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名門モリワキが最高峰1000ccクラスへの復帰を発表!2017年、鈴鹿8耐参戦に向けて発進。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2年連続でJ-GP2王者に輝いた高橋裕紀。マシンはモリワキMD600。

高橋裕紀を擁し、全日本JSB1000へ参戦!

2016年、2輪レース界で最初のビッグニュースが飛び込んできた。鈴鹿市が拠点の名門チーム&コンストラクター(バイク製造メーカー)の「モリワキレーシング」が今シーズン、「全日本ロードレース選手権」の最高峰クラスである「JSB1000」クラス(排気量1000cc)へのフル参戦を発表した。

ライダーは「モリワキ」のオリジナルバイク「MD600」に乗り、同選手権の「J-GP2」クラス(排気量600cc/改造車)で2年連続王者に輝いた高橋裕紀(たかはし・ゆうき)を起用する。ロードレース世界選手権(世界GP)を9年間戦い、国内の全日本ロードレースに復帰してからは向かうところ敵なしの状態を作った経験豊富なライダーが1000ccクラスでどんな活躍を見せるか楽しみだ。マシンは市販車の「ホンダCBR1000RR」をベースに、モリワキ独自のマシン開発を行う「ホンダCBR1000RR モリワキ改」となっている。

また、発表によると、今年の1000ccクラスへの参戦は来年2017年の「鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」参戦に向けた準備の意味合いがあるようで、全日本JSB1000参戦を通じ、チーム体制の強化と技術開発を進めるとのこと。

高橋裕紀(右)はJSB1000に参戦する。【写真:モリワキレーシング】
高橋裕紀(右)はJSB1000に参戦する。【写真:モリワキレーシング】

鈴鹿8耐とモリワキ

今年で39回目の大会をむかえる「鈴鹿8耐」の歴史において、「モリワキ」は欠かせない存在だ。「モリワキレーシング」の母体である「株式会社モリワキエンジニアリング」は、名門チーム「ヨシムラ」の吉村秀雄(ポップ吉村)の弟子、森脇護(もりわき・まもる)が1973年に独立して創業した企業。バイクレースの世界では「ヨシムラ」と「モリワキ」の2チームは名門中の名門、2大ブランドといえる。

「モリワキ」が鈴鹿8耐に初参戦したのは1978年の第1回大会のこと。第1回大会は「ヨシムラ」がスズキGS1000で優勝していることはよく知られているが、「モリワキ」はカワサキZ1000で3位表彰台を獲得している。その後、「ヨシムラ」はエンジンのチューニングを、「モリワキ」は車体のフレーム製造を得意分野にして、それぞれのスタイルで鈴鹿8耐への参戦を続けていった。

モリワキモンスター
モリワキモンスター

「モリワキ」を一躍有名な存在にしたのがオリジナルバイク「モリワキモンスター」での8耐参戦だ。当時の鈴鹿8耐は既存のバイクメーカーが作った市販のオートバイだけでなく、独自製作のバイクで参戦することができた。

天才的な車体フレーム製作のアイディアを持った森脇護は1981年、カワサキZ1000のエンジンに軽量なアルミフレームの車体を持った独自のバイク「モリワキモンスター」を製作して鈴鹿8耐に参戦。ライダーにはオーストラリア遠征で見つけてきた無名のライダー、ワイン・ガードナーを起用し、圧倒的な速さでポールポジションを獲得した。ガードナーはモリワキと共に築いた強烈なインパクトをキッケケにホンダのワークスライダーに昇格して、世界チャンピオンに輝いている。

モリワキモンスターのアルミフレーム
モリワキモンスターのアルミフレーム

鈴鹿8耐が排気量750cc(TT-F1規定)になってからも、「モリワキ」はオリジナルのアルミフレームのマシンで鈴鹿8耐への参戦を続けたが、バイクブーム、8耐ブームの到来で、メーカーが多額の資金を投じてバイクを開発し、ワークスチームを参戦させるようになると「モリワキ」単体では太刀打ちできない時代がやってくる。そして、2004年、「モリワキ」はフレームビルダー(車体製造メーカー)としてロードレース世界選手権の最高峰クラス「MotoGP」にオリジナルバイク「MD211V」で参戦するために、一旦、鈴鹿8耐から姿を消した。

モリワキ改が意味するものは?

「モリワキ」は歴史を振り返って分かる通り、独自の技術・ノウハウで作ったオリジナルマシンで勝利を掴むことを目標に掲げてレース活動を行ってきた。2000年代の「MotoGP」クラスへの参戦、「Moto2」クラスでの世界チャンピオン獲得は稀代のフレームビルダー「モリワキ」の長い挑戦の集大成ともいえる。

森脇護とモリワキモンスター(CNS制作・レーシングスピリットより)
森脇護とモリワキモンスター(CNS制作・レーシングスピリットより)

そんな「モリワキ」は現在も自社製のマシン「MD600」で全日本ロードレースJ-GP2を戦っているが、1000ccクラス「JSB1000」への参戦は意外といえば意外である。

というのも現在の「JSB1000」はメーカーが作った市販車をベースにした車両で戦うレースであり、改造範囲は狭く、オリジナルフレームなどもちろん採用できない。鈴鹿8耐にはかつて「XX-Formula(ダブルエックス・フォーミュラ)」という独自の大幅な改造を施したバイクで参戦できるクラスがあった。このクラスは世界耐久選手権の規定にはない鈴鹿サーキット独自の規定で、「モリワキ」のような独自のフレームや独自の改造を施したマシンで挑戦するチームのために作られたクラスだったが現在は存在しない。そんな中の8耐参戦も視野に入れた参戦発表には少し驚いた。

「モリワキ」は自社チーム「モリワキレーシング」として全日本ロードレースJ-GP2で2年連続のチャンピオンを獲得したものの、耐久レースの鈴鹿8耐となると規模が全く違うレベルになる。普段の「モリワキ」はマフラーなどオートバイ用の部品やアルミ製品などを製造する企業だが、「モリワキレーシング」としての活動は自社の従業員で行う全社のレース活動となる。従業員チームスタッフの訓練はもちろん、長く8耐参戦を休止していた分、止まっていたノウハウ蓄積を再構築しなければならない。8耐で重要なタイヤ交換で使用する装置などはチーム独自のノウハウの塊であり、復帰参戦はリハビリ以上の努力を要する。いくら名門チームといえども大変な作業だ。

15年最終戦ではモリワキMD600が1-2の好成績【写真:モリワキレーシング】
15年最終戦ではモリワキMD600が1-2の好成績【写真:モリワキレーシング】

そして、改造範囲が狭い「JSB1000」において、「ホンダCBR1000RR モリワキ改」というマシン名で参戦することも大いに気になる。近い将来、改造範囲を広くとった「XX-Formula」のようなクラスが再び誕生するのか、それとも、いずれ新型になるであろう「ホンダCBR1000RR」で鈴鹿8耐に勝利するための準備か。独自のポリシーで歴史を築き上げてきた「モリワキ」が単なる参戦で終わるはずがない。「モリワキ改」が意味するものは何か?2016年新春、世界チャンピオンのフレームビルダーが静かに次のアクションを起こした。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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