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失恋と北欧の夏至祭をホラーにする挑戦 映画『ミッドサマー』

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
スウェーデン田舎で異教徒の儀式 Photo:Oy Nordisk Film Ab

ホラーといえば、暗いシーンだが?

「北欧という土地は、ホラー映画を撮るには最高の環境」だと私は思っている。税金が高い国なので、製作費が悩みの種ではあるが。

冬が長い北欧では、日本と比べて街灯も少ない。首都でさえも霧が立ち込めて、目の先に何があるのか見えないこともある。自然が多いので、街から森や湖のある場所へと、すぐにアクセスすることも可能。

霧が立ち込め、雪で真っ白、空は真っ暗、人通りが少ない(山の中にいたら、あなたは一人で立っている)、雑音というような音もなく、シーンとしている。寒い。

そういう条件が無料で簡単に揃うので、怖いシーンを撮るロケーション探しは楽そうだ。

だが、アメリカ映画『ミッドサマー』(原題『Midsommar』)では、真逆の環境をうまく利用した。あっぱれ。

冬とは正反対で、夏になると24時を過ぎてもずっと明るいのが、北欧の特徴だ。

ホラー映画といえば、暗いシーンが多いが、本作はずっと明るい場所で、血みどろのシーンが続き、泣き声と悲鳴が鳴り響く。

「うまく作ったものだな」、と思った。現地に住む北欧各国の監督だったら、当たり前すぎる明るい夏をホラーに仕立て上げる発想は、沸きにくいだろう。

なにせ、長くて暗い冬の後にやってくる、とても短い夏は、北欧の人々にとって、お日様の光を浴び、肌を小麦色に焼き、フィヨルドや湖に飛び込む、恵みと幸せの時期なのだから。

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あらすじ

Photo:Oy Nordisk Film Ab
Photo:Oy Nordisk Film Ab

アメリカ人のカップル、ダニーとクリスチャンの関係は終わりの兆しを見せていた。

しかし、メンタルヘルス問題を抱えていたダニーの家族に、大きな悲劇が襲う。絶望の底にいる彼女を今ひとりにするわけにはいかないと、クリスチャンはまだ別れを切り出していなかった。早く、別れてしまえと、あきれる男友達。

クリスチャンは、男友達だけで、スウェーデンの夏至祭を体験しにいこうと計画していた。内緒にしていた計画がばれ、渋々とダニーも連れていくことに。

スウェーデンの田舎に着くと、そこには奇妙な光景が待っていた。どうして、夜になってもずっと明るいのだ? 花飾りを頭につけて、踊っている人々はなんだ? 体験したことのない環境とカルチャーに、若者たちは戸惑う。そこには、女性たちからの誘惑の目線もあった。

平和そうな、夢のような出迎えだったが、悪夢の始まりだということに、彼らは気づいていなかった。

Photo:Oy Nordisk Film Ab
Photo:Oy Nordisk Film Ab

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グロいシーンが苦手な人はやめておこう

この映画のポスターを最初に見た時、題名からしても、私はスウェーデン映画なのかと最初は思った。鑑賞前は、期待をしすぎて、がっかりしたくないので、事前に情報はあまり調べない。予想以上に、変なシーンが多かったことにはびっくりした。肉片が飛ぶ光景などが苦手な方には、本作はおすすめしない。

私はノルウェーで鑑賞したのだが、映画館では「15歳制限」がついていた。悲劇、戦争、育児放棄、暴力、虐殺や性的描写があるホラー作品などに付き、12~15歳までは大人同伴なら鑑賞可能というカテゴリーだ。

私も、本来はホラー映画は悪夢を見るので避けるのだが、北欧各国で作品評価が高いこと、他の国が北欧の夏を舞台にすると、どういう世界観となるのか。その興味があり、ちょっとびくびくしながら見た。

Photo:Oy Nordisk Film Ab
Photo:Oy Nordisk Film Ab

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この映画、ホラー映画で肉片が飛ぶのだが、不思議な現象が観客席から起こる。ネタバレとなるので詳しくは書かないが、見る人がたまに笑い始めるのだ。

夜中になってもずっと明るい。北欧の夏を初めて体験するアメリカ人の驚きを、現地の人が笑うのは分かる。しかし、後半の異教徒による不気味な儀式のシーンでも、観客席からは笑いが起こっていた。

ノルウェーの大手新聞社の映画批評では、本作に対して、「時に滑稽(こっけい)」と評価しているものが、ちらほら。

カルチャーが違うと、笑いのツボも異なる。大爆笑している女性たちに、「おぉ、そんなに面白いか?」と私は「???」だった。館内には、なぜか女性がたくさんいた。

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Photo:Oy Nordisk Film Ab
Photo:Oy Nordisk Film Ab

夏至祭というのは各地で催されるし、私が住んでいるノルウェーでも、フィヨルド沿いで、花飾りを頭にかぶり、女性たちは白い服を纏い、真夏の明るい夜を祝う。それでも、隣国スウェーデンの夏至祭のほうが、さらに規模が大きく盛大なのは明らかだ。

スウェーデンの夏至祭は、だからこそ、「北欧の夏の夜の、素敵で不思議な現象」として、日本や国際メディアでも紹介されやすい。ポジティブに、だ。

だからこそ、プラスのイメージが強い夏至祭を、ホラーの舞台にしてしまったアリ・アスター監督の想像力と才能はすごい。監督は、2018年のデビュー作『ヘレディタリー/継承』で有名となった。

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失恋、カップルの価値観のすれ違いもテーマ

Photo:Oy Nordisk Film Ab
Photo:Oy Nordisk Film Ab

じわじわと気味の悪い展開、北欧の地での異教徒と、怖いだけじゃない。

本作では、失恋や別れ直前のカップルのすれ違いも描いている。

元カレとの失恋を引きずっている女性はすっきりすることもあるかもしれないが、うまくいっていない雰囲気があるカップルが一緒に見るには、あまりおすすめできないかも?

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日本では公開は未定のようだが、ホラー映画、異教徒、失恋、北欧スウェーデンというキーワードにピンと来る方は、どうぞ。

ただ、「ホラー映画」が好きな人だと、「これがホラー?」と拍子抜けすることもあるかもしれない。

本来の北欧の夏至祭とはどういうものなのか、ネットの画像検索で「北欧 夏至祭」、「sweden midsummer」などと下調べしてから見ると、監督が創り出した世界観がいかなる挑戦かが、わかるだろう。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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