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日本のPTAもかくありたい 「来ない人チェック」なんか要らない、ドイツのゆるゆる学校ボランティア

大塚玲子ライター
「子どもが楽しめればそれでいい。『誰々さん来なかったね』とか、いらないんです」

 新学期を前に、PTA活動が心配な保護者も多いでしょう。でも本来は、そんなに恐れるものではないのです。PTAは、あくまでボランティア(=自主的な活動)。日本人はよくPTAやボランティアを「義務」と誤解していますが、本当はもっとゆる~いやり方だってあるのです。

 今回は、本当の「自由意志」で、ゆるゆるな活動を行う、ドイツの保護者ボランティアの様子を紹介したいと思います。

*「誰が来たか」を確認しない

 お話を聞かせてもらったのは、東京都区内に住む尾木和子さんです。3年前、夫の転勤でドイツのデュッセルドルフに渡り、子どものひとりを現地の公立小学校に1年間通わせました。

 ドイツは移民が多い国ですが、その学校はとくに移民が多く、40か国以上の子どもたちが通っていたということです。

 ドイツの学校には「PTA」という組織はないのですが、学校の呼びかけで、保護者がボランティアに参加する機会は何度かあったそう。

 なかでも印象深かったのが「スクールフェスティバル」という催しです。このフェスティバルでは、保護者が各自料理を持ち寄るコーナーがあり、そのやり方に衝撃を受けたといいます。

 「事前に学校から配られる用紙には、こんな記入欄がありました。『食べ物をつくってきてくれるか?』『何をつくるか?』『(会場で)ボランティアできるか?』『もってくるのは前半/後半のどちらの時間帯?』、あとは、子どものクラスと名前を書くだけで、連絡先を書く欄はありませんでした。

 当日、会場に料理を持っていったら、受付もなければ、とりまとめする人もいません。その辺にいたボランティアの人に聞いたら、『適当に置いておいて』と言われただけ。名前すら聞かれませんでしたから、当然『ちゃんと持ってきたかどうかチェック』なんて、あり得ないわけです。

 ちなみに私は『何をつくるか?』という欄に『SUSHI(寿司)』と書いて出したのに、冷凍の枝豆を、解凍しがてら持っていきました。でももちろん、誰にも注意されたりはしませんでした(笑)」

 なんと、おおらかな! でも実は、これでいいのでしょう。会場には100品を超える大皿料理が並び、子どもも大人もたくさん集まって、大盛況だったそうです。

ボランティアの人は、空になった皿を新しいものと入れ替えたり、食洗器で洗ったりします(写真提供:尾木和子さん)
ボランティアの人は、空になった皿を新しいものと入れ替えたり、食洗器で洗ったりします(写真提供:尾木和子さん)

 「子どものためにやっているんだから、子どもが楽しめればそれでいい。『誰々さんが来なかったね!』とか、いらないんですよ。

 もし、大してお料理が集まらなかったとしても、『あぁ、今年はしょぼかったね!』でいいじゃないですか」

 つい笑ってしまいましたが、いやまったくその通りです。日本ではどうして、ボランティアをこんなふうに気楽にやれないのか? 不思議になってきます。

 「日本人は、こういうのを勝手に進化させていきますよね。『食中毒を考えて、何分以上は過熱しよう』とか、『アレルギーの子もいる、料理に卵を使った人は申し出てください』とか、なんとかかんとか……。もちろん、そのほうが安全でしょうけれど、それをやるから仕事が増えていくんですね。

 このスクールフェスティバルのときは、誰もそんなことは言いませんでした。食べる人の自己責任もあるんですね、『よくわからないから食べないでおく』とか。日本のやり方のほうが親切かもしれないけれど、みんなが納得していれば、こういうドイツみたいなやり方だってありなんですね」

 これも確かに、その通りです。日本文化に染まった筆者も、やはり料理の安全面は気になってしまいますが、もしみんなに「ボランティアなんだから、その程度でいい」というコンセンサスがあるなら、それはそれでいいと感じます。

*私の皿はどこへ

 フェスティバルの後、自分の料理の皿を回収したときも、びっくりしたといいます。

 尾木さんはこの日、別の部屋で子どもたちに折り紙を教えるボランティアをしていました。自分の担当が終わって、料理の会場をのぞいたところ、もうほとんどの人が帰ってしまっていて、自分の皿が見当たりません。

 「『私の枝豆を入れてきた皿はどこ?』ってその辺の人に聞いたら、『あ~、たぶん明日、玄関に置いてあるよ』って言われて。翌朝、学校の玄関に行ってみたら、お皿がいっぱい置いてあって、そこから『あ、あたしの』って持って帰ってきました。それでいい(笑)

 日本人だと『お皿をちゃんと持ち主に返さねば』とかいって、ボランティアの人が頑張ってしまうけど、玄関に全部バーンと置いておいて『自分のを取れ』で、いいんですね」

 お話を聞いているうちに、なんだかクラクラしてきてしまいました。わたしたちはPTAで、一体何をしてきたのか?  もしかすると、ほとんどが省ける仕事だった気がしてきました。

 「ご存知の通り、ドイツの人って、残業をしないんです。学童の先生も16時半になると、子どもたちと同時に帰っちゃうし。

 それでもドイツは、日本よりGDPは高いんですよ。それは、生産性が高いやり方をするのが上手だから。保護者ボランティアにも、それが表れているんでしょうね」

 日本ではいま「働き方改革」が話題ですが、こういった日常の部分から意識を変えてやることを省いていかないと、生産性を保つのは難しいように思えます。

(中央)折り紙を教える尾木さん。「フェスティバルでは、女子がひとりで行動しているのも、印象的でした。みんなで『次どこ行くー?』っていうのがないんですよ」(写真提供:尾木和子さん)
(中央)折り紙を教える尾木さん。「フェスティバルでは、女子がひとりで行動しているのも、印象的でした。みんなで『次どこ行くー?』っていうのがないんですよ」(写真提供:尾木和子さん)

*ボランティア=「自由意志」

 ドイツにいたとき、尾木さんは「ボランティアの概念が、日本と違うんだ」と感じたことが、何度もあったそうです。

 「たとえば、クラスの飾りつけのボランティアに行ったときは、終わるとみんな『バーイ』ってすぐ帰るんです。日本だと『のりやハサミをみんなで片付けなきゃ』ってなるけれど、このときに残ったのは、私ともうひとりだけ(笑)。

 『みんなすぐ帰っちゃうね(ひそひそ)』みたいなネガティブな感じはないし、先生も『すいませんね』みたいな風でなく、『ありがとー!』という感じ。残りたい人が残るだけで、本当に『ボランティア』で、『自由意志』なんです。

 ドイツでは、ボランティアを『フライヴィリヒ(Freiwillig)』っていうんですよ。フライヴィリヒは、まさに『自由意志』という意味。義務感じゃなくて、『自分が楽しむためにやる活動』なんだな、とすごく思いました」

 日本に戻って3年が経ち、「頭がだいぶ、日本人に戻ってきた」と言う尾木さんですが、「フライヴィリヒ」の精神は、いまも忘れていません。

 「この春は、区立小学校で卒対(小6で卒業関連の仕事をする係)をやったんですけれど、みんな『フライヴィリヒ』な人ばかりだったので、本当に楽しかったです。みんなでいろいろ話し合って、卒業アルバムも新しい試みをできたし、卒業を祝う会(謝恩会を改めた)もすごく盛り上がりました。

 でも、今回の卒対が『前例』になって『引き継がなきゃいけない』と思ったらプレッシャーになっちゃうから、来年の人には『過去にとらわれずに、自由に、おたのしみください!』って書き置きしてきました(笑)。これはあくまで『好き好んでやる話』ですよね。『やらなきゃ』って思ったら、いやになるだろうから」

 このほかにもたくさんドイツの学校や教育の話を聞かせてもらい、2時間のあいだ、筆者はうなりっぱなしでした。

 

 日本で同じことをしようとしても、難しい部分はあるでしょう。でも、真似できるところだって、じつはたくさんあるはずです。

 なかでも、日本のPTAでよく見られる「誰々さんが来なかったねチェック」は、すぐにでもなくしたいですし、なくせるはずだとも思います。

仮装で登場したのは、お世話になった先生でした(写真提供:尾木和子さん)
仮装で登場したのは、お世話になった先生でした(写真提供:尾木和子さん)
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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