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悪質なマルチまがい商法は、こうして生まれた!今も、うごめく勧誘、生々しい裏の実態を暴く

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「年収2億円ほどを稼いでいる人もいました」

過去に、ネットワークビジネスの勧誘グループでリーダーとして活動し、組織の裏の事情を知る男性に話を聞きました。しかも、法律の規制を受けないように画策して上だけが荒稼ぎできる、恐ろしいまでの悪質な組織運営の実態が浮かび上がってきますーー。

正式名なしの勧誘活動で、悪評を回避する

10年以上前は、この組織は美容・化粧品を販売する大手のマルチ商法の一グループに過ぎませんでした。会員らに毎月15万円の商品購入の過度なノルマを課すなど、儲けるためならどんな手段もいとわない形で販売網を広げていき、6000~7000人ものグループになっていきます。しかし問題行動の多さから、大元のマルチ商法から改善通告を受け、組織を抜けざるをえない状況に追い込まれました。

その後、このグループは独自のシステムに進化します。

ここではあえて「組織」という言い方にしました。ここにも理由があります。

元リーダーの一人である山田氏(仮名)によると「この組織には、正式な名称がない」といいます。

「これまでに組織の名称を4回も変えているでしょうか。現在は『T』などといって活動しているようですね」

組織名をその都度変えながら、活動している理由について「ネット上に悪評が出回ると、別な名前に変えていくのです」と答えます。

これは悪質業者が行政処分をうけると、世間からの目をそらせるために、別会社に名前を変えるのと同じ構図だといってよいでしょう。

マルチ商法を規制する法律に、特定商取引法(特商法)があります。連鎖販売取引では、勧誘に先立って消費者に「業者の名称や統括者の氏名を伝えなければならない」や、勧誘目的を告げない誘引への禁止事項が定められています。トラブルの多い商法ゆえに、こうした法律があるわけです。

悪質な業者のなかには、法律を遵守しないだけでなく、実質的にはマルチ商法の形を取りながらも、特商法における連鎖販売取引にあたらないような仕組みで勧誘をするところもあります。それゆえ「マルチまがい商法」という表現をせざるをえないのが実情です。

知らぬ間に、はめられていた!街コン、合コンに潜む、ネットワークビジネスの誘いのワナ!

街コン、合コンなどのイベントを通じて何度も会い、誘った相手の心に自らの組織の思想を植え付けて、拒否できない状況下で誘う極めて悪質な手口を紹介しました。

しかしこの組織の悪質さはそれだけではありません。連鎖販売取引の形態にあたらないような、マルチまがいの仕組みにすることで、今も警察、行政からの手を逃れて、勧誘をし続けています。

組織の実質的代表も裏に隠れて指示をする巧妙さ

組織のリーダーらの上に君臨するという代表者A氏は、陰に隠れて指示をしていると話します。

「リーダー会議が月に1回ありますが、A氏は出てきません。しかし議事録や音声などを通じて、彼が裏ですべての活動を仕切っていることは、誰もが知っていることです」

組織運営の巧妙さがここからもよくわかります。

法律では、勧誘に先立ち団体名や統括者などを告げなければなりません。しかし、正式な名称がなく、実質的な統括者が表に出てこないのでは、勧誘者らは誘った相手にそれを伝えられません。その状況を作りながら勧誘をさせます。見えてくるのは、特商法を逃れて活動しようとする思惑です。

法律から逃れるためのマーケティングプランを考えるように指示される

手段を選ばない悪質な運営実態を指摘されて、大手のマルチ商法から抜ける時、リーダーらが上層部に呼ばれて「今後の販売組織としてのマーケッティングプランを立てるようにいわれた」と山田氏はいいます。

各方面に取材を進めると、この時、上からの指示は2つあったことがわかりました。

一つ目は「『役所からネットワークビジネス(マルチ商法)といわれない販売プランを考える』で、二つ目は『現在、1億円以上の収入がある人の金額が絶対に下がらない』ことでした。

つまり役所に目をつけられても摘発されないようにして、上の人だけが儲けられる仕組みにするということです。

こうした指示を受けてリーダーらは提案をします。それらの意見も参考にしたのでしょう。最終的には上からは、店舗型でのマーケティングプランが指示されます。

今も行われている、マルチまがい商法のシステムとは?

山田氏のような組織のリーダーはそれぞれ自然食品などを販売する店舗を持ち、そのオーナーとして、これまでに勧誘した数百人ほどの会員を下につけて管理します。

通常のマルチ商法では、売り上げに合わせた「%(パーセンテージ)」のリターンが紹介者の懐に入りますが、この組織ではこれをなくします。

「A氏はサプリメントや化粧品などの自社の工場を作りました。ここがメーカーとなり、リーダーらの店舗に商品を卸します。ここには『仕切り』があり、グループの実績に合わせて、上層部が商品の定価の何%(30%~70%)で各店舗に商品を卸すのかを決めるのです」(山田氏)

実績の出ているリーダーのお店は定価の30%で商品を仕入れられますが、良くないお店は70%で仕入れさせられますので、大きな実績を出しているところがより儲かるようになっています。

各店舗のリーダーより下の会員への配分はどうなっているのでしょうか?

「業務委託費として、お金を払う形でした」

表面上は、お店を運営するリーダーの裁量に任される形だそうですが、上層部からは「〇人以上の会員には売り上げの10%を払う」などの指示があり、実質的にはトップダウンでの組織運営がなされていました。

また、会員には一定の縛りを設けています。それが「将来経営者になるための投資」という位置づけで、メーカーが販売する15万円分の商品を、毎月、ネット通販で注文しなければなりません。その商品が各リーダーの店舗に送られるわけです。それを会員らが受け取れるのは、特定の1日だけで、しかも支払いは現金のみです。

これについて、山田氏は「お金の流れを把握されないためではないか」と推測します。

組織を抜けた理由とは?

なぜ、山田氏はリーダーの地位を捨てて、この組織を抜け出たのでしょうか?

「自分の下にいるメンバーらが、毎月15万円の苦しい生活を強いられている事実に耐えきれなくなったからです」

購入ノルマのために、会員らは身を粉にして働くわけです。そのお金を上が吸い上げて、利を得ます。会員らはその購入資金を作るために手一杯で、貯金などする余裕もありません。

「それにもかかわらず、組織は会員らを管理しやすいように、リーダーらの近くに住まわせようとします。引っ越し費用がなければ、同じ部屋に何名もの人を住まわせることもありました」

他の被害者からも話を聞いていますが、給料のほとんどをこの組織に払うために、お金に困って消費者金融に手を出す方もいたようです。

信じるもののために、給料のほとんどをつぎ込み、借金を重ねる人もいる。さらにリーダーの近くに住まわせ、ルームシェアもさせて管理しやすくする。まさに思想が統一されたカルト集団が行って、度々問題になっている行動に重なってみえてきます。

「かといって、勝手に15万円の購入ノルマを下げしてしまうと、上からは商品を卸してもらえなくなります。さらに全体の集まりにも参加できなくなるなど、様々な威圧をかけられるので、組織を出ていかざるを得なくなります」

辞めていくリーダーのなかには、下にいる会員らに組織を抜けるように勧める人もいます。結果、全員が抜けることもありますが、こうなると、さらにひどい仕打ちが待ち受けているといいます。

「組織に対して敵意をもって抜けると、その人のSNSなどに、誹謗中傷や事実かどうかもわからない悪質な書き込みが行われて、その結果、仕事を辞めざるを得なくなり、社会的信用も失ってしまうこともあります」

組織的なネット攻撃が一方的になされる。

こうしたことが事実とすれば、決して許されることではありません。組織を辞めるか否かは自由です。それなのに「仕返しがあるかもしれない」という恐怖で人の心を支配して、組織から抜けづらい状況にさせているとすれば、これは由々しき事態だといえます。

「本当に、たくさんの人たちの人生を台無しにしてしまったという思いでいっぱいです」

最後に、辛い胸の内を話されます。

組織の活動を抜けて、被害の実態の声をあげる方がいる一方で、こうした人たちへの組織的なネット攻撃もあるため、声を上げられずに泣き寝入りする人も多くいます。こうした状況のなかで、勇気を持って過去の罪と向き合い、赤裸々に組織の裏の実態を告白してくれた山田氏には、心からの謝意を申し上げたいと思います。

4月から18歳に成人年齢も引き下げられます。悪徳業者の勧誘がはびこることが懸念されているなかで、「将来、経営者になる」という夢をみさせてのマルチまがい商法への誘いもあります。

こうした組織に関わってしまうと、金銭的被害を受けるだけでなく、自分が勧誘する加害者の側にまわってしまい、お話を伺った男性のように心に大きな傷を残すこともあります。

大きなお金を払う決断をする前には、必ず立ち止まってください。それは、大切な将来と自分自身の心を守ることにもつながります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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