大会を制した強国で、彼はそこで腕を磨いてきた。31歳の彼は怪我もありW杯本大会には出ていなかったが、スペイン代表の経歴を持ち、2015年のユーロバスケット(ヨーロッパ選手権)の優勝メンバーだ。今は人生で初めて「ヨーロッパ外」のキャリアを積んでいる。
相手、展開に応じて強みを出す
アギラールがオールラウンダーと知りつつ、敢えて「一番の強み」を尋ねてみた。彼は少し困った顔をした後、こう答えてくれた。
「強みと言えるかどうかは分からないけれど、自分にはヨーロッパの経験がある。それを生かしてこのリーグにしっかりアジャストしたいし、経験があるからこそこのリーグに早く馴染めると考えている。自分はインサイドのローポストから、様々な位置でチームのためのアドバンテージを作れる。そこからディフェンス、スティールをできる。外からの3ポイントシュートも打てるし、必要ならばリバウンドも取れる。だけど求められるものは毎試合変わってくる。違うシチュエーションで何を求められて、何をしなければいけないのか。それを遂行するところが自分の強みだと思っている」
ただチームの連携にまだ満足してない様子だった。
「練習もしっかりやっているけれど、試合で完成度を高めていくことが大事。自分としてはビッグラインアップが未完成だと思っている。これから他の選手とも連携を取りながら育てていきたい」
選手同士の連携は数週間で完成するものではないしシーズン中盤、終盤の川崎はもっとスムーズな攻守を見せてくれるだろう。外国出身選手、大型選手が増えた中でどうチームを機能させるのか?そんな取り組みを見守ることも、2020−21シーズンの楽しみの一つだ。