Yahoo!ニュース

元日本代表FW大津祐樹氏が120億円企業の取締役に就任 「アスリートの未来につなげたい」思いの原点

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
株式会社コミットの取締役に就任した元日本代表FW大津祐樹氏(撮影:矢内由美子)

2023年限りで現役を引退したサッカー元日本代表FW大津祐樹氏が、このほど株式会社コミットの取締役に就任した。同社はブランド時計の中古品・新品販売などを行う「COMMIT GINZA」を東京都中央区銀座に構える年商約120億円の時計専門店。16年間のプロサッカー選手生活にピリオドを打ち、ビジネス界で新たなスタートを切った大津氏を取材した。

■アスリートの可能性を高く評価する株式会社コミット

株式会社コミット取締役就任のきっかけは、大津氏が代表取締役社長を務める株式会社ASSISTが、コロナ禍の2020年に立ち上げた大学サッカー部員の就職支援プロジェクト「FootballAssist(フットボールアシスト)」だった。(※現在はサッカー部員に限らず全大学生の支援などに拡大)

コミット社は元々、体育会系出身者が多いことでアスリートに対して大きな可能性を感じており、フットボールアシストとスポンサー契約を締結していた。そのやりとりの中から大津氏の実行力や行動力を高く評価し、引退後に取締役就任を正式オファー。大津氏はこの1月から経営陣に加わった。

大津氏がコミット社の取締役就任を新たな挑戦の場として選んだ理由のひとつは、人を大事にする姿勢だ。

「僕自身、時計が好きで、いろいろな時計店に行ったことがありますが、『コミット銀座』の顧客に対する姿勢は圧倒的に素晴らしく、衝撃的でした。他の時計店ではモノを売るだけに感じたのですが、その中で人を大切にする姿にグッとくるものがあったんです。僕がビジネスを成功させる上で絶対に必要だと思っているのは、誰かのためになるということであり、それはコミット社が一番大切にしていることでもあります」

インタビューに応じる大津氏(撮影:矢内由美子)
インタビューに応じる大津氏(撮影:矢内由美子)

■「ビジネスの世界で結果を出すことでアスリートの不安をなくしていきたい」

120億円企業の取締役に就任するに当たっては、現役時代に感じていたことのひとつである、「アスリートが競技を辞めた後の不安を少しでも解消したい」という思いもあった。

「プロを辞めた僕がビジネスの世界で結果を出すことで、別の分野でも勝負できることを示していけるんじゃないか。ビジネスの世界で活躍する姿を見せることによって、サッカー選手やプロのアスリートたちの心配を少しでもなくしていければいい。そういう意味ですごく大きな挑戦になると思う」と言葉に力を込める。

2013年2月のキリンチャレンジカップ、ラトビア戦で日本代表デビュー
2013年2月のキリンチャレンジカップ、ラトビア戦で日本代表デビュー写真:アフロスポーツ

■成功するためのプロセスを考えて実行する能力がある

現役時代に柏レイソル、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田や欧州クラブで活躍した大津氏は、U-23日本代表としてロンドン五輪で日本のベスト4入りに大きく貢献したほか、日本代表としてもプレーした。一方で、2019年には柏時代やロンドン五輪での盟友である酒井宏樹(浦和レッズ)と組んで株式会社ASSISTを設立。大けがや突発性難聴という困難も乗り越えながら2023年まで現役としてプレーした。

大津氏が16年間のプロ生活から身をもって感じているのは、アスリートには成功するためのプロセスを自分で考え、実行する能力があるということだ。

「サッカーでは勝つという目標に向かって日々トレーニングをします。勝ったら次にまた勝つために考えて行動しますし、もし失敗したとしてもそれに対してどのようにアプローチしていくかをまた考えて取り組んでいきます。また、チームのため、誰かのために行動できる力は、会社のためやお客さまのために行動できる力にも置き換えることができます」と語っている。

欧州から柏レイソルに復帰した後、25、26歳の頃から経済についての関心を深めていった
欧州から柏レイソルに復帰した後、25、26歳の頃から経済についての関心を深めていった写真:アフロスポーツ

■20代半ばから経済の勉強を始めた

大津氏にはスポーツに対する独自の考え方がある。

「どんな人もスポーツをやり始めた時から“プロ生活”が始まってるというのが僕の認識なんです。例えばプロになれなかったならそれは、“制度としてのプロというカテゴリーに進めなかった”だけで、それは挫折でもなんでもありません。スポーツをやってきたことの価値はビジネスでも活かせるはずです」

このように語る大津氏は、欧州から柏に復帰した後の20代半ばから、毎日2時間ほど社会や経済を勉強する時間を取るようになったという。その頃から日本経済新聞を購読し、インターネットサイトや動画サイトにもアンテナを張って世の中の動向を学んできた。「1日に1時間や2時間なら、視野を広げるために学びの時間をつくることはできるはずです」と話す。

横浜F・マリノスでは2019年にリーグ優勝。在籍中の2019年に株式会社ASSISTを設立し、代表取締役社長に就任した
横浜F・マリノスでは2019年にリーグ優勝。在籍中の2019年に株式会社ASSISTを設立し、代表取締役社長に就任した写真:築田純/アフロスポーツ

■「アスリートの未来につなげたい」

昨今の時計市場の拡大で、コミット社は現在、順調に業績を伸ばしているところだ。大津氏はこのように語る。

「引退後のアスリートが成功する道を示すことはすごく大切。将来が大変になってしまうから子どもにスポーツをさせたくないという考えを持ってほしくないですから、ビジネス界で成功していくことでアスリートの未来につながっていければいい」

33歳の新たな挑戦に注目だ。

新たな挑戦に意気込む大津祐樹氏(撮影:矢内由美子)
新たな挑戦に意気込む大津祐樹氏(撮影:矢内由美子)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

矢内由美子の最近の記事